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第17話 誰が一番愛されているのか

「なあ、なあ、奥様。あれって、やっぱ、駆け引きってやつ?青い飴食べたのって、ワザとだよな。ワザと口青くして公爵様に見せたんだろ。すげーよ。あんた、マジすげーよ!詐欺師とかなれるよマジで!」


塔を出てから私の後ろでルイスが、マジマジうるさい。

おまけにルイスは私の気持ちをぐいぐいと逆撫でてくるのだ。


「俺、公爵様が笑ってる顔、マジで初めて見たけどさー、公爵様って、マジあんな顔して笑うんだな」


マジ頭にくる!

私が見えない旦那様の顔を、どうしてまたルイスなんかが!

あんな顔ってどんな顔よ!


「公爵様のあんな顔を見るとさ、やっぱ公爵様ってマジいい男だなって思うよなあ」


まだ言うの?

ねえ。私、今、喧嘩を売られている?マジで。

喧嘩を売られてるわよね。

売られたなら買ってもいいわよね。

ねえ、ねえ、ねえ、マジで!


振り返り、「ルイス!あなた、マジでね!」と言いかけたところで、


「奥様、マジなどと、公爵家のご婦人が、なんという言葉遣いをなさっているのですか!」と言う聞き慣れた女性の声が・・・。


慌てて辺りを見回すと、植え込みの陰に鮮やかな色の布を広げ、バスケットの準備をしていたローズがこちらを睨んでいた。


「ち、違うのよ。ローズ。違うの」

私はルイスに会うまで、マジなんて言った事は、マジで一度もなかったのだ。


「何が違うのですか!」

怒ってる。ローズは可愛いけれど怒ると怖いのだ。


救いを求めて、先程までマジマジ言っていたルイスを見たけれど、先程までとはまるで違う、頼りがいのある護衛風の顔をしたルイスが、頑なに私とは視線を合わせず立っているだけだった。


ねえ、酷くない?


ローズの側でうろついていた猫のパイまでも、悪そうな顔で私を見た後、これ見よがしにローズにスリスリしてみせる。


ルイスも猫のパイもローズ派なのだ。

ローズが絡めば、決して私の味方にはならない。


猫のパイなんて、ローズが、

「絶対に無理です。絶対に駄目です。そんな、公爵様の塔の中にあの大量のバスケットを持ち込んで、公爵様の目の前で奥様があれを全部食べているのを見ていただくなんて。そんな。そんな事、私には無理です!」

と言って旦那様の塔に入って来てくれないものだから、猫のパイも塔へは来ないのだ。


猫のパイは、あくまでローズに可愛がってもらう合間の、暇潰しとしてだけ、私の戦闘に参加している。


今も、私にお尻を向け、ローズを見上げながら尻尾をピンと立て、可愛い猫ちゃん風の声で

「にゃあん」

などと言っている。


この裏切り者達に、私は思い知らせてやらなくてはいけない。


私はローズに向かい、しおらしく謝罪した。


「ごめんなさい。ローズ。お腹が空いてしまったから、つい乱暴な言葉になってしまったのかもしれないわ。もう決してあんな言葉は使わない。約束する。だから、今日のバスケットの中身は何か教えてちょうだい。ね、ローズ」


そして私はローズ好みの、控えめで可愛い奥様風の微笑みを浮かべてみせた。


途端にローズが「まあ」と、嬉しそうに笑い出す。

私はローズの好みを完全に把握しているのだ。


「奥様ったら。ふふふ。仕方がありませんわね。もうあんな言葉遣いをしてはいけませんよ。では、こちらにどうぞ。今日は奥様のお好きなドーナッツがたっぷりと入っていますよ」


「まあ、素敵!あら、このクッションも初めて見るわ。なんて綺麗。私、こういった模様が大好きだわ」


「ふふふ。そうでございましょう。お屋敷に以前からあったものですが、奥様がお好きそうだと思いまして、お持ちしました」


「流石だわローズ!あなたの事も大好きよ」


「まあ、奥様ったら。ふふふ」


ふふん、どうよ、ルイス、そして猫のパイ。

ローズ派の中で、一番ローズに愛されているのは、この私だと思い知るがいいわ!


猫のパイが、苛立たしげな唸り声を、小さくあげた。


ふふん。


 ☆


おやつは全て美味しかった。

私はローズと楽しくお喋りをしたり、猫のパイやチルちゃん軍を眺めながら、ぺろっと食べた。


そして時々、塔の上に目をやった。


旦那様は見ているかしら。

見ていればいいのに。

またクスッと笑ってくれれば、いいのに。


塔を眺めていると、ローズが、

「この後はまた塔に戻られるのですか?」と聞いてきた。


「いいえ」と私は答える。


もう塔の闇は消したのだ。

全てではないし、また旦那様からこぼれ落ちているけれど、ほとんど消した。


旦那様の寝室で、飴をこっそり食べていたのがバレた後も、開き直った私は更に飴を口に入れながら、チルちゃん軍に魔力を渡し続けたのだ。


飴を食べた理由は正直に旦那様に話してある。


「光の戦士が戦うには、私の魔力が必要なのです。私は食事で魔力を作っています。飴でも少しは魔力が作れるのですよ。だから私は魔力が足らなくなってくると、飴を急いで食べるのです」


旦那様は少し黙り込んだ後、

「・・・魔力検査では、魔力がないとされたはずだが」と言った。


魔力検査?

