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何故か異世界転移したら、悲運の王女様の中にいた。〜プロローグ〜

新連載です。

ハードな出だしではありますが、そのうちほのぼの多めの日常系になる予定です。

 美園ユリナ。それが前世の私の名前。


 日本で家族経営のカフェ店員をやってたわりと平凡な女だったのに、運悪く

 見知らぬ通り魔に刺殺された。


 そして気がつけばヴィジナード国王女、リリアーナの体の中にいた。

 白百合のように可憐で、銀髪に青い瞳の麗しき姫。


 *  *  *


「リリアーナ姫! じきここにも魔物が来るでしょう。

早くお逃げ下さい、私が時間を稼ぎます!」


「乳母!」

「早く隠し通路に! カイン様、リリアーナ様をお願いいたします!」

「分かった! 姉様早く!」


 * *


 突然の魔物の軍勢の襲撃により、ヴィジナードの王都が陥落。

 世は終末の気配を漂わせていた。


 リリアーナは城から脱出して生き延びて欲しいと、乳母の願い通りに、弟のカイン王子とメイド一人と騎士二人と共に抜け穴を使って脱出する為、山に出た。


 が、抜け道の出口のある山中にも、運悪く魔物がいた。

 コボルトといわれる、犬のような、狼のような頭部を持つ、魔物が数匹。


「くそ! 魔物め! ここにもいたか!」

「殿下! 王女殿下と共にお下がりください! ここは我ら騎士がお守りします!」

「姉様の事は、僕が守る!」

「だめよ! カイン! 私は良いから貴方こそお逃げなさい!」


 * *


 騎士二人と、健気な弟の王子が、リリアーナを守る為、魔物と戦って亡くなった。

 壮絶な死闘を繰り広げたが、魔物の敵が増えた為、騎士二人と王子一人では、相打ちが精一杯だった。


 * *


「──ああ、どうしてこんな事に、なぜ、この世界は、こんなにも、過酷な……お父様、お母様……カイン……私も、もうすぐ……そちらに……」


 * *


 いや、ショッキング過ぎる。

 なんだこのジェットコースター並みの人生は。


 体の持ち主のリリアーナは多分、身内の死を目の当たりにしてショック死した。

 弟も奮戦したのに、美人薄命って本当なのね……。

 そこまでの記憶が、体に、脳に残っていた。


 誰か助けて欲しい。

 何で通り魔に刺された挙句に、気が付けば何故か異世界で、今にも滅亡しそうな王国の王女様になってるの。


 心細くて、私もショック死しそうだ。

 でも、私まで簡単に諦めたら、このリリアーナの為に命をかけた乳母と弟王子が浮かばれないのでは。

 器だけで中身が別人ではあるんだけど。


 リリアーナのお顔はそれは清楚可憐な美姫だ。

 

 リリアーナを欲する貴族の男達が決闘して死者を出すレベル。

 おかげでリリアーナ本人は男性恐怖症になったらしい。

 何やってんの、男達。怯えちゃってて嫁にする所ではないじゃないの。


 とにかく、自分がこんな訳の分からない世界に飛ばされたのだし、他にも似た境遇の、地球から来た異世界転移か異世界転生の人もいるかもしれない!


 私は探しに行く事にした。


 地球人の痕跡を。同志を。


 一緒に隠し通路に逃げたメイドのソフィーと共に、ほとぼりが冷めた頃合いに、また隠し通路からあちこち崩壊した城に戻って、生きる為に宝物庫と生存者の確認に来るという名目で、私は地球人の痕跡を探す。


