第69話-大導路と王魁
『…これはどちらなのかな。逃げていた方か、追っていた方か』
「追っていた方だ」
『ほう。わざわざ言うなんて親切じゃないか』
「どうせちゃんと調べれば分かる話だろ。君が何らかの手段でこの警察官を雇って、射撃させたのか」
『…』
「さっき、無線から反応は無かったのに君が指令を言い続けたのは、聞こえていれば警察官は行動に移せるから念の為に呼びかけていたんじゃないのか。つまり君は…人を操る能力なんじゃないのか」
『…面白いな。こんな少ない材料でそこまで推理できるのは。しかしそうだとしたら俺は警察官に男を撃たせた。結果的にお前を助けたことになる』
「結果的にはそうだな、助けられたかたちになっている」
『さっきの質問に答えよう。確かに俺は他人を操ることができる。…たまたまお前達の攻防を見つけたので戦いを観察しようとこの警察官を動かしたんだ。そしてあの男は危険だと判断して攻撃することにした。…もう一度言うが俺はお前を助けたんだよ』
「…」
『俺は同盟を作っている。自分達だけになるまで共闘しようという同盟だ。自分達だけになった際は殺しあうという約束をしている。お前も仲間にならないか?』
「同盟を作っているのなら、何故彼を撃った。彼をスカウトしてもよかったろう」
『攻防を観察して感じたが、奴の能力は凶悪に見えた。一般人も巻き込みまくった危険な奴だ。共闘関係になりそうにないと思った。お前は既に仲間がいるな。能力者の共闘には肯定的なんだろう。だからお前の相棒も含めて俺と共闘しないか』
「…君は嘘をついている」
大導路は毅然と言い放った。
「もし君と対面したとしたら、君は俺をすぐに殺すつもりだろう」
『…』
男は無言だ。
「もしこの警察官が生存していたら俺達も射殺するつもりだったんだろう。たまたまこの戦いを目撃したかのように言っていたが、実際は警察官を使って俺達を尾行していた。敵が偶然現れたから俺達の射殺を様子見して状況を観察しはじめたんだ」
『どうしてそう思う?』
「あの警察官は今日すでに一回見ている。最初に見た場所から距離が離れているこの場所にもいるのは明らかに不自然だ」
家を出て遠見を駅まで送る時、警察官がこちらを見ていたのを大導路は覚えていた。あの時警察官がこちらを伺っていたのはキョロキョロしている遠見を不審に思ったからだと考えていたが、先程この場所で再び警察官を見た時、事態はもっと複雑なのではないかと察した。
「誓囲の拠点での爆発事故の関係者だと疑われて捜査されているのかもと思ったが、警察官が躊躇なく射撃したのを見て何らかの能力を受けていると考えた。発砲も尾行も能力で操っているのなら何故俺達を尾行していたのか。…それは君が誓囲を殺した一味の一人だからだ」
『ほう…』
男は感心したように相槌を打つ。そこから焦りは感じられない。
「俺達が逃げ延びたこと、俺の家で二人で住んでいたことを特定できていたんだな。生き残りの俺達を殺すタイミングをずっと伺っていたんだろう。今日この敵が現れなかったら、俺達が別れたあとで一人ずつ射殺するつもりだったんじゃないのか」
『誓囲というのは、あの非戦闘主義の男か。彼を殺したことを恨んでいるのか?しかし俺達戦いの参加者は他の奴に殺されても仕方がない。そういう舞台に立ったのだからな。違うか?』
「じゃあ君の策略で犠牲になった一般人は?君は明らかに一般人を巻き込んでいる」
『そのとおりだ。先程、そこで死んでいる能力者は一般人を巻き込んでいるから凶悪だと、嘯いてしまったな。あれは嘘だ。脅威だと思って撃ったのは事実だがな。この戦いを遂行するうえで避けがたい犠牲は必ず生まれる。俺はそう思っているし、だから巻き込む事は不可避だと思っている。俺はそれについては受け止めているし、言うなれば必要悪だと考えている』
「…正直言って誓囲を殺したことに恨みは無い。望んでの参加では無かったが、誓囲には俺達と同じように人を殺す理由も殺される理由も持っていた。だから能力者同士の戦いの果てに死んだことで俺が恨みを持つのは正しくない、とさえ思っている」
『なるほどな。意見が合うじゃないか』
「しかし進んで一般人を犠牲する考えは全く賛成できない。それはただのエゴだ。我を通す上で無関係な人間を巻き込んでいい理由は、何においたって存在しない。俺と君は考えに相違がある」
『…どうやらそのようだな』
決裂の予感を覚えたのか、男の声に真剣味が増す。
「そして誓囲は仲間だった。安在さんも美刻さんも仲間だと思えていた。だけど君達が殺してしまった。だから純粋に敵討ちをしたい。感情で恨んでいるわけじゃないが、心がそう訴えている」
『なるほどよく分かった。俺は正直、俺の仲間達をお前に紹介したうえで俺達が誓囲を殺したのだと告白するつもりだった。お前が敵討ちだのと言わなければ本当に仲間にしようと思っていたんだ。最終的には殺し合うことになる関係の仲間だが…。とにかくこうなったからには、俺達はもう仲間になれない』
「その通りだ」
『俺は王魁という』
男は突如、自己紹介をした。それは大導路にとって全く知らない情報である。伝えた側が確実に不利になるような意図の見えない情報提供だった。
偽名かとも思えたが、男の口調からは自信と凛々しさが感じられた。発言には真実味があるように思えた。
そして大導路は呼応した。
「俺は大導路だ」
『大導路。生き残り続ける限り俺達はかならずどこかで会い、そして戦うはずだ。また会おう』
「ああ、また」
そして通信は切れた。
※
「何で本名を言ったんだ」
身体中に包帯を巻いてベッドで横になっている男が、妙にニヤついている王魁に声をかけた。無線が切れるまでは話しかけるのを控えていたのだ。
「その方が面白そうだからだよ。どうせ苗字を知られた程度ではどうにもならないだろうしな。お前と同じだよ、皆噛見。好敵手に会えると嬉しいだろう」
治療で寝込んでいる皆噛見は、ヘッと呆れたように軽く笑った。そばに座っている異界は鋭い目つきで王魁を見ている。
「こっちも苗字を教えてもらったからイーブンだなんて思うなよ王魁。相手のは偽名かもしれないのだからな」
「本名に決まってるだろう。お前らはあまりロマンが分からないようだな」
そう言いながら近づいて皆噛見の肩をポンポンと叩く。
「早く傷を治すんだな。やるべきことはまだまだたくさんありそうだ」
これほど上機嫌の王魁を見たのは、皆噛見も異界も初めてだった。
「大導路か。手強そうな奴だな。しかしそれでも俺が勝つ。…俺が絶対者になる」
この世の平和のために、と心中で言葉を続けた。
『J』Jeopardy…『危険』(ザ・ジェパディ)
能力者:地雷山 純平
対象者に触れることで発動できる。
対象者の周囲五十メートルにある『危険な可能性があるもの』を対象者にぶつける。
対象者が触れた者にも同様の効果を与える。これにより効果を受けた者がさらに別の者に触れても効果は与えられない。
『J』の地雷山純平…『死亡』
残り二十人