何それ?

ああ!十歳の時にお父様に連れて行かれたあれかしら?

角砂糖が足らなかった時だ。


「あの時は、光の戦士に魔力を上げた直後で、私の魔力は残っていませんでしたから」


全て正直に話したけれど、旦那様は「・・・そうか」としか言わなかったので、信じたのか信じてないのか分からなかった。


光の戦士の事だって、旦那様はあまり信じてないのかもしれない。

夢を見るのはやめると言っていたから。


でも、旦那様が信じてなくても、光の戦士は私の近くにいつもいるのだ。

本当に光の戦士なのかは分からないけれど、闇を倒すチルちゃん軍は側にいる。

あの絵本の騎士とは違って、丸々とした子供の姿をしているけれど、きっと同じくらいに強いのだ。


「光の戦士がこの部屋の闇を全て倒すまで、この部屋から出ません。あと少しなんです」


と私が言った時も、旦那様は

「・・・そうか」

と言っただけだった。


あの時、旦那様は何を思っていたのだろう。

闇に隠れた顔が見られればいいのに。

そうすれば、何を考えているのか、もう少し分かるのに。


旦那様の寝室の全ての闇は、手持ちの飴を全て使って、チルちゃん軍が消し去った。


でも寝室に、旦那様の顔の闇と繋がる何かは見つからなかったのだ。

だから、私はもうあの塔ではなく、別の場所に行かなくてはいけない。



 ☆



ローズと別れ、ローズを追いかけ走っていく猫のパイを見送り、私はチルちゃん軍と一緒に旦那様の塔の横を通り過ぎた。


「何処に行くつもりですか、奥様」


私の後ろから付いてきていたルイスが、珍しく真面目な声で尋ねてきた。


「旦那様の訓練場よ」


きっと、あそこに旦那様の顔を隠す闇に繋がる何かがあるはずなのだ。

旦那様の塔にはなかったのだから、思い当たる場所はあそこしか残っていない。


「駄目です!」


ルイスは鋭く、そう言うと、突然走り出し、私の前に回り込んだ。

公爵様に派遣された護衛風の顔をして、ルイスは、あの場所へ続く道への入り口に立ち塞がった。

私の前を歩いていたチルちゃん軍が、不思議そうにルイスを見上げる。


「退きなさい、ルイス」


「駄目です」


「いいわ。それなら道じゃない場所から行くから」


「だ、駄目です!奥様!」


「じゃあ、退きなさいよ」


「だから、駄目なんです」


段々と情けない顔になっていくルイスが、ポケットから何かを取り出し、私に見せた。


「公爵様からこれを渡されました」


赤く塗られた木切れに見えた。


「何なの、それは」


「笛ですよ。これを吹けば、警備の者達が駆けつけます。公爵様にも聞こえれば、公爵様も駆けつけるでしょう」


「・・・どうしてそんな事をするの?」


ルイスは苛立たしげに私を睨むと、私の友達風ルイスに戻り、

「だって、あんたは、あそこに行こうとするだろ?それを止める為だよ!」と叫んだ。


「あなただって、公爵様だって、あそこに行ってるんでしょ?どうして私だけ行っちゃいけないの?」


「だって、あんた、あの奥に行くだろ。公爵様が行っちゃ駄目って言ってる場所に」


旦那様のお父様とお母様が亡くなっていたという場所だ。


「行くわよ」


そこへ行くつもりなのだ。

きっと、そこに何かがある。


「だーかーらー、駄目なんだよ!絶対にあそこに奥様を行かせるなって、公爵様に命令されてる。公爵様の命令は絶対だ。絶対に奥様を行かせない」


ルイスと睨み合っていると、笛も吹いていないのに、警備の者が数人、あちらこちらから走ってくる。


「どう言う事?」


「気づかなかったのか?この前、奥様があの場所に行こうとしてから、ずっと監視されていたんだよ。奥様をこの奥に行かないように、公爵様は屋敷中の者達に命令したんだ。その為の警備体制も引かれている。なあ、公爵様はあんたに死んでほしくないからやってんだぞ。分かるだろ!」


ルイスの叫びを聞きながら、なるほど、と思った。


監視や警備体制を潜り抜ければ、あそこに行けるのだ。


警備の者達が駆け寄って来るのを眺めながら、私はその方法を考え続けていた。

しばらく仕事が忙しく、頭が疲れていたので、続きを書くのが遅くなってしまいました。

あと、テレビCMを見て久しぶりにやった、にゃんこ大戦争が面白くて、書く時間がありませんでした。

あと、ついでに久しぶりにやったplants vs zombiesが面白くて! (以下略)


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