「姫様、瓦礫が多いので、足元に気を付けて下さい」


 中身庶民なのに姫様と言われるのに慣れない。

 でもこの状況で中身別人ですって言ったら、更に混乱しかねない。


「ええ、でも……喉が渇いたわ」

「姫様、城内にはまだ魔物の残党がいるかもしれません、静かに、こっそり裏庭の井戸へ行きましょう」


 水を求めて井戸を見つけた。手押しポンプがある。……あった。

 ザワリと鳥肌が立った。


「今、水をお汲みいたします。あ、コップがありませんでした!」

「先に手を洗って、もう、手から飲むから良いわ」


 私は震える手の平で水を掬って飲んだ。

 メイドのソフィーも同じ様にして水を飲んだ。

 コップを持ってないのだから、行儀が悪いとか言ってられない。


「このポンプ少し前まで、数年前まで無かったわよね?」


 と、リリアーナの体に、脳に残る記憶が告げる。


「ええ、ポンプは隣国グランジェルドから渡って来ました、4年前くらいでしょうか」


 ソフィーの証言でもそうだった。


「どの領地から販売されたか、分かるかしら?」

「それはかの有名な、ドラゴンスレイヤーが領主をされている……確か、えーと、ライリーでしたか」


 ……ライリー!! 覚えた!



「さあ姫様、お次は宝物庫へ参りましょう。

街に出た時に、何か食べ物を買えるように」

「え、ええ、分かったわ」


 なんだか火事場泥棒のようだけど、リリアーナはこの国、この城の生き残りの王女なのだし、持って行っても良いはず。

 中身別人なんだけど。


「武器もあります。 私は槍を、姫様も念の為にこの短剣を」

「ありがとう」


 宝石の装飾の凄い短剣を渡された。


「あ! 良いものが有ります! 亜空間魔法収納の布です! 

これに宝石などを入るだけ入れていきましょう!」

「魔法収納……」


大きな風呂敷のような濃紺の布に魔法陣が描かれている。

ソフィーはとにかく限界まで価値ありそうなお宝を詰め込んだ。

そして、収納が終わると、その布を隠し持つように言った。

「姫様、お袖の下の腕か太ももにでもこの布を巻き付けて隠して下さい。

大事な姫様の、城の財産でございます」


「わ、分かったわ!」


 私は布を見つかりにくそうな太ももにベルトと共に巻き付けた。


「この外套も被りましょう。姫様は美しいのでヤケになった暴徒に見つかったら、襲われないとも限りません」


「え、ええ」


 私はフード付きの外套を受け取ってそれを被った。



 次に、キッチン、厨房だ。


「厨房に行きたいわ」

「そうですね、何か食べ物も残っていれば良いのですが」


 仮に私と同じ日本人がいたら、それなりに食にこだわると予想を立てた。

 それっぽい道具があるかもしれない。

 ソフィーはリリアーナが空腹のせいで厨房へ行きたがっていると勘違いをしているけど。


 城内の廊下に倒れてる騎士や使用人や魔物の死体に怯えながらも、私とメイドは厨房に着いた。


「瓦礫が……邪魔だけど、何か……」

「あ、姫様! パンがあります! まだ食べられそうです!」


 ソフィーがパンを見つけたようだけど、私は違う物に目が釘付けになった。

 崩れた棚の側に転がっていた、見覚えのある、これは……


「ハンドミキサー!」

「姫様、ミキサーは食べられませんよ」


 それはわかってる!


「あ! こっちに、瓦礫の下に、これ、挽き肉を作る機械では!?

ちょっとひしゃげてるけど、あ、なんか刻印が有る!

ねえ、この刻印は……紋章! 見て! この紋章が分かる!?」


 ソフィーは私の様子にやや引きながらも、確認してくれた。


「……槍と……盾と、羽根。どうやらライリーの家紋の様ですね」

「やっぱりライリー!! ポンプもライリー!!」

「ひ、姫様、ライリーがどうしたと言うのですか?

