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能力者戦争  作者: 豆腐
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第70話-能力者戦争

 …二週間後、大導路と遠見は午前四時半頃にインターネットカフェを出た。この二週間ネカフェ住まいだったがそれも今日で終わりだ。空は白み始めたばかりだった。


 待ち合わせ場所の駐車場へ行くと、既に園田は待っていた。傍らには原付が二台置いてある。


「もう来てたのか」


「おう。見送りもしてやるよ」


 二台の原付は大導路が事前に園田から購入していた物だ。


 二週間の間、大導路は回復に努めていた。ナイフが刺された背中の傷はまだ完治していないが、これ以上この町にいるのはリスクが高すぎると判断し出発を決めた。


 地雷山との戦闘から三日が経って疲労が抜け始めた頃に、大導路は原付の免許を取ることを遠見に提案した。生き延びるための今後の生活として移動しながら暮らすつもりだった。


 遠見は賛成し、ほどなくして二人共原付の免許を取り、実家がバイク屋の園田のツテで原付を安く購入したのだった。


「それじゃ行ってくるよ。…色々面倒をかけたな」


 大導路から一部始終を聞いている園田は笑って大導路の肩を叩く。


「なに、命の恩人の頼みだ。ていうか原付が二台売れて親父は普通に喜んでいたぞ」


 十日程前に大導路は園田に戦いのこと、能力のことを全て説明した。園田は愕然としつつも素直に受け入れてくれたが、これは自分自身が八方との戦いに巻き込まれて超自然的現象を目の当たりにしたからだった。


 今となっては絶対者になれる可能性をわずかでも持っている大導路達を羨ましがっている節すらある。


「ところでこれからどう過ごしていくつもりなんだ?」


「命を取られないように戦い続けるとしか今は言えないな。しかしもし共に戦ってくれる能力者がいるのだとしたら、共闘していきたい」


「共闘?殺し合うけど仲間でいようねってことか?まぁ遠見さんとは既にそういう関係のようだけどさ」


「王魁という能力者と話をした時、共闘を提案されたんだ。断ったけどな。しかし王魁は既に共闘の仲間がいるわけだから、あいつに勝つにはこちらも仲間を作るしかない。守って生き延びるための同盟でなく、戦い勝つための同盟を作る」


「同盟を組んで他の能力者達の同盟と戦うのか。複数対複数…まるで戦争だな。能力者戦争ってとこだな」


「いいね、そのフレーズ」


 唐突に子供の声が聞こえてきて園田は「ん?」と後ろを振り向く。


 白髪赤目の子供がいつの間にかそばに立っていて楽しそうに笑っていた。


「今度からそれ使おうかな。『能力者戦争』」


「なんだ?このガキは」


「絶対者…!」


 大導路が驚嘆の声を上げる。遠見も目を丸くして驚いている。園田は「え?絶対者?」と困惑げな表情だ。


「絶対者って、絶対者のことか?」


「そうだよ。僕が絶対者」


 絶対者は自分の顔を指差してニヤニヤしている。


「また退屈だから顔を出しにきたよ。なんかちょうど良いタイミングだったかな?出陣するところだね」


「出陣というか、とにかく生き抜くために移動を始めるというだけだ」


「さっきの話聞いて思ったんだけど、同盟を組んだ能力者達だけになったらどうするの?」


 絶対者は好奇心を浮かばせた笑みで聞いてくる。これについては答えを用意していたらしく大導路は即答した。


「仲間内で、絶対者になるために殺し合う。そういう約束を事前にしてから同盟を組む。遠見さんとも既にそういう約束をしている」


 絶対者が遠見を見ると遠見は少し緊張している顔つきだったが、はっきりと絶対者の顔を見返していた。覚悟は決まっているようだった。


 大導路は王魁から大きく影響を受けていた。この同盟の約束事も王魁が自身の同盟で決めている取り決めと同じである。


 大導路のことを好敵手と捉えている王魁だったが、大導路もまた同様に感じており、そしてその好敵手から多くのヒントを与えられていた。


「なるほど肝が座っているね。じゃあ絶対者になりたいって気持ちは強くなったということかな?」


 絶対者はこの質問をするために全員のもとに現れたのだろう、と大導路は推察した。他の能力者にも聞いているはずだ。


 戦いが始まって多くの月日が経った。心境はどう変わったか、絶対者になる願望は生まれたか。絶対者はそれが気になるのだろう。


「ああ変わったよ。俺は最初は絶対者にはさほど興味がなかった。だが今ではなりたいと思っている」


「へぇ。じゃあ願いも決まったんだ?どんな願いか教えてくれる?」


「人を生き返らせたい」


「…誰を?」


「この『能力者戦争』で死んだ全ての人間だ」


 絶対者はキョトンとした表情で見返した。少しの間を置いて聞く。


「死んだ能力者達も生き返らせるってことかい?」


「ああそうだ。何もかもを戻せるとは思えないが、死という点では全てを無かったことにしたい」


「頑張って絶対者になっても叶える願いは…言うならばリセットみたいなものだけど、それでいいの?」


「それが一番気持ちが良いと思えた。自分が満足できる願いは何か、と考えた時に真っ先に思いついたのがそれだ。俺にはこの願いが一番の希望なんだ」


 大導路は徐々に明るくなっていく空を見る。そこには安在や噴上、美刻や地雷山の顔が浮かんでいた。そして誓囲の顔も。


「無欲だねぇ…」


 しみじみと大導路を見る絶対者の目は、何故か愛おしそうなものを見るような目だった。


「何を言っているんだ。願いとは別に不老不死があるならそれで十分だろう。ちなみに俺のこの願いは叶えられる範疇ということでいいか?」


「そうだね。どれくらいの死者数になるかはまだ分からないけど、おそらく叶えられるだろう。遠見さんの願いはまた別なのかな?」


 遠見は既に大導路の願いを聞いていたらしく、ここまでの話でさほど驚いた様子はない。


「私は…友達を生き返らせたいと思っています」


「なるほど。願いが違うからこそ、その時が来たら戦いあうということか。自分の願いのために信頼しつつも馴れ合わない。なかなか良い関係だね」


 絶対者は満足げな表情で二人を眺めた。





「それじゃあ俺達は行くよ」


「何か助けになれるなら、連絡してくれ」


 園田が手を差し出す。


「ありがとう」


 大導路も手を差し出し握手する。そして前を向いてアクセルグリップを回し、走り出した。遠見は園田と絶対者に会釈したあと後続を走りだした。


 そして二人は去っていった。


「あの…絶対者…さん?」


 何故かまだ居続けてる絶対者に園田が聞く。


「うん?」


「どうなんだ?あいつらは…生き残れると思うかい?」


「僕は中立だからなー。そういう贔屓してるっぽいような発言はできないんだよねー」


 意地悪そうにニヤつきながら言う。


「ただそうだねー。楽じゃないと思うよ。僕は当然全ての能力を知っているけど全員が手強いからね。みんな互角になるように調整しているけど、大導路くんと相性が悪そうな能力もあるからね」


 『N』の『拒絶』とか『Z』の『頂点』とか…。園田には言わずに内心で語る絶対者は、ものすごく楽しそうな微笑みを浮かばせていた。まるでクリスマスの到来に胸躍らせている子供のような笑顔だった。


 その笑顔からうっすらと感じる度し難い邪悪さに、園田は心底震えた。





「まずはどこに行きましょう」


 インカムで遠見が話しかけてくる。


「とりあえず東京の東側にでも行くか。東京中を走り回って、人が少ないエリアを見つけたらそこで何日か滞在してもいいな」


「仲間…見つかりますかね」


「さあね。まぁ…」


 大導路は少しだけ微笑みながら、囁くように言う。


「戦う意志がある限り、きっと何とかなるさ」




(おわり)

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