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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第1章 死神公爵と我が栄光のチルちゃん軍

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第20話 長いキス

旦那様は、訓練場までの長い道を走り続けた。


息はひどく乱れ、大きな体は汗で濡れていた。

それでも私を固く抱き上げ、落とさなかった。


私は旦那様の首にしがみついて、旦那様の呼吸の音を聞きながらずっと考えていた。

どうして、旦那様はこんなに必死になっているのだろう、と。


確かに私は旦那様のご両親が亡くなった場所にいたけれど、こんなに必死になるほどの事だろうか?


いつも私から離れて行こうとする旦那様の姿を思い出す。

でも、今はこんなに固く抱きしめてくれている。


まるで私の事をとても大切に思っているみたいだ。

本当にそうなら嬉しいけれど。


旦那様の髪から汗が跳ね、私の顔に飛びついてくる。

そんな事すら嬉しく思えた。

こんなに近くに旦那様がいるのだ。


幸せな気持ちで、旦那様の呼吸の音を聞きながら、旦那様に運ばれていった。


私は、いつの間にか、とても強く、旦那様の事を好きになっていたみたいだ。


 ☆


訓練場まで戻ってくると、旦那様は私を抱えたまま立ち止まり、地面に膝をついた。

追いついたチルちゃん軍が、パラパラと私達に駆け寄ると、丸々とした顔を月明かりに照らされながら、心配そうに見上げてくる。


旦那様は、荒い息を続けたまま、私を離そうとはしなかった。


「旦那様・・・。大丈夫ですか?」


そっと声をかけてみると、いきなり闇に隠れた顔を上げ、


「おまえは!!」

と、今まで聞いたこともないような大声で叫ばれた。


でも、叫んだ後、ハッとしたように顔を引くと、軽く首を振り、


「エルサ」と、名前を呼んでくれた。


「はい」

名前を呼ばれたので、ウキウキと返事をする。


「・・・こんな時でも、名前を呼ばれると嬉しいのか?」

「もちろんです」


旦那様は、私の肩の辺りに顔を埋め「はぁ・・・・・」と長いため息をついた。


そして、顔を上げ、低い良い声で問うてきた。


「何故、行ってはいけないと言われた場所に行ったのだ?」


「行く必要があったからです」


「・・・行く必要とはなんだ」


「呪いを消す為に、あそこに行く必要があったのです」


「呪いなど消せない」


「消せます。私達なら。任せてくださいと言ったでしょう?」


「・・・最初に会った時に、そんな事を言っていたな」


「ええ。言いました」


「私達と言うのは、エルサと、誰だ」


「チルちゃん軍です。光の戦士達です。とても強いのですよ」


「・・・あれは絵本の中の話だ。お伽話だ。光の戦士など、どこにもいない」


「いますよ。すぐ側に」


私はチルちゃん軍に手を伸ばした。


「ほら、ここに」


チルちゃん軍は、皆誇らしげに私の手に近づいてきて、ムチムチとした手を伸ばし、私の手に触れてきた。

可愛い。


「総勢十名です。私の魔力で育てたのです。みんなとても強い光の戦士なのです」


チルちゃん達の瞳が輝いている。

私の手を握る皆の力が強くなる。


「本気で言っているのか?」

それでも旦那様は疑い深く聞いてきた。

見えないのだから仕方がない。


「本気で言っているのですよ」

私は、ふふふと旦那様に笑いかけた。


「私達はここに来てから、ずっと闇を倒し続けてきました。旦那様だって気がついていたはずです。私が来てから、呼吸が楽になりませんでしたか?体も楽になっているはずです。世界が前よりも綺麗に見えていませんか?旦那様だけじゃなく、他の皆もです」


旦那様はしばらく黙り込んだ後、

「エルビスが言っていた。最近、塔に入っても楽に息が出来ると。以前は塔に入るとすぐに頭痛がし始め、長くいると吐き気や眩暈がしていたのに、今ではいくら塔にいても、そんな事がないと」


