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能力者戦争  作者: 豆腐
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第6話-絶対者の説明 その②

「先に探すためのものを渡そう。そしてそれはもう君らの手にある。言葉通りの意味でね。利き手とは逆の手の甲を見てくれ」


 大導路は左腕を上げて手の甲を見た。他の参加者達も僅かに身動きしている様子だった。


 …視界に入ったものについて、どう受け止めればいいのか。


 左手の甲から一センチほど浮いた位置に、赤い円盤が漂っていた。円盤は手を動かせばそれについてくる。手から常に一定の位置で浮いていた。


 赤い円盤はまるで光の塊のようで、有機的な質感は無く重さも無かった。大きさは手の甲をちょうど覆うくらいだ。


「それは『紅針盤こうしんばん』という」


 絶対者が言う。


「他の参加者を捜索するための端末だと思って欲しい。円盤の中心に点があるだろう。それが自分自身だ。つまり羅針盤と同じように見てくれればいい」


 絶対者が言うように、円盤の中心には黄色い小さな点が光っていた。


「円盤全体が君達を中心とした索敵範囲だ。半径二キロメートルを表している。範囲内に他の参加者がいた場合、円盤上に光の点となって表れる。今は表れないようにしているけどね」


「つまりコレを起動すると、半径二キロ以内に敵がいないか索敵してくれるということか」


 先程、絶対者に質問を連投していた参加者が再び問う。


 敵…。


 その言葉を使う、この参加者の受け入れの早さ。それが大導路には驚異的に感じられた。


「まさにその通り」


「コレ…どうやって使うんだ?いつも手にくっついているのか?」


 別の参加者が質問して、絶対者が返す。


「紅針盤が宿っている方の手の甲を見て『紅針盤』と念じればいい。それで表示される。紅針盤は他の者には見えないから人混みで使っても問題ないよ。表示後は一分で消える。ただし注意点として紅針盤を使えるのは一日に五回までだ。それ以上は使えない。日付が変われば回数はリセットされる」


 絶対者は改めて参加者達を見渡した。


「紅針盤にかかる説明は以上だ。何か聞きたいことはある?」


 沈黙。


 紅針盤についてというより、そもそもの部分で聞きたい、と大導路は思った。


 本当にやるのか?戦いとやらを。


 他の者達も大半は似たような心境だったのかもしれない。しかし説明が進んでしまったため、今さら聞くことに抵抗を覚えているような気配だった。


 何より聞いたところで「もちろん戦いはするよ」と平然と返されそうな気がしていた。


「よし、それでは次の説明に移るよ。そして最後の説明だ。君達には殺すためのものを渡す。それは戦うための『力』だ」


 絶対者は人差し指を立てる。


「一人一つの『能力』。それがルール。君達はこの説明を終えた後、僕が与えた能力を使えるようになる。それを使ってどう攻めるか、どう守るかは君達しだいだ。君達は全員で二十六人だ。この数字で何か思いつく人はいるかな?何かを連想できる人は?」


 絶対者の突然の問いに参加者達は訝しんだ。二十六…?


 さらなる沈黙。その間、絶対者は不敵な笑みを浮かべて何も言わず佇んでいた。少しして参加者の一人が声を出した。


「アルファベット…?」


「その通り。アルファベットだ」


 絶対者は満足気に頷いた。


「二十六はアルファベットの総数。AからZまでの数だ。君達にはそれぞれのアルファベットを頭文字とした能力を渡す。アルファベットの重複は無い。まぁこれは僕が分かりやすいようにそう決めただけで、あんまり意味は無い」


 能力というものの概念をそもそも受け入れられていない大導路は理解に窮する。他の者もそうだろうが、絶対者は至極満足げな表情を浮かべていた。


「よし、これで今日の説明は以上だ。あんまりたくさん一気に言っても分からないからね。また近いうちに追加の説明をするよ。優勝者への報酬とかね。ではまた会おう」


 突然、真っ白い空間に薄暗さを感じた。視界が不明瞭になってくる。意識が朦朧としてきた。


 突然の身体の変化、しかし抗うことは出来ず大導路はソファーにもたれたまま、ゆっくりと目をつぶり始めた。周囲からも何の音も声も聞こえない。


 突発的な異常は、突発的に去ってゆく。


 大導路は深い闇の中に落ちていった。





 起床。午前七時だった。


 大導路は自室のベッドで目を覚ました。布団にくるまっていて寝巻き姿だ。いつもの朝だ。


 あの場所は?絶対者は?戦いは?思考を巡らせるが状況を考えた末、辿り着いた答えは一つだった。


 夢か。


 不意に身体のこわばりが解けたような感覚があった。寝ながら緊張していたのだ。あまりにもリアルな夢。それも悪夢に近い。


 しかし昨日の下校時から記憶が全く無い。


 どう頑張っても昨夜のことは全く思い出せない。違和感を覚えつつも大導路はベッドから起き上がった。


 部屋を横切って洗面台へ向かう。大導路に同居人は居ない。ワンルームの家を一人で暮らしていた。


 両親とは死別しているわけではない。高校進学の際に一人暮らしを提案し、両親は抵抗なく受け入れた。親からの仕送りとたまに働くバイトで生計を立てていた。


 洗面台に立って顔を洗う。顔を起こして鏡に写る自分を見た。何てことはないよく見る自分の顔だ。


 …何かがおかしい。


 何故か奇妙な感覚があった。それは起きた時から薄らと感じていた。寝惚けているのかと思っていたが、意識が覚醒してもその感覚は消えない。


 『何か』が自分の『中』にある感覚があった。


 埋め込まれた、という表現が一番近い。何者かに自分の胸へ異物を押し込まれたような感覚。それでいて不思議と不愉快ではなく、異物がすっかり自分に癒着しているような居心地の良ささえある。それはもう自分の一部になりつつある、という感覚だった。


 そして未だに夢の記憶は鮮明だった。夢の出来事は起きて時間が経つうちに忘れていくものなのに、先程見た夢は強い濃度を持って脳に留まり続けている。


 絶対者…戦い…参加者…能力。


 能力。


 大導路は握っていた歯ブラシを鏡に向けた。


 自分の中にある『何か』をどう使うか、その使い方を知っていた。まるで昔から知っているかのようだ。


 指先に熱があるような錯覚を覚える。


 集中して念じればその『何か』は使えると、感覚で理解していた。大導路は念じた。


 そして『それ』は発動した。

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