(4)悪役令嬢、新型機で出撃する【ロボ戦】
ローサが称号騎士となり、一週間程経った頃。
クロム様が騎士達を召集し、真剣な表情で告げた。
「兼ねてより復活間近と予見されていたケイオスドラゴンが、本日未明、ついに活動を再開した」
ストレージ辺境領が隣接する魔の森『ケイオス魔森』。
その森が統率者として生み出す魔獣王。
それこそがケイオスドラゴンであった。
この主は、もう100年以上も魔の森に君臨し続けている。
「よって、ケイオスドラゴン討伐作戦を決行する!」
クロム様はそこで目を伏せ、
「……10年前。我が父は、ケイオスドラゴンの未来を見るという魔眼の片方を潰し、引き換えにその命を失った」
その話は、ローサも以前に聞かされていた。
10年前にケイオスドラゴンが魔の森から侵攻を開始。
当時の辺境伯様──クロム様のお父上がこれを迎え撃ち、退けたという。
「その際に叶わなかった打倒も、今ならば成し遂げられると私は信じている。今の我々には、称号騎士ローサと、新型機プリザーブドがあるからだ!」
クロム様はローサへ視線を向けると、なんと頭を下げた。
「クロム様!?」
「ローサ。ここへ来てまだ一年しか経っていない君に、無茶を言っているのは重々承知している。それでも、ケイオスドラゴンを倒すには、君の力が必要だ。どうか、この地を守る為、我々に力を貸して欲しい」
ローサは笑顔を浮かべ、頷いてみせる。
「勿論ですわ。ここはもう、私にとっても大切な場所ですから。クロム様から頂いたプリザーブドの力で、必ず守ってみせますわ」
「ありがとう、ローサ」
クロム様は頭を上げ、力強い瞳で騎士達に告げる。
「今より3時間後に出撃する。各自戦闘準備!」
「「「了解!」」」
「ローサ、出撃前にケイオスドラゴンの弱点について伝えておく」
ローサがプリザーブドのコクピットを開いたまま最終調整を行っていると、外側から同じく調整作業を手伝ってくれているクロム様が口を開いた。
「ケイオスドラゴンの持つ魔眼が、未来を見るということを話しただろう?」
「はい」
ローサが辺境領へ初めて来た際に襲ってきたカマキリ型の魔獣。
あれはおそらく、ケイオスドラゴンがローサを未来の脅威と見透して仕掛けたのではないか、と以前に聞かされていた。
「父上が魔眼の片方を潰すまでは、恐ろしい程に先読みをして来る敵だったらしい。それによって、味方に甚大な被害が出た」
「クロム様のお父上はそんな相手をどうやって……?」
「未来を見透す魔眼は、あくまでも未来を見れるというだけなんだ。死が分かっていても、避けられない攻撃ならば倒すことが出来る」
「避けられない攻撃……」
「ケイオスドラゴンの反応が間に合わない、神速の一撃だ」
クロム様のお父上は、防御を捨て、全てを一撃にかけた。
命と引き換えに、ケイオスドラゴンの反応速度を上回ったのだ。
「10年間、大きな被害もなく戦えているのは、父上が魔眼を弱体化してくれたからだ。つまり、完全に回復はしていない。その状態で、ローサなら、必ず」
クロム様はそれ以上は言わず、ローサの目を真っ直ぐに見た。
信じてくれているのが、しっかりと伝わって来た。
だから、ローサは笑ってみせる。
「ええ、クロム様が作ったプリザーブドなら、必ず」
──私も信じていますわ。
この機体を作って下さった、あなた様のことを誰よりも。
◆騎士団視点
3時間後、ストレージ魔装騎士団は魔の森に向けて進軍を開始。
想像よりも早く、異常事態と対峙することになる。
戦い慣れた騎士達ですら、目を見開く光景が広がっていた。
「なんて魔獣の数だ……! 」
スタンピードと言うべき大群が、街に向けて進攻を始めていた。
そして、姿は見えないが、森の奥から大気を震わす咆哮が響いて来る。
『ケイオスドラゴンはまだ姿を現していません!』
「なら、魔獣を蹴散らして引きずり出すぞ! ローサを悲しませない為にも、一人も死ぬんじゃないぞ!」
クロムから前線指揮を任されている騎士団長の魔装巨兵が、剣を抜き、構える。
「総員抜刀! 雑魚を蹴散らし、魔獣王への道を開けぇ!」
『『『うおぉぉぉ──ッ!!!』』』
雄叫びと共に、騎士達のオルドウルが魔獣と交戦を開始した。
歴戦の猛者達は、次々と襲いかかる魔獣の牙を、爪をかわし、剣で薙ぎ払い、魔法で吹き飛ばす。
凄まじい練度で、大群に真正面から切り込み、前へ前へと怯まず進んで行く。
やがて、魔獣群の第一波を抜けたところで、木を薙ぎ倒し、ついにそれが姿を現す。
「出たな魔獣王……!」
10年前、騎士団長はクロムの父と共に、その巨大な竜と対峙したことがあった。
禍々しく赤黒い色の、装甲を張り合わせたような硬質の鱗に覆われた巨体。
地面に大きな影を落とす、天幕のような両翼。
一撃で魔装巨兵を踏み壊せるであろう、筋肉で膨れ上がった四足。
そして、一面の赤黒色の中でひときわ禍々しさを主張する、紅々と輝く隻眼。
全長60メートルを超える巨大竜・魔獣王ケイオスドラゴンは、衝撃波を放つかのごとく咆哮を上げた。
「グオォォォオオオ──ッ!!!」
同時に、全身のあちこちに埋め込まれている宝珠のような赤い球体が輝き出す。
騎士団長は通信魔法で大きく叫ぶ。
「総員、『豪雨』が来るぞ! 備えろッ!」
赤い球体から一斉に、上空へ向けて魔力熱線が撃ち放たれた。
しかし、熱線は騎士達の真上に到達すると、急激に角度を曲げ、雨のごとく降り注ぐ。
それはケイオスドラゴンが主力とする誘導型の魔法攻撃。
10年前に対峙した騎士達に甚大な被害をもたらし、『豪雨』と名付けられた、熱線による空爆であった。
「総員、無事か!?」
訓練通り、騎士達は盾を上に構え、豪雨を防いでいた。
だが、ケイオスドラゴンの赤く輝く瞳は、その未来を予見していたようだ。
地面から次々と、カマキリ型の魔獣が出現し始めた。
『騎士団長、魔獣の第二波です!』
「これは……盾を上に構えさせない気か!」
『ケイオスドラゴンの魔力上昇! 豪雨の第二射も来ます!』
豪雨を一斉発射するケイオスドラゴンと、その空爆の中、巻き込まれるのも厭わず、騎士達に襲いかかるカマキリの群れ。
「ぐうッ!?」
騎士団長は盾で豪雨を防ぎつつ、剣でカマキリの斬撃を受ける。
しかし連撃は受け切れず、胸部装甲にダメージが入る。
(このままでは……!)
ケイオスドラゴンは容赦なく、豪雨の第三射を撃ち放つ。
◇ローサ視点
戦場に響き渡る咆哮と、爆発音。
ローサは思わず叫ぶ。
「クロム様、ここまでで構いません! 今すぐ出撃を!」
「駄目だ! 切り札の最終調整が終わっていない。集中しろ! あと五分……いや、二分で終わらせる!」
「でも! ケイオスドラゴンの攻撃で皆様が……!」
「覚悟の上だ。皆、このストレージ辺境領を守りたくて、今日まで戦ってきた。そしてこれは、命を捨てる覚悟という意味じゃない。分かるか、ローサ」
クロム様が目の前に置いてある巨大な剣の柄から視線を外さないまま、告げる。
「魔の森から魔獣を消し去るまで、諦めず戦い抜くという覚悟だ。だから、そう簡単に皆、死んだりしない」
ローサは今にも飛び出したい気持ちを、ぐっと飲み込み、身体を震わす。
「落ち着いて、信じるんだ。皆は生きて、ローサが来るのを待っている」
「はい……!」
ローサも、覚悟を決める。
目を閉じて、コクピット越しに配線で繋がれた、剣の柄に意識を集中させる。
これまでの人生において、おそらく最も長く感じた二分間だと思う。
爆発しそうな気持ちと魔力を押さえ込み、氷のように冷たく、固い意思で、やるべきことを終える。
「……よく堪えたな、ローサ。もう我慢しなくていい」
剣の柄から配線を外し、クロム様が壁のレバーを引く。
装甲輸送車の天板が二つに割れ、開いていく。
ローサは差し込む光に目を開け、クロム様を見やる。
「行って参りますわ、クロム様」
「ああ。私もすぐに出撃する。氷華の剣姫に、武運を」
ローサはコクピットの装甲を閉じ、機体を起き上がらせる。
切り札の柄を取って、盾の裏に収納する。
装甲輸送車の後部ハッチが完全に開き、ローサは操縦桿を握り締めた。
「クロム様、起動確認を!」
クロム様は機体状態を映したモニターを見て、告げる。
『魔力回路、重力魔法装置、正常起動を確認! 魔法カタパルト展開!』
射出魔法術式で形成されたレールが、機体前方に形成される。
「展開を確認……」
ローサは自らの名を叫ぶ。
「──称号騎士ローサ!」
『プリザーブド、発進!』
「発進ッ!!!」
ヴン、と頭部の双眼結晶が強く輝き、ローサの専用機プリザーブドが、背中の八枚翼を展開。
カタパルトで射出された。
そして、なんとプリザーブドは、機体の全身に装備された重力魔法装置で、空へと飛び上がった。
そう、この魔装巨兵は、人並み外れた強大な魔力を持つローサが乗り込むことで、単独飛行を実現した新型機なのだ。
同時に、有り余る魔力を重力魔法の発動に常時回すことで、ローサが全力を出しても魔力回路が焼き切れないようにしていた。
「魔力全開!」
さらにローサは、感情で押さえ込んでいた荒れ狂う魔力を解放する。
全身の重力魔法装置をフルブーストさせ、機体を爆発的に加速させる。
一筋の閃光と化したプリザーブドは、ジグザグの軌跡を空に描きながら、戦場へと駆けて行った。
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