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能力者戦争  作者: 豆腐
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第58話-死地激戦 その⑥

 …安在は思い出す。昨夜、大導路から聞いたことを。


「あの時、鉄棒に突き刺さった噴上は多分自分が死ぬことに気づいたんだろう」


「…」


 安在に噴上の死の様子を話すのは気が引けたし、だからこそこれまで話さなかったのだが意を決して話を続けた。


「その時出た言葉は、噴上にとって一番心の底にあった想いなんだと思う」


 一呼吸置いて言う。


「『生き延びてくれ』…と。彼はそう言っていた。小さく、でもはっきりと。確かに俺は聞いた。『生き延びてくれ』と。そして彼は死んだ」


 安在は大導路を見た。


「生きて欲しかったんだよ。彼は君に対してそう思っていたんだ。心の奥底の本当のどころでは。本当の本当のところでは…。だけどこの戦いがどれだけ過酷でどれだけ容赦ないものか、彼は気づいていた。僕ら能力者の中で一番最初に理解していたのかもしれない。だから君が能力者だと気づいた時、殺しにかかった。君がこれからの戦いで苦しまないように、酷く傷つかないように。だから噴上は何よりも君を殺すことを優先した」


「…そんな、私は彼に恨まれていたから…」


「全く恨んでいなかった、とは僕には断言できない。実際君のことを恨んでいたかもしれないし、その想いは簡単に言葉で説明できるものではないんだろう。だが少なくとも…死ぬ直前に出た言葉は、何よりも真実なんだ」


 安在の頬に涙が流れる。熱い。何ものも溶かすほど熱い涙だった。


「君を殺して戦いから解放することができないと気づいた時に、ありのままの気持ちで最後に君に願ったんだ。生き延びて欲しいと。生きて欲しいと…」





 こちらを見ている大導路から目を離し、安在はその瞬間を待つ。


『お前は俺が殺す』


 そう言ってくれたのは『彼』の救い。


 そう思うとこれまでの辛さも悲しみも、ゆっくりと溶け出していくような気がした。


 ムシのいい考え方なのかもしれない。それでも大導路が教えてくれたこの救いを受け止めよう。この救いをもって、次は自分が他の人を救おう。


 それがこの戦いを乗り越えられないであろう私ができる、最大の努力。


 最も価値のある選択をしよう。最も誰かのためになる、誰かの記憶に残る行いをしよう。


 こんな勇気を出せるのは誓囲から数人分もの生命力を借りているがゆえだった。離れた所で倒れている誓囲を見ると、誓囲も生気の無い目だったがこちらを見ていた。


 哀しんでるような寂しがっているような、申し訳ないと思っているような表情に見えた。しかしその表情からは死の恐怖を感じなかった。


 きっと誓囲も同じだ。この局面において、選びたいことはただ一つ。


 誰かのためになりたい。


 嗚呼、それでも。


 安在の頭の中で浮かんでいる人物は怒った表情をしている。その表情も彼の行動も、全ては自分の責任であり罰である。そうは分かっているが、我儘でどうしても思ってしまう。


『途中で負けて死ぬかもしれないけど、それでも一緒に生きていこう』


 そう、言ってもらいたかった…。 


 ゾクッという音と共に安在の皮膚が裂けて、筋肉が断裂して血が迸った。温かい感触に皆噛見は快感を覚える。


 しかしそれは一瞬だった。次の瞬間には皆噛見は得体の知れない恐怖を脅え、危機を感じたように飛び退いた。


 瞳が、恐怖に塗れる。


 そして部屋は炸裂した。





 安在が『吸収』によって溜めることのできるエネルギーの総量は、誓囲の『信頼』による強化で上限が大きく上昇していた。


 それでも皆噛見の猛撃を続け様に吸収したことで、吸収は限界に到達した。


 解放したエネルギーは衝撃波となって何もかも巻き込み、拡散した。


 窓も壁も吹き飛び、天井は崩落し、恐ろしい程の崩壊音が響いた。上階である五階と六階が無残に崩れ落ちた。床が耐えられるわけもなく、四階も崩れ立て続けに全階が落ちた。


 …夥しい土煙の中で、一階まで落ちてきた大型冷蔵庫が瓦礫に紛れて倒れていた。


 その扉が開いた。


 大導路と遠見がフラフラと出てくる。大導路は内臓のダメージと爆発の衝