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(6)悪役令嬢、再び王都へ

 ケイオス魔森での決戦からしばらく経ち。

 魔獣王討伐の報告が国王陛下まで伝わると、ローサはクロム様と共に王宮へと呼び出された。

 魔法ゲートを潜っての、一年ぶりの王都である。


 謁見の間の扉が開けられ、ローサはクロム様の後ろを歩きながら中に入る。

 周囲に控えている貴族達から、視線が集まるのを感じた。


 平民に落ち、追放された元公爵令嬢がどの面を下げて戻ってくるのか、興味があったのだろう。

 しかし皆、呆気に取られたように口を開けたまま固まっていた。


 それもそのはず、ローサは称号騎士として与えられた正装──騎士服を身に纏い参上していた。

 青い輝きを帯びた長髪は、後ろで一纏めにし、ポニーテールの髪型に変えている。


 それはいわゆる男装というべきもので、公爵令嬢ならまずしないであろう、この国では常識破りの出で立ちだった。

 けれど、ローサは謁見するに辺り、この格好で出ることを強く望んだ。


 王座に腰掛ける国王──ゴルドー・ロングスト陛下の御前に辿り着く。

 ローサはクロム様と並んで、床に片膝を着き、頭を垂れた。


 クロム様が口を開く。


「辺境伯クロム・ストレージと、称号騎士『氷華の剣姫』ローサ、お召しに与り、罷り越しました。陛下」


「うむ。両者、頭を上げよ」


 ローサは久しぶりに陛下の顔を目にする。

 その姿にお変わりなく、力強くも穏やかな瞳がそこにあった。


「まずはストレージ辺境伯、この度のケイオスドラゴン討伐、実に大義であった。今は亡き父君も誇りに思っていることであろう」


「身に余るお言葉です、陛下。しかし、今回の戦いで活躍したのは私ではなく、配下の騎士達と、何よりここにいるローサです」


「そうか……称号騎士ローサよ、実に大義であった。……久しいな、元気そうで何よりだ」


「はい。陛下もお変わりなく」


 ローサは微笑んでみせる。

 陛下に対しては、何も嫌な感情は抱いていなかった。

 以前と変わりなく、敬意を持っている。


 あの追放劇は、陛下は何も関係がないのだから。

 根拠はないが、それだけは確信していた。


「それにしても、見違えたなローサ。公爵令嬢のそなたが騎士の正装を身に纏うとは。いや、今はもう、グレイシア公爵家とは何の関わりも無いのであったな?」


 わざとらしく陛下が言って、視線をチラリと横に向ける。


 そこには貴族達がおり、その中で気まずそうな顔をしているお父様──グレイシア公爵の姿を見つけた。


「ええ、婚約破棄の翌日に勘当を言い渡されましたので。今は貴族の令嬢ではなく、一人の騎士として、ここに罷り越しておりますわ」


「今や称号騎士となり、魔獣王を討ったそなたならば、望めば公爵令嬢に戻ることも叶うぞ。グレイシア公爵も嫌とは言うまい?」


 途端にお父様は瞳を輝かせ、期待するような眼差しをローサに向けてくる。

 しかし、ローサは首を横に振った。


「いえ、今の私は騎士であることに、誇りと幸福を感じておりますので」


 ローサはお父様を──もはや関わりのないグレイシア公爵を真っ直ぐに見据えて、告げた。


「公爵家に戻るつもりはもう二度と、ございませんわ」


「そうか。残念であったな、グレイシア公爵。そなたは取り返しのつかない過ちを犯したようだ」


 陛下の冷たい言葉に、公爵はガックリと項垂れ、肩を落とすのだった。


 陛下は、今度は別の人物に目を向ける。


「そなたを逃した愚か者は、そういえばもう一人居たな? シルヴァーン」


 陛下のすぐ脇に控えていた第一王子──シルヴァーン・ロングスト殿下は、強張った顔でビクリと肩を震わせる。

 陛下は容赦なく鋭い視線で彼を射ぬく。


「騎士の正装を着たローサは以前よりも遥かに美しくなった。その気分はどうだ? 愚息よ、お前はあの美しくも才能に溢れた令嬢を、王家から手離したのだ」


 シルヴァーン殿下は黙り込んだまま、ローサを見つめる。


「そのせいで未来の王妃と引き換えに、魔獣王を倒せるだけの新たな称号騎士が生まれたというのは、皮肉なものだ」


 陛下の話を聞いているのかいないのか、殿下は謁見が終わるまで一言も喋らなかった。

 ローサに殿下の考えは読めなかったが、謁見の最初から最後まで、視線がずっとこちらに向けられていたのは、気になった。




 ◆クロム視点


 謁見を終えた後、クロムはローサと共に貴族主催のパーティーに参加する運びとなった。


 クロムは正直、社交界が好きではない。

 しかし、辺境伯として、貴族達との関わりは避けられない。

 氷華などの特産品や魔装巨兵を形作る部品の売買は、他の貴族達の協力があってこそなのだ。


 それに、今回は少し楽しみでもあった。

 隣には、ローサが居るからだ。


「ローサ。本当にその格好で良かったのかい?」


「ええ。私、今回は騎士として王都に来ておりますので。それにこの衣装、純粋に気に入っておりますのよ」


 心から気分良さそうに、胸を張るローサ。


 王都で社交界に出るに当たり、ローサは参加用のドレスを新しく作ることとなった。

 しかし、ローサは令嬢ではなく騎士となった自分を見せたいのだと強く希望し、王都のデザイナーに相談した。


 やって来た王都のデザイナーは、ローサの騎士服姿を見ると、「今世紀最大のインスピレーションを得ました!」とその美しさを絶賛し、あっという間にローサの要望を形にしてしまった。


(本当に似合っているから困る)


 果たしてクロムは、ローサをエスコートしながら会場に足を踏み入れる。


 息を飲むようなざわめきが会場中に広がり、それから静まり返るのが分かった。


 謁見の時以上に、ローサの美しさが際立つ、男装姿だったからである。


 本当はドレス姿も見てみたかった、などという気持ちで試着の際に部屋へ入ったクロムも、思わず息を飲んだものだ。

 着替えを手伝っていたストレージ家のメイド達も黄色い声を上げて絶賛。


 深い青色のタキシード。

 しかし純粋に男性が着るものとは異なり、ローサの女性らしさを主張するように裾が長めに、フリルがあしらわれている。

 細身で身体のラインが出るような設計となっている為、スタイル抜群なローサの女性らしさはそこでも現れている。


 一年前よりも輝きを増した青髪を後ろで一纏めにした彼女は、中性的な美男子のような姿で令嬢達を虜にする。

 一方でスタイル抜群な身体のラインや、女騎士として磨かれたクールな色気で、令息達を惹き付けていた。


 ふと、一人の令嬢がローサに寄ってくる。


「ろ、ローサ様。あの……私、学園で同じクラスだった、カーラ・ミマモール伯爵令嬢ですわ。覚えてらっしゃいますか?」


「ええ、もちろん。カーラ様、ご無沙汰しておりますわ」


 騎士としての礼を取り、ニコッと甘いマスクで微笑むローサ。

 ぽっと顔を赤く染めた伯爵令嬢は、熱に浮かされた様子でローサの手を取る。


「私、ローサ様が辺境に飛ばされたと聞いた時、本当に心配しましたのよ。魔獣もおりますし、魔の森の影響で作物も育ちにくいというでしょう? でもまさか、称号騎士になられて、こんなに凛々しく、美しくなられて帰ってくるなんて……! 表情も豊かになったというか……!」


「ありがとうございますわ」


 美男子顔負けの甘やかな笑みを湛えるローサに、カーラ嬢は瞳を潤ませている。

 ローサはそこで、少し真面目な顔に変わって、


「……ストレージ辺境領は、確かにこれまで、大変な土地であったかもしれません。でも今は、魔獣王を討伐したことで、急速に土地が豊かになり始めましたのよ」


 そう、ケイオスドラゴンが消滅してから、魔の森は急速に枯れ始め、相反するようにストレージ辺境領は植物が生い茂るようになった。


「だから一度、遊びに来て下さいまし。とても素敵な場所ですのよ。その際には歓迎致しますわ」


「は、はい! 是非……!」


 こくこくと嬉しそうに頷くカーラ嬢。

 それをきっかけにして、周りから令嬢達が一斉に集まってきた。


「ローサ様。私も同じクラスだった──」


「初めまして、ローサ様。私、以前から是非、お近付きになりたいと──」


「氷華の剣姫様、辺境での活躍を是非お聞かせ下さいませ!」


 そんな状況でも、ローサは動じることなく笑顔で丁寧に対応を繰り返してゆく。

 以前は冷血令嬢と呼ばれた彼女だが、今夜からはそのように呼ぶ輩は居なくなるだろう。


「決めましたわ。私、氷華の剣姫様の後援会を立ち上げますわ」


「なんと……! 私も実は同じことを考えていましたの! 性別の垣根を超越した絶世の美貌……これはもう、生きる国宝ですわ」


「ええ、今となっては冷血令嬢などと嘲っていた自身を殴りたくて仕方ありませんわ。その愚かさを清算する為にも、氷華の剣姫様の素晴らしさを国中に……いえ、世界に広めるのです!」


「私は今、猛烈に心が燃えたぎってますわ。我が家の権力と財を使って、氷華の剣姫様の活躍を描いた小説を出版します!」


「いえ、やるならもっと大々的にやりましょう! 皆で資金を集め、劇を公演するのです! タイトルはそう、ローサ騎士物語!」


「そこは氷華の剣姫伝でしょう!」


 ……何か後ろで令嬢達が輪になり、とんでもないスケールの計画を話し合っているが、クロムは黙って見守ることにした。


 実はちょっと観てみたいし。

 ローサが主人公の物語。

【読んで下さった皆様へお願い】


読んでいただきまして、本当にありがとうございます!


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