黒髪眼鏡イケメンと魔法訓練
私達はゲースリの侵略攻撃に備えて、戦力補充の為、転移陣で騎士の多いライリーに一旦戻った。
私はライリーのお城の廊下でキョロキョロと周囲を見渡した。
魔法使いっぽい人はいないかしら? と。
うーん、慌ただしく廊下を行き交う騎士やメイドや執事はそれなりにいるけど……
「リリアーナ様、いかがなさいました?」
ティア様の黒髪のイケメン護衛騎士さんが親切にも声をかけて下さった。
こっちでは眼鏡は高級な物で、かけてる人はほとんど見ないけど、この方は珍しく眼鏡をかけている知的な雰囲気の有る人だ。
「ええと、私、今度ティア様のお手伝いで、歌を拡散するのに風の魔法を使う事になったのですが、一体どうすれば良いのかと、私には実践経験がなくて、魔法使いの方がいたら指導していただけたらと」
「ああ、私で良ければお教えします。風の魔法スキル持ちなので」
「ありがとうございます、ええと……」
あなた様のお名前は何て?
「失礼、申し遅れました、我が名はカーティス。カーティスとお呼び下さい」
「はい、カーティス様ですね、よろしくお願い致します」
「訓練の為に、少しの間、城外へ参りましょう」
「はい」
私達の近くに美しい女騎士が通りかかった。
「あ、ラナン殿! 魔法訓練の為にリリアーナ様を城外に連れて行くと、我が君にお伝え願いますか!?」
「はい! 確かに伝えます!」
「わ、とても綺麗な女騎士様ですね」
亜麻色の髪の美少女騎士だ。
「はい、ギルバート様を除けばセレスティアナ様に一番近しい騎士です」
へー! 信頼されているんだろうな、良いな! 私も信頼されたい!
その為にもスキルを使いこなしたい!
城の外へ向かう。
しかも馬で二人乗りである! デートみたい! 訓練だけど!
「いいですか、リリアーナ様、馬で走っている間は喋らないで下さい、舌を噛みますので」
「はい!」
城外へ出た。
ライリーのお城は丘の上に有る。
少し下った所に有る林の入り口付近に来た。
木々の下には落ち葉の絨毯。秋の風景である。
「リリアーナ様、あそこに落ち葉が見えますね?」
「はい、沢山見えます」
「風で歌声を拡散するお手伝いという事で、あの落ち葉を移動させてみましょう」
「ぐ、具体的にどのように?」
「あの落ち葉を視界に入れ、風よ、巻き上がれと、脳内で命じるか、言の葉に乗せて、風で葉が飛んで行くイメージをするんです。精霊が望みを汲み取ってそのように動かしてくれます」
「脳内で命じてイメージするだけで良いのですか?」
「そうです、大事なのはイメージする力です」
「やってみます」
「風よ! 木の葉を運べ、舞い上がれ!!」
ふわりと風がまき起こり、木の葉を運んだ。
やった!!
「お上手です、さらにもっと遠くまで運ぶイメージを!」
「はい! 風よ! もっと、もっと遠くまで!」
さらに強い風が吹き、木の葉を遠くまで運んで行った。
「良く出来ました。その要領でその時がきたら、お嬢様の歌声を遠くまで運びましょう」
わりとあっさりできたのは、元からリリアーナの魔力量が多いとか、優秀だったとか、そういう理由かしら?
「ともかく、これでティア様のお手伝いが出来そうで嬉しいです!
カーティス様! ご指導ありがとうございました!」
「いえいえ、これしきの事」
「ところであの、魔法訓練と関係ない話で恐縮ですが、眼鏡されてる方って、珍しいですね?」
インテリ風がカッコいいので、ちょっと気になった。
「はい、この眼鏡はダンジョンで入手した鑑定鏡のフレームを加工して使っています」
「わあ! ダンジョン産! ん? 鑑定鏡?
視力補助の物では無いのですか?」
「いいえ、危険な毒物や呪物などがあったらすぐに見抜けるようにかけているだけで、視力は悪くありません」
「そうだったんですね!」
なるほど、便利な物が有るのね。
「では、城へ戻りましょう。ゲースリの侵攻が有るという事で皆、準備が有りますからね」
「はい、お忙しいなか、お付き合い下さってありがとうございます!」
城に戻った。
「お帰りなさい、ユリナ。騎士と一緒に馬で城外に出たとか聞いたわ。
騎乗服、あげておけば良かったわね」
ティア様、本日もお優しい!
「え、あ、急いでいたものですから、でもありがとうございます!」
「今度、貴女用に用意しておくわね」
「ありがとうございます。ズボンがあると動きやすいので、助かります。が、中古とかで良いですので」
「そうなの?
でも中古の方が気兼ねなく汚せるっていうのは確かにあるわね」
ティア様の中には私と同じく庶民感覚がお有りになるようで、親しみも持てる。
好き!
「明日には浄化の為に準備を完了させてヴィジナードへ向かうわ、今夜はゆっくり休んでね」
『この世界では戦争などで、死者も多く、また多くの魔物の血で大地が穢されると、作物の実りもとても悪くなったりするから、特別な浄化が必要になる。
その浄化を歌にて出来る特殊能力者が、ティアなんだ』
「リナルド! とラナン。またリナルドがどこぞで日向ぼっこをしていたのを見つけて連れて来てくれたのね」
「はい、我が君」
美しい女騎士のラナン様に抱っこされて登場したのは、喋るエゾモモンガのぬいぐるみ!
「えっと、ティア様がガチで尊いお方なのは理解しました!」
「え!? な、中身は、そんな、たいしたやつじゃないので……」
ティア様は謙遜をなさる。
「ともかく、隣国の為に色々とありがとうございます。
よろしくお願いします」
ティア様はラナン様からリナルドを引き取ってから、私の方を見つめ、慈愛に満ちた美しい笑顔を見せて下さった。
尊い!! 美しい!!