それは今、大事な事ですか?」

「少なくとも、今の私にとっては大事よ! 希望の星!」


「はあ? それよりも、食べ物を」

「ええ、分かったわ、探すわ。あ、そこに、ジャガイモじゃない!?」


 指差した方向に箱があって、蓋が少しずれていて、ジャガイモが見えた。


「え! あ、本当ですね」

ソフィーは箱の蓋を持ち上げて喜んだ。


「バターとチーズもあったわ。火を起こして食べましょう。

フライパンや鍋や包丁も収納布に入れて……」


 ライリーに地球人がいてくれると希望を持った私は急にやる気に満ちて来た。


 * 


「姫様、これは?」

「ジャガバターと、スライスしたパンに火で炙ってとろけたチーズをのせただけよ」

「ホクホクのジャガイモにバターを乗せただけなのに美味しいですね!」

「パンも保存用の硬めのパンだけど、チーズをのせてるおかげでなかなか美味しくなったわ」


 崩れた物を脇に避け、何とか厨房が使えるようにして、私は料理をした。


「それにしても、姫様、妙に料理に手慣れていらっしゃいますね」


 姫様なのに私、主導で料理をしてしまった。

 私は前世で家族経営のカフェ店員やってたし、料理もしてたから。


「が、学院で、調理実習があったのよ! こういう不測の事態に備えて、講師も令嬢や王女といえど、生きる術の一つとして学んでおくべきだって!」


 嘘も方便である。


「……そうだったのですね。でもまさか、本当に王都が陥落するなど……」

「ほ、本当ね。役に立つ日が本当に来るとは」



 食事の後に、私はぼろぼろになった元は豪奢だった城を裏庭から見上げた。


「なるべく早く、あちこち転がっている遺体を一箇所に集めて火葬にしないと、死体を放置しておくと、伝染病が蔓延ってしまう」


「ひ、人手を探しましょう。姫様が直接遺体に触れるのは良くありません」

「食べ物か宝石と引き換えに遺体集めに協力してくれる人がいればいいけど」


 まだ食べられそうなジャガイモ等も魔法の収納布に突っ込んで来た。


 メイドのソフィーのおかげでジャガイモや宝石を対価に遺体集めと火葬が出来た。

 王都のあちこちで遺体を焼く煙が昇っている。

 私は手を合わせて冥福を祈った。


 私のそんな姿を見て、メイドのソフィーが首を傾げた。


「どうかした?」

「いえ、祈り方の、手の形と言いますか……」


 あ! しまった! 日本の仏教徒系の手を合わせる仕草をしてしまった!

 こっちじゃ指を絡めて、キリスト教っぽい、あのスタイルか!!


「あ、ああ、間違えちゃっ……間違えてしまったわ」


 私は不審者丸出しで取り乱した。


 夜に教会のベッドを借りて寝る事にした。

 目は閉じていても、なかなか寝付けないでいた。


 その時、水と着替えを部屋まで届けてくれた巫女とメイドのソフィーが小声で会話を始めた。

 私の事は疲れて眠ってしまったと思っているようだ。


「どうも、姫様の様子がおかしいのです。まるで、人が変わってしまったかのようで……」


 ヤバイ。


 様子がおかしいのバレてるし、別人のようだとも言われた。

 これで中身ちがうのバレたら悪魔憑きと勘違いされたりしないだろうか!?


 ヤバイ、ヤバイ! 早く地球人に会いたい! 会わせてください! 神様!


 この悲惨な状況から助けてください!!

* * *


「異世界転生したら辺境伯令嬢だった」シリーズより、スターシステムを使用していますが、その作品を読んでなくても読めるようにはしていくつもりです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すいません。リリアーナ姫の物語が有ったのですね。 楽しんで読ませてもらいます。 いきなりハードな転生ですね。 [一言] ヤッホー、物語が読める。
[一言] 読みました!、別観点での、文章の流れが、どんどんレベルアップしていますね。応援してます。「修学旅行~」と大変ですけど、無理せずに頑張ってくださいね
[一言] 有難うございます! やった〜! リナちゃん視点のティアちゃんに会えます♡ のっけから超ハードスタートでゆりなちゃんショック死しなくてよかった。 平和な日本から異世界に飛ばされてメンタルも…
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