「そうでしょう、そうでしょう。もちろん光の戦士達が闇を倒したからなのです」


私が得意げに言うと「チルチルチル!」と歓声が上がる。

旦那様にもこの声が聞こえればいいのに。


「私達は頑張ったのですよ」

「・・・そうか」

「まだ信じられませんか?」

「分からない。しかし、エルサが来てから、私の毎日は、随分変わった。いや、変えられたと言うべきなのか」


旦那様は、そういうと、私をぎゅっと抱きしめた。


旦那様の呼吸は落ち着いていた。

でも、旦那様の心臓の音が伝わってくるのだ。

それがとても早くて、まるで私の事をとても好きみたいで、それで私の心臓まで、どんどん早くなっていく。


旦那様は私の耳元で、軽い怒り混じりの声で言った。

「引き返せと言うのに引き返さず妻になり、入るなと言うのに私の塔に入り込み、行くなというのに勝手に泉まで行ってしまう。おまえは、私の言う事など、まるで聞く気がないのだな」


そう言われてみれば、そうだ。でも。

「仕方がありません。私は旦那様の妻になりたかったし、旦那様の塔に入りたかったのです。旦那様の呪いを消すには、あの泉に行かなくてはいけませんでした」


旦那様の心臓の音がまた大きくなった気がした。


「何故だ。王命で私の元に来ただけなのだろう。私の呪いなど放っておいて、好きに生きれば良いではないか」


そう言われれば、そうだったのかもしれない。

どうして私はこんなに一生懸命になっているのだろう。

どうして。


旦那様の心臓の音を感じながら、しばらく考えてみた。


「最初は、呪いに興味があったのです」


「私の呪いに?」


「はい。昔から、光の戦士達と闇は倒すのが当たり前だと思って生きてきましたから、旦那様が呪われていると聞いた時、呪いとはどんなものなのか、気になったのです。それは闇と違うのかと。それで一度、呪いを見てみたいと思って、旦那様の所に来たのです」


「誰もが欲しがる公爵家の地位でも財産でもなく、人が恐れる呪いに興味があったのか」


「呪いなど見たことがありませんでしたから、見てみたかったのです。それに公爵家の地位や財産など、私にはあまりにも縁遠くて、興味も持てなかったのですよ」


「・・・ここに来るまで、どのような生活をしていたのだ?」


「領地の街中で、乳母だったマリーの家族と一緒に、小さな家で暮らしていました。マリーの旦那様は腕の良いパン職人でしたから、毎日美味しいパンを食べられるんです。素敵でしょ。父の屋敷にも毎日通って、家庭教師のサマンサ先生から、貴族としての教育も一通り受けました。毎日楽しかったです。もちろん光の戦士のチルちゃん達もずっと一緒です。一緒に領地中の闇を倒して回りました」


「エルサ。おまえは私の呪いを倒す為に、ここに来たのか」


「はい。そうです。それで旦那様に会って・・・」


「私に会って?」


私は旦那様に初めて会った時の事を思い出す。


「最初に旦那様を見た時、一人きりで、とてもポツンとして見えて、額から呪いが湧き出していて、それなのに引き返せなんて言っているし、倒せそうな呪いだからなんとか呪いから解放してあげたいと思ったのです。それに」


「それに?」


「それに、キスをしてくれたでしょ?」


「・・・ああ」


「あの時、とても幸せな気持ちになったのです。だから、お礼に出来るだけの事はしようと思ったのです」


「あれは儀式の口付けだ」


「でも嬉しかったのです。だって初めてのキスだったのですよ」


あの時の事を思い出して、旦那様に微笑みかけた。


そうしたら!


頭の後ろに旦那様の大きな手が差し込まれ、突然、強い、キスをされた。


びっくりした!


目を見開いて固まっていると、キスを終えた旦那様が、もう片方の手でそっと私の頬を撫で、そのままぎゅっと抱きしめられた。


びっくりした!


「だ、だ、旦那様は、私の事がお好きですか?」


恐る恐る聞いてみた。


旦那様は本当に困り果てたような深いため息をつくと、


「ああ。そのようだ」と言ったのだ!


びっくりした!


てっきり疎ましく思われていると思っていたのだ。

だって、旦那様のいう事を全然聞かなかったのだから。


「い、い、いつからですか?」


「さあ。いつからだろうか。おまえの事が頭から離れなくなったのは。エルサ。おまえは強引に私の塔に入り込み、そのまま私の心にも入り込んだみたいだ」


「ご、強引に?」


旦那様は、ふっ、と笑いをこぼし「強引に」と言い、それから長いキスをした。




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