ご来光を見に行った。
やや長くなりました。
すみません、抜けてたセリフの部分を改稿しました。
ギル様の護衛騎士達、五人が冬の間に竜騎士の資格試験を受けに行くことになったらしい。
空路は障害物も無く、直線距離で行けるし、楽で早いですものね。
ギル様の側近の皆様は騎士としての基準は既に十分満たしているので、竜騎士用の試練と試験を乗り越えたらすぐ受かるだろうとの事。
私はティア様のお供で温泉。
温泉の美肌効果でとぅるとぅるの卵肌になる!
他はティア様が彫刻刀で板に彫り物をしていたので、下描きが終わっている物のお手伝いをしたりした。
手作りスタンプの為に彫っているのだという。
小学生の頃の図画工作を思い出して楽しかった!
* *
──そして時は流れ……年末となった。
前世で言えば大晦日となる。
ギル様の五人の護衛騎士達が試練と試験を合格して戻って来られた。
と言っても、まだ騎竜は持ってない。
運転免許は取ったけどまだ車は持ってない。
みたいな感じ。
「明日の新年のお祝い時に重なって、竜騎士試験合格おめでたいわね」と、ティア様が申された。
──たしかに。
* *
ライリーでも新年を祝う日の前夜祭は賑やかだった。
ティア様は年が変わる前に宝クジを完成させ、城内のみで安価で売るそうな。
私もお手伝いした手彫りのスタンプで作ったクジだ。
何の絵柄で当選するかは、新年になるまで分からない宝のクジ。
商品はお米だったり、肉だったり、コスメだったり、色々らしい。
その夜は、夜ふけまで城内のサロンにて宴は続いた。
ティア様は奥様に早く寝なさいと言われたので、ラナン卿を伴って早めにお部屋に戻られた。
結婚式前の大事な体なので、冬の間もコンディションを整えさせるのに気を使われているようだ。
領主様と奥様も早めにお部屋に戻られたので、ここは騎士様達の宴の場となった。
他の使用人は仕事してるか、ほとんど別の場所で楽しんでいる。
私も使用人ポジションのはずなのに、さっきまでティア様がいたせいか、まだこっちにいた。
私と同じ席にはリーゼ卿がいる。
「今宵のピザも美味しいですね〜〜」
「やはり、照り焼きが至高」
「唐揚げにレモンかけるか?」
「止めろぉ〜〜! それはそのままでいい!」
騎士様達は上機嫌でワインを飲んだり、ピザなどを美味しそうに食べていた。
戦勝パーティーの時より、明らかにリラックスしておられる。
「料理長が騎士様達にはピザやお肉料理が人気だと聞いたので、私も料理のお手伝いをしましたよ〜〜」
私もお料理ができるので、夕方には厨房で手伝っていたのだ。
「そうなんですか! お姫様の手料理なんて光栄です」
私の中身は庶民ですよ! お忘れですか、チャールズ卿!
「年の瀬ですねえ、私の故郷では、お山に登って、初日の出を見る風習のようなものがあるんですよ。
もちろん、登山が好きな人しか冬のお山になど登らないと思いますが」
「へえ、そうなんですね」
「山から見ればご来光って言って、縁起がいいみたいな感じなんです」
リーゼ卿は私のどうでもいい話に相槌をうってくれつつ、ナッツのサラダや唐揚げをつまんでいる。
宴の雰囲気に酔った私の、ポロリとこぼしたこの言葉、私のテーブル席の近くをたまたま通りかかった竜騎士のラインハート卿にも聞こえたのか、声をかけてくださった。
「山から日の出が見たいという話ですか?」
「そうですね、山に登る苦労がないので有れば、縁起がいいので〜〜」
「私のワイバーンでなら空路で登山の苦労なく、頂上に行けますから、乗せて連れて行って差し上げましょう」
ふぁっ!?
「え!?」
「準備が出来たら呼んでください」
え!? 話が早すぎって言うか、騎士様の判断が早すぎる!
「あ、冬物のコートや手袋は、お持ちでないなら借りられますよ。
お嬢様が使用人の為にレンタル衣装をやっているので」
リーゼ卿の情報にありがたいと思いつつも、ラインハート卿の言葉は、連れて行きましょうか? の疑問系ではなく、「連れて行って差し上げましょう」って事だし、今更もう断れない雰囲気よね!?
わざわざご親切でこの寒い中、連れて行ってくれるとおっしゃるのに、やっぱりいいです!
とか断るのは失礼だもの!
それに、竜に乗って空を飛ぶ機会など、そうそう無い。
ここは……お言葉に甘えよう。
かなり寒そうだけど、お空デートって凄いエキサイティングじゃない?
覚悟を決めよう。
「あ! 年が変わった!」
騎士様がサロンの壁の時計を見て、声をあげた。
「新年おめでとう!」
「「「おめでとう!」」」
「今年もよろしく!!」
「おう!」
「ワイン追加!」
騎士様達の宴会はまだ続くようだ。
「はい! ただいま!」
メイドのエリーさんが、駆けて来た。
*
結局、レンタルコートと手袋を借りて、私はラインハート卿に声をかけた。
そしてイケメン騎士様のエスコートでついにワイバーンに騎乗!!
初体験!! めっちゃ寒い! かと思ったら、風の魔法で守られた!
星空がとても綺麗〜〜!!
冬の空気は……とても澄んでいる。
真冬の星空の中をワイバーンで飛んでいるのに、私は風の結界で守られてるし、寒さに凍えたりはしないどころか、私が前で、ラインハート卿が私を支える形で密着して後ろに同乗している為に、じんわり背中が温かい。
しかもラインハート卿もすごいイケメンなのでドキドキする。
ギル様の側近もティア様の側近も、顔で選ばれたのか? ってくらい顔が良い人ばかりで凄い。
いえ、基本的にギル様の騎士は実力で選ばれてるはず。
声フェチらしいティア様は、男性騎士は声で選んだそうだけど、それもある意味凄い。
自由に生きてる感がロック! 尊敬!
「着きましたよ。お手をどうぞ」
早! ワイバーンの飛行早い!
ラインハート卿は紳士なので、竜に乗る時も、降りる時も紳士的に手を貸して下さった。
私は真っ白い雪の上に降り立った。
近くの山ではあるが、それなりに高い。
見晴らしが良い。
薄闇の中、ラインハート様の魔法のブレスレットの光に照らされた雪化粧をした山の景色は美しい。
日本の富士山みたいにご来光を見に、人が沢山いたりはしない。
シン……と、してて二人きりだ。
何か話さないと、間が持たない!
「わあ〜〜、木々も雪を被っていますね」
「はい、もうじき夜が明けます。借りて来た記録のクリスタルで撮影もしておきましょう」
ラインハート卿はそう言って、首から下げた水晶玉を握った。
「わあー、日が昇っていきます!」
今年はいい事が沢山ありますように……!!
「新年の朝陽を浴びるのは清々しい気分になりますね」
「ええ。
私の前世の故郷でも初日の出を見ると縁起が良いと言うか、年神様にその年の豊作や幸せを祈る風習があったんです」
「リナ嬢、と、お呼びすれば良いのでしょうか?」
「ええと、呼び捨てで構いません、私はティア様の下僕で、メイドみたいな物ですし。
前世は元から庶民、平民ですし」
「……では、リナさん、そろそろお腹空きませんか?」
「えっと、少し……」
「干し肉とチョコレートがあります、どちらが良いですか?」
「え、チョコ……」
「ははは、そうですよね。はい、どうぞ」
「わあ、本当にチョコあるんですね! ……凄い、美味しい!」
リナは美味しそうに包み紙を開いてチョコを食べていて、ラインハート卿は干し肉を齧っていた。 ワイルド。
「チョコはライリーでしか見ませんよ、他で見たらここから買い付けた物だと思います」
「私、ライリーに来れて良かったです」
* * * *
新年の朝。
「ティア様、新年、明けましておめでとうございます」
「……ん。おは……おめでとう、ユリ……いえ、リナ、朝、早いのね」
ティア様は眠そうに目を擦り、天蓋付きベッドから上体を起こした。
私の秘密は護衛騎士には話したし、ティア様は私を愛称でリナと呼ぶ事にした。
ティア様は後で「しまった! リナルドとリナでリナリナになってしまった!」
とか、言っておられたけど。
大丈夫、よ、妖精と似た呼び名でも気にしません。
「朝日、御来光が見たいって昨夜宴席で呟いたら、竜騎士様が近くの山頂に連れて行って下さったのです!!」
「え、私が寝てるうちに、そんな面白そうなイベントを!?」
ティア様は重大なイベントを見逃したみたいなお顔をされた。
「あ、騎士様がギルバート様のペンダント型の記録のクリスタルをお借りして、ご来光を録画してくださいましたよ。
ライリーは便利で素敵な物が多くて良いですね」
「や、やるじゃない。後で記録をコピーさせてね。
それで、リナを連れて行ってくれた親切な竜騎士はどなた?」
「確かラインハート卿だとおっしゃってました」
見た目はヤクザの若頭のようなのに、とても親切な方でした。
「ああ、エイデン卿を鰻獲りに連れて行ってさしあげた親切な騎士と同じね」
鰻!?
「え!? ティア様、今、鰻と言いました!? 鰻いるんですか!?」
「いるわよ、古代ローマ人だって鰻を食べていたから、そう不思議でも無いと思うけど」
「日本で食べていたような美味しい鰻のタレはあるのですか?」
「私が作ったから、あるわ、醤油もあるし、お米も」
「神!! 醤油とお米まで!」
「昨夜は宴席にお米は出てなかったのかしら」
「昨夜は美味しいピザや肉料理とお野菜とナッツのサラダなどでした。
でも美味しいピザが食べられて嬉しかったです!」
真っ白い妖精のリナルド氏がベッドにやって来た。
ぬいぐるみなのに自分でも一応動けるらしい。
流石妖精。不思議パワー。
『あけおめ〜。ティア、祭壇に何か届いてるよ』
「え!? ラナンにリソース突っ込んだからもう無いと思っていたのに!?」
『神様は気まぐれなんだよ』
ん? 何のお話?
「ティア様、神様がどうされたんですか?」
「神様、何故かたまにうちに物を下さるの」
「は!?」
「主に何かした時のご褒美なのだけど……」
え!?
神の使徒様ってプレゼントを貰えたりするものなのですか!?
凄すぎ……!
ひとまずティア様は祭壇の前へ向かうそうなので、私もお供した。
「そうですか、こちらの紙の……巻物ですか?」
私も神様からの贈り物とやらはとても気になるので、巻物に注目した。
ティア様は紐で縛られていた巻物を開いた。
「エテルニテの地図って書いてあるわ」
そこはギルバート様が王から比較的最近、賜った領地らしい。
『星印の所を見てごらん』
喋るエゾモモンガ風のぬいぐるみ、妖精のリナルド氏はそう促した。
「ここにバナナの木って書いてある!! あ、こっちはバニラ!」
ティア様は起き抜けだけど、興奮して、すっかり目が覚めたようだ。
『そこでまた歌えばバナナの木やバニラの木が復活するらしい』
「いずれバナナが食べられて、バニラビーンズも取れるって事!?」
『そうなる』
凄い! 宝の地図だ!
なんで神様がそんなのを人間にくれるのか分からないけど!
あ、ティア様が可愛いから!?
「よく分からないけど、おめでとうございます!」
とにかく推しが嬉しそうなのだ! 良かった!
「更にこっちのは、えーと、ガラスダンジョンと重曹ダンジョンのありかって書いてあるわ!
硝石とかがあるのかしら?」
『行けば分かると思うよ』
「そうね!」
「あ、ティア様、地図ですが、海の方にも何か魚の絵と文字がありますよ」
「えー、どれどれ? カツオ……カツオ!!」
ん? これはもしや……
「釣れたら、頑張れば鰹節も作れるって事でしょうか?」
「そうね、美味しい出汁が作れそうね!」
ティア様が本当に嬉しそうに笑うので、私もとても嬉しくなった。
「あ! これから両親に新年の挨拶をしたら、一緒にリナのご来光デート映像を見たいのだけど、良いかしら!?」
「え!? デートとかじゃないですよ! ただの、ご来光見物ですよ!」
──内心は、私の内心はこっそりとデート気分だったけど!
ラインハート卿的には、きっとただの親切心だったと思います!