花に呼ばれる人。
私は朝餐時、貴族用の食堂でメイドとして、その場に控えていた。
ご家族でお食事の最中に、ティア様は突如思い出したかのように皆に問いかけた。
「そう言えば、ウィルの誕生日パーティーに、あの商人の娘宛に紹介状を送った人がこの中にいますか?」
「私ではないわ」
辺境伯の奥様であるシルヴィア様はきっぱりと断言した。
「私ではない」
ギル様も違うと仰せだ。
「商人の娘って誰?」
そもそもウィル坊ちゃまはミリアン嬢を認識すらしていないようだ。
ヤギをくれた人ですよ!
「シルクレラ商会の娘なら、城の食材の搬入に来たのだろう。
贈り物にシルクやヤギなどを持って来ていたし、断る必要も無いと思ったが、何か問題があったのか?
城に入れたならここの者に対して悪意は無いはず」
辺境伯が娘であるティア様の妙な態度に首を傾げている。
「悪意……ではなく、あるとしたら恋慕の情の類いなんでしょうね。今の所、恋敵がどこの誰かも分かっていないのでしょうし」
「ティア? 何の話だ?
あのミリアンと言う商人の娘が誰を慕っていると?」
辺境伯は何か勘違いしてギル様の様子を伺っている。
娘さんは浮気心で嫉妬とかしてませんよ!
「ミリアンはおそらく私の護衛騎士を慕っているのかと思われます」
「……ティアは自分の騎士を未婚で身軽な者から選んだはずだな、誰かを置いて来るのは申し訳ないからと、未婚なのに何か問題があるのか?」
「カーティスの方に既に他に気にかけている女性がいるようなのです」
あ、カーティス様の実名出ちゃった。
「そうなのか、ティアはそちらの女性の味方という訳か?」
「そうです。カーティスは女性に家紋の図柄入りのリボンを贈っているので、その子と上手くいけばいいなと思っています」
え!? 百合のリボン!? 私!? やっぱり私なの!?
偶然ではなくて!?
私は今日もメイド服が濃紺なのでリボンを合わせて髪に飾ってある。
シルヴィア様がチラッと私を見た。
う……! リボンを見ているのかしら?
「とにかく、応援しているのなら、お見合いの席でも設けてやったらどうだ?」
「それじゃわざとらしすぎてロマンがないじゃないですか」
……え!? 辺境伯! お見合いなんて、今の私の身分では無理です!
王女でも逆に身分が高すぎる可能性はあったけど。
「わざとらしいって……部下の恋路なら主人が場を設けてやるのが一番スムーズに行くはずだぞ」
「私は個人的にロマンとか雰囲気重視派なんです」
「派って……」
辺境伯はティア様のロマン主義に呆れてしまった。
でも私もお見合いでゴリ押しされると勘違いだった場合、気まずいと思うので……。
「それで、つまりティアは、目障りだから出入りの商人を変えて欲しいのかしら?」
凄く言いにくい事をズバリと聞いてくるシルヴィア様!
でも醜聞やスキャンダルには敏感な高位貴族の夫人らしいとも言える。
「今の所まだ彼女に悪意は無いようですので、そこまでは……。ちょっと気になっただけです」
「そうなの、業者を変えて欲しいならはっきり言いなさいね」
「はい」
「それより、エテルニテ付近の海に海賊が出たそうじゃないか」
護衛騎士の恋話に興味が無い辺境伯は海賊の話題を振ったみたい。
でも正直ほっとした。
「私の方で、早急に巡視船の用意をしております」
ギル様も忙しいわね。
「ギルバート様、娘の安全の為にもよろしくお願いします」
うん、うん、シルヴィア様も心配ですよね!
「もちろんです。エテルニテには竜騎士も多いので、今後は海の方も巡回します」
海賊の話題になって、ライリーとエテルニテ領主達の朝餐は終わった。
*
石造りのライリーのお城の廊下を歩くティア様の背中に、私はそっと話しかけた。
「ティア様、本日のご予定は?」
「ひまわり畑に行きます」
「わあ! 素敵ですね! どこにあるのですか?」
「他領のお茶会に呼ばれているのだけど、ひまわり畑があるらしいので、招待に応じる事にしたの」
貴族達から招待状は山ほど来てるのに、なかなかどこに行くか決めてなかったティア様が!
「セレスティアナを自分の領地に招くなら花だと噂になってるらしい。りんごの花だのオルタンシアだの」
ギル様がこうなった経緯を教えて下さった。
「お花は綺麗ですものね」
「次のお茶会も美しいスイレンの咲く池を持つお屋敷の庭園だとか言っていたな」
「でもお花に釣られて出向くのは私だけではありませんからね」
少し照れている様子のティア様だった。可愛い。




