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能力者戦争  作者: 豆腐
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第68話-『J』の『危険』 その⑤

 大導路は二本の蒼刃を落として、両腕を前に伸ばした。手首を曲げて、手の向きは両手とも右。大学の校門に向けている。大学生達は既に逃げていて今はそこには誰もいない。


 触れると同時に発動させるしかない。少しでも遅れればトラックに飲み込まれるか吹っ飛ばされるだろう。


 あまりに短い時間のうちに、かつてないほどの集中力を燃やした。


 大型トラックのバンパーが伸ばした両手にぶつかる直前、大導路は時間が止まったような錯覚を覚えた。


 全てが鮮明に且つゆっくりに見える。思考はクリアーで様々な記憶も感情もどこかへ消えて行ったかのようだ。


 目の前の物体と自分自身しかこの世に無いような、そんな錯覚。極限の集中が生んだ世界。


 そして『方向』を発動した。大型トラックは横腹を強い何かに衝突されたかのように突然に真横に滑った。校門に衝突すると鉄でできた校門は簡単にひしゃげた。


 不快な破壊音と金属音が響く。折れ曲がった校門の柵にタイヤが引っかかりトラックの勢いは徐々に弱まった。やがては夥しいホコリを巻き上げながら完全に止まった。


 大導路は動けなかった。負傷は無かったが、この一瞬で気力を使い果たして心が磨耗していた。また緊張の解放により全身が痺れていた。


 そんな大導路の眼前に飛び込んで来たのは駆け寄ってきた地雷山だった。


 雑な、しかし全力で放った前蹴りが大導路の腹部にくい込んだ。


「ごぁっ!」


 涎や胃液を吐き散らしながら大導路は仰向けに倒れた。全く受身は取れず上体も倒れて後頭部を打った。


 そこをすかさず地雷山が馬乗りになり、脚の痛みに顔を歪ませながら屈んだ。大導路が足元に落としていた蒼刃を拾い上げた。


 ああ、これは無理だ。


 頭を打って朦朧となった意識で、大導路はボンヤリ思った。こちらを見下ろしている地雷山の表情は緊迫感と殺意で塗りたくられているのが分かった。


 殺意解放をしているのだろう、殺人の抵抗感は無さそうだ。それならばこの局面で殺されない、なんてことにはならないだろう。


 全力で抵抗して全力で戦ったと思えていた。相手の能力を特定して、追跡し、追い詰めた。トラックもさらなる犠牲者を出さずにくい止めた。


 結果、負けてしまうのは残念だが、全力を出したがゆえの清々しさがあった。頭を打って意識が麻痺しているせいかもしれなかったが恐怖心も無かった。


「俺の勝ちだ!」


 地雷山が叫び、そして蒼刃を振り下ろした。


 しかし刃は大導路のもとへたどり着かなかった。


 持っていた地雷山が思い切り仰け反ったからだ。


「うおおぉっ!」


 悲鳴を上げながら、ひっくり返りそうなほど仰け反っていた。


 地雷山に馬乗りにされている大導路は呆然とその様子を見るばかりだったが、近くに気配を感じて倒れたままそちらに顔を向けた。


「『視界』で、この人の視界を大導路さんの視界に変えました…!」


 遠見だった。地雷山を睨むように見ている。傍観ではない。戦っているのである。髪の隙間から見える瞳は戦意で鋭く光っていた。


 大導路を突き刺さんと蒼刃を振り下ろした地雷山の視界が変わり、突如目の前に現れたのは、こちらに蒼刃を突き刺そうとしてくる男の姿だった。


 全力で殺しにかかってくる男の気迫を見て、地雷山は恐怖した。


 それは大導路が見ている地雷山自身であることに、気づけなかった。


「今です!」


 遠見が叫んだ。意味するところを理解して大導路は上体を捻って腕を伸ばした。


 落ちているもう一つの蒼刃。


 それを拾い、心にも身体にも発破をかけて起き上がった。仰け反って不安定な体勢になっていた地雷山は、大導路の上半身の起き上がりを許してしまう。


 地雷山にかけた『視界』の効果が解ける。二人は近距離で向き合った。お互いの腕が、手と手が、交錯した。


 そして突き刺さった。


 大導路の蒼刃が、地雷山の胸部中央に深々と突き刺さった。紛れもなく心臓の位置だった。


 地雷山が握る蒼刃は大導路の肩の付け根あたりまで刃先が来ていたが、それ以上は進まず刃は行先を無くしたかのようにその場に止まっていた。


 蒼刃を落とした地雷山の大導路を見ていた目が、ぼんやりと焦点が合わなくなる。口が震えるように動いた。


「…残念だ…」


 本当に、とても残念そうだということを大導路は察した。


 地雷山は再び仰け反り、今度は抵抗なく上体が倒れきった。糸の切れた操り人形の如く、弛緩した四肢を地面に転がして地雷山は一切動かなくなった。


 大導路は地雷山の身体をどかして、ふらつきながら立ち上がった。


 見下ろすと、地雷山の紛れもない死体が転がっていた。


 遠見の方を向くと遠見もまたこちらを見ていた。喜んでいるような、寂しがっているような、泣き出しそうな、不思議な表情だった。


「大導路さん…」


「ああ、どうやら生き残…」


 互いが話しかけようとした時、地面に転がっている機械から突如声が聞こえてきた。無線機だった。吹っ飛んだ警察官から外れて落ちたものだろう。


『…どうなった。仕留めたのか』


 無線機からの声は、大導路と同じくらい年代の声質だった。上司や警察官の同僚の声とは思えない。


『拳銃が手元に無いなら他の方法で殺害しろ』


「…」


 大導路はゆっくりと歩いて無線を拾うと、あえて物音を立てた。


『何だ?すぐそばにいるのか?状況を言え。相手の状態を言うんだ』


「君も能力者なのか」


 一瞬沈黙が走ったあと、無線の主が再び喋った。

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