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第2話 栄光のチルちゃん軍誕生!

チルちゃんが光の槍を取り出したのは、私が六歳になった頃の事だった。


いつものように朝ご飯のパンと目玉焼きを食べた後、チルちゃんに魔力を吸わせようと部屋の隅で指を差し出すと、チルちゃんが持つ、光る棒状の物に気が付いたのだ。


「それはなんなの?」

私が尋ねると、チルちゃんはちょっと誇らしげにそれを私に掲げて見せてくれた。


「槍?かしら。何処かで拾ってきたの?」

チルちゃんは、ぶんぶんと激しく首を横に振り、光の槍をくるくる回すと消してみせ、両手を勢いよく前に差し出し、光の槍を出してみせた。


「拾ったんじゃなくて、チルちゃんが出したの?」

こくこくと頷くチルちゃん。

「槍を出したってことは、何かと戦うの?」

また頷くチルちゃん。

「何と?」


首を傾げた私の前で、何か物言いたげにぴょんぴょんと飛び跳ねていたチルちゃんは、壁際に何かを見つけると、槍を掲げて走り出した。

そして壁際の澱んだところにあった不自然な闇を、ツンツンと槍でつついたのだ。


闇はほんの少し揺れた後、勢いよくチルちゃんに向かって膨らみ、チルちゃんはどすんと尻餅をついた。


泣きながら戻ってくるチルちゃん。

「よく分からないけど、負けたのね・・・」

うつむくチルちゃん。


そっと撫でてあげた後、指先を差し出すと、チルちゃんは泣きながら私の魔力をいつもより多めに吸った。

「・・・大きくなるのよ。そしたらきっと勝てるわ」

チルちゃんは泣きながら頷いた。


 ☆


それから、チルちゃんの戦いの日々が始まったのだ。

槍を持って闇に向かうチルちゃん。

負けるチルちゃん。

慰めて魔力を吸わせる私。


そんな日々が続いた後、手のひらに乗るくらいの大きさだったチルちゃんが、もう少し大きく、いつもより丸々としている気がした。

槍もいつもよりほんの少し長くなっている気がした。


あれ?気のせいかなとチルちゃんを眺めていたその日、闇に向かって突き刺したチルちゃんの槍が、闇を貫き通したのだ。

いつもは弾き返されていたのに!


光の槍が突き刺さった闇は、少し震え、消えていった。

チルちゃんは槍を持ったまま、しばらく呆然と立ちすくんでいた。

私だって同じだ。

チルちゃんの丸々とした後ろ姿を見つめながら、しばらく動く事ができなかった。


やがてゆっくりと振り返るチルちゃん。

口をぽかんと開け、私を見つめている。

「チ、チルちゃん。あなた勝ったのよ。チルちゃん勝ったのよ!」

私が叫ぶと目を大きく見開くチルちゃん。


ひざまずき、両手を差し出した私の胸に、勢いよく飛び込んできて「チルチルチル!」と号泣し始めた。


「おめでとうチルちゃん。おめでとう!」

感激して一緒に号泣する私に向かって、部屋の反対側で子供を抱いたマリーが「ねえ、さっきから何してるの?何の遊びなの、それ」と不思議そうに聞いてきたけど、私は気にする事なく、チルちゃんと初勝利を喜んだのだ。


それからのチルちゃんは勝つ事が増えていった。

マリーの家の中のちっちゃな闇くらいなら、負け知らずになってしまった。


この闇、というのは、私がつけた呼び名だけれど、これが何なのかは分からなかった。

闇もまた、チルちゃんと同じで、私以外には見えてないらしかった。


でも、家の中の闇が消えていくと、マリーが「最近、何だか体の調子がいいの」と言い出したり、マリーの無口な亭主も相変わらず喋りはしないけれど笑う事が多くなってきた。

マリーの子供達の顔も明るくなった気がする。

マリーの作る料理も美味しくなってる気がする!


多分、あの闇を倒すのは良い事なのだ。

戦いに向かうチルちゃんへの応援も力が入っていく。


 ☆


そして家中の闇を倒したチルちゃんが、家の外を指差した時、私はすぐに理解した。

「外の闇も倒すのね」

力強く頷くチルちゃん。


それまで私と一緒に外に出かけても、チルちゃんは決して外の闇と戦おうとはしなかった。

外の闇は、家の中の闇よりも濃くて大きいのだ。


家の外に出た時には、いつも私の影に隠れるようにして闇を恐ろしそうに見ていたチルちゃんが、その闇を倒すと言っているのだ。


「大きくなったのね」

その頃ちょうど七歳になった私は、子犬ほどの大きさになったチルちゃんをしゃがみ込んで撫でまくった後、

「じゃあ一緒に行きましょう」と立ち上がったのだ。


外に遊びに行くのだと勘違いした、マリーの子供達も「わーい」と喜んでついてきた。


「遊びに行くんじゃないのよ」と二人に行ったけれど、二人とも気にせず「わーい」と外に飛び出した。


大丈夫かしら。闇との戦いに巻き込まれたりしないかしら。


ほんの少し心配したけれど、家の軒先で「わーい」と遊ぶ子供達の横で、チルちゃんが闇に槍を突き刺すと、槍は弾き返され、その弾みでチルちゃんも弾き飛ばされ、泣きながら私の元に戻ってきたので、特に問題はなかった。


私はチルちゃんを慰めて、魔力をチューチュー吸わせてから、マリーの子供達と遊んだのだ。


  ☆


でも勝った!

チルちゃんは毎日外の闇に挑戦し、毎日泣きながら私の魔力を吸って、それを何度も繰り返して、やっと外の闇に勝ったのだ!


マリーの家の軒先にいた、顔馴染みの小さな闇だった。

目を輝かせて振り返ったチルちゃんに、

「おめでとう!やったわね!」と叫んでいると、一緒に遊んでいたマリーの子達に、

「どうしたの、エルサちゃん。どうして急におめでとうなんて言うの?」と不思議そうな顔をされたけれど、別にいいのだ。


そして、チルちゃんは、勝ったり負けたりしながら、少しずつ外の闇を倒していったのだけど、ある日ふといなくなったと思ったら、チルちゃんに良く似たものを連れて帰ってきた。


チルちゃんに良く似た姿をしていて、チルちゃんより小さくて、チルちゃんより痩せている。

「お、お友達を連れてきたの?」

尋ねると、チルちゃんは何かを訴えるような目で見つめてきた。


「何?その目は。何を言いたいの?まさかその子も育ててくださいと・・・」

チルちゃんは激しく頷いた。


ダメです。元いたところに置いてきなさい!と言おうかとも思ったけれど、チルちゃんの目は必死だし、チルちゃんのお友達は何だか今にも消えてしまいそうだったから言えなかった。


仕方ない。と指を差し出すと、恐る恐るといった感じで、チルちゃんはお友達と一緒に近づいてきた。


首を傾げるチルちゃん。

いいの?と聞いてきてるみたいだ。


「・・・いいわよ」と頷くと、チルちゃんはそっとお友達を私の方へ押し出した。

弱々しく私の指先に口をつけるチル友ちゃん。

チル友ちゃんは弱々しく、いつまでもいつまでも私の魔力を吸い続け、やがて魔力不足で私がクラっとした後に、ほんの少しふっくらとして艶やかになった顔をして、私の指先から口を離した。


心配そうに眺めていたチルちゃんが、ほっとした顔をして、次は自分だと嬉しそうに私の指先に近づいてきたけれど、「今日はもう無理」と指を引っ込めたら、悲壮な顔をしてしばらく立ちすくんでいた。

でも、本当に無理だから。


それから私はチルちゃんとチル友ちゃんに魔力を供給し続けた。

チル友ちゃんはやがてチルちゃんのように丸々として、光の剣を取り出せるようにもなった。

二人で戦うと、それまで倒せなかった少し濃い闇も倒せるようになっていった。


でも二人に魔力をあげる私は、魔力不足に悩まされた。


「ねえ、マリー。最近魔力不足でフラフラするんだけど、どうしたらいいと思う?」

マリーに聞いてみたけれど、

「んー。私は元々魔力がないから、よく分からないわ。とりあえず、いっぱいご飯を食べてみたらいいんじゃない?」

と、食事の量を増やしてくれた。

そして、ご飯をいっぱい食べると、本当に魔力も増えていった!

マリーすごい!


でも、魔力に余裕が出てくると、チルちゃんがまた申し訳なさそうな顔をして、二人目の仲間を連れてきた。

これもまた痩せて今にも消えそうだった。


「・・・いいわよ。吸って」

指を差し出す私。


私が十歳になる頃、チル友ちゃんは五人になった。

私はチルちゃん達の事を、チルちゃん軍と呼ぶようになっていた。


 ☆


そして私が十歳になってしばらく経った頃、いきなりお父様に呼び出された。





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