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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第1章 死神公爵と我が栄光のチルちゃん軍

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第23話 私は間違っていた

「それでは明日も泉に行ってきますね。上手くいけば、明日には呪いを消せるかもしれません」


私は自信たっぷりに言ったのに、旦那様は頑なだ。

闇に隠れた顔を、ぴたりとこちらに向け、強い口調で私に言う。

「駄目だ。あの泉に行くことを禁ずる」


「どうしてですか?チルちゃん軍は強いですよ。勝てますよ。呪いなど消した方がいいでしょう?」


「それでもだ。万が一でもエルサが死ぬ可能性があるのなら、行かせる事は出来ない。おまえが死ぬくらいならば、私はこのまま一生呪いと共に過ごそう」


ええ!?何、その言葉。嬉しい。

照れもせず言い放たれた愛情に、自分の頬に手をやり照れ照れしていると、旦那様は次々と指示を飛ばし始めた。


「エルビス。二度とエルサから目を離すな。今夜からエルサの部屋の前と、窓の前に監視を立たせろ。エルサは私の言うことなど、聞く気がない。必ず、屋敷を抜け出してあの泉に向かおうとするはずだ。阻止しろ」


「はい!」


「ルイスもだ。エルサを二度と泉に行かせるな。何かあればすぐ警笛を吹け。エルサの言葉に惑わされるな。話し合いなどせず、すぐ警笛を吹け」


「はい!」


照れ照れから我に帰ると、厳しい監視体制が敷かれていた。

マズい。

でもまだ抜け出す方法はまだあるのだ、うふふ、と思っていると旦那様の顔がこちらに向いていた。


「何を考えている、エルサ。抜け出す方法か?頼むから、私の願いを聞いてくれ。もう二度とあの泉に行かないと約束してくれ」


良い声で懇願された。

困った。

だって私はあの泉にまた行くのだ。

行かないと約束すると、嘘になる。


「旦那様に嘘をつくのは嫌です」

困り果てて正直に言った。


「・・・何故、私を安心させてはくれないのだ」

悲しげな旦那様。


「安心はしていただくつもりです。呪いを倒して旦那様を呪いから解放して差し上げます。そうしたら旦那様は安心して暮らせるはずです」


「・・・強情だな」


「旦那様だって強情ですわ。私を泉に行かせてください」


「駄目だ。エルビス。ルイス。エルサを屋敷に連れて帰ってくれ。今夜から監視を必ずつけろ」


「はい!」

「はい!」


「エルサの顔を見てみろ。明日にも抜け出す顔をしている。くれぐれも用心しろ」


「はい!」

「はい!」


良い返事だ。

私にとっては良くないけれど。

まあ、なんとかなるし、なんとかするのだ。


それにしても、明日にも抜け出す顔ってどんな顔だろう。

両手を顔に当て考え込んでいると、三人がこちらを見ていた。


旦那様の顔は闇で見えないけれど、たぶん後の二人と同じ、胡散臭いものを見ている顔をしているに違いない。

そして私はそんな旦那様達を、明日にも抜け出す顔をして見つめ返しているのだ。

明日にも抜け出す顔が、どんな顔なのか分からないけれど。


部屋を出る時、壁にかけられた鏡で見た私の顔は、思ったよりも悪そうで、生き生きしていた。


なるほど、これが明日にも抜け出す顔か!


 ☆


旦那様を残し、塔を出て屋敷へ向かう。


前にはエルビス、後ろにはルイスという監視付きだ。

チルちゃん軍も私たちの周りを足早に付いてくる。

短い足で、タタタと走るのだ。可愛い。

月明かりのおかげで、足元はよく見えた。


いつもなら、しつこく話しかける私が黙り込んでいることに不安を覚えたのか、前を歩いていたエルビスが振り返り、

「奥様。公爵様の願いを聞いてください。公爵様は奥様の事を大切に思っているのです」と言った。


返事はせず、無言で歩く。

エルビスは気遣わしげに、何度も私を振り返ったけれど、私は何も言わなかった。


私は屋敷に着くまでの間に、この生真面目で旦那様思いのエルビスを言いくるめるつもりだった。

この屋敷の警備を取り仕切っているのは、エルビスらしかった。

エルビスを落として、屋敷を抜け出す手助けをさせるのだ。

説得に丁度良い場所に着くまで、何も話すつもりはなかった。

ザクザクという、三人の足音が響いていた。


旦那様の塔からは遠く離れて、屋敷までは後少しとなった時、屋敷から漏れ出た灯りが私の顔まで届いてきた。


私は立ち止まる。

勝負をかけるのは、ここなのだ。

屋敷に入れば邪魔が入る。

屋敷からの灯りが私の顔を照らすこの場所で、エルビスを言いくるめるつもりだった。


「どうなさいました、奥様」

エルビスは足を止め、振り返った。


私は今にも抜け出しそうな顔を引っ込め、決意に満ちた奥様の顔をしてエルビスと対峙する。

「エルビス。あなたが選ぶのよ」


「・・・何をですか?」

エルビスは注意深く返事をする。


「もちろん、旦那様の人生よ」


「・・・また、何を言い出すのです?」

警戒したようにエルビスは少し体を引いた。


「どちらが良いのかを聞いているのよ。エルビス。選びなさい。呪いがない旦那様の人生が良いのか、このまま呪われ続ける旦那様の人生が良いのか。あなたはどちらが良いの?どちらを選ぶの?」


「何を馬鹿な事を。呪いがない人生の方が良いに決まっているではありませんか!」


「おい、奥様!」と、ルイスが私を止めようとするけれど、そんなの無視だ。

私はエルビスをわざと怒らせたのだ。

説得はここからなのだ。


「あの塔には呪いが詰まっていたわ。あなたもルイスも、あそこに行く度に頭が痛くなり、気分が悪くなり、イライラしたのでしょう」


「そうだ。しかし、我々のそんな事は些細な事だ!公爵様は、六歳の頃から一度も泣き言も言わず、一人で戦っていらっしゃるのだ。我々の体調まで気にして。あんな呪いなど、ない方が良い!当たり前ではないか!!」


怒りで震えるエルビスに、

「もちろんよ」と、私は誠実な奥様の顔で、しっかりと頷いてみせる。


「では、思い出してみて。私が塔に出入りするようになってから、あの塔の中で、あなた達の頭は痛くなったかしら」


激しく上下していたエルビスの肩が、しばらくするとぴたりと止まった。

思い当たる事があるのだ。

当然だ。

我々は頑張ったのだ。

実績があるチルちゃん軍なのだ。


私は更に強くエルビスを見つめる。


「あの塔以外の場所でもいい。私がよく出入りする場所ならどこでもいいわ。思い出してちょうだい。最近、その場所で頭が痛くなった事があるかしら?気分が悪くなった事は?以前よりもイライラしなくなったと気づいているでしょ。どうしてだと思ったの?私が来たせいだと思った事はない?」


「しかし!」

遮るようにエルビスは叫び、片手で自分の口を覆うとまた「しかし」と呟いた。


もう少しだ。

「私は光の戦士と共にいるわ」

エルビスなら、あの絵本を知っているはずだ。


「何を馬鹿な事を。光の戦士など、絵本のお話でしょう」

ほらやっぱり知っていた。


「本当の事よ。光の戦士達はこの屋敷に来てから闇を倒し続けてきたわ。あの塔の中の闇もほとんど倒してしまったわ。よく考えてみて。私があの塔で、執務室にお茶を持って行ったでしょ。その後、あなたの頭痛は消えたはずよ。気分も良くなったでしょ。思い出してみて」


「し、しかし!」


「まだ信じられないと言うのなら、光の戦士の力を試させてちょうだい」

私は自信たっぷりに微笑んで見せた。

よし。ここまで話を持って来れた。あと少し。あともう少しエルビスを追い詰めるのだ。


「どうやって試すと言うのだ。泉に行く事は禁じられたはずだ」

エルビスは少し狼狽えている。

だからもう少し。あと少し。


「泉まで行かなくてもまだ呪いはあるわ。塔の中も、この屋敷の中も、呪いはほとんど消してしまったけれど、まだ私が入っていない部屋には、呪いが残っているはずよ。それは何処?光の戦士がその呪いを消してみせるわ。それで光の戦士の力が証明されるはずよ。さあ、考えてみて。呪いが残っているのは何処?」


「そんな事を言われても、私にはよく分からない」

エルビスは抵抗するように首を振った。


「分かるはずよ。その部屋に入れば、気持ちが落ち込み、頭痛がして、軽い眩暈がするの。何故かイライラして、怒りっぽくなる。そんな部屋があるはずよ。それは何処?」


その時、私は鍵のかかった倉庫や、あまり人の入らない寂しげな場所を想像していたのだ。

そんな場所の闇を消して見せて、チルちゃん軍の実力を証明すればいいと気軽に考えていた。


でもエルビスは、「それは・・・」と、思い詰めた声で言った後、「それは、私の部屋だ」と震える声で言ったのだ。


そう言われてハッとした。


そうだ。

この人は旦那様のシーツや毛布を持って、濃い闇の塔の上まで何度も行っていたのだ。

頭痛や眩暈に悩まされながら、旦那様に止められても、あの細く長い階段を何度も上がったのだ。

そして闇を纏って自分の部屋に帰り、闇を溜めていたのだ。

休息をとるべき自分の部屋に!

気分を落ち込ませ、イライラして怒りっぽくなりながらも、旦那様の為に塔に通っていたのだ。


私は間違っていた。


旦那様を救うことばかり考えて、なんとかエルビスを言いくるめようとしていたけれど、この人も早く救わなければいけない人だった。


そしてまたハッとして振り返る。


「な、なんだよ」

後ろに立っていたルイスが、驚いた顔で私を見ている。


「あなたも屋敷に部屋があるの?」


「あ、あるよ。そりゃ。だからなんだよ」


ルイスもあの塔に入っていたのなら、自分の部屋まで闇を持ち込んでいたはずだ。

そうだ。ルイス以外もだ。


「家族がいる人は通いなの?屋敷に部屋はないのかしら」

「急に何言い出すんだよ。まあ、着替える部屋くらいならあるけど、家族持ちは基本通いだな」


私の頭の中に、皆から聞いた求婚の言葉が渦巻いていく。

絶対に幸せにするだから結婚してください。君の側にいられれば幸せだ。結婚して欲しい。あの月が沈むまで何度だって言うよ君を愛してる結婚してくれ。毎年この日に花を送るよ。あんな男より僕を選んで!僕と結婚して!君は私の光だ。

全部覚えてる。

みんな、救わなきゃ!


「すぐに皆の部屋に案内してちょうだい!家族持ちの家にも案内してもらうわ。でもまずはエルビス!あなたの部屋よ!さあ!今すぐに!」


「落ち着け。何言ってんだよ、奥様。こんな夜中に男の部屋に案内しろって、マジかよ」


常識的な事を言われてまたハッとした。


屋敷からの灯りで、ルイスの呆れた顔がよく見えた。

エルビスも少し呆れている?

あれ?

私は色々失敗しちゃったかもしれない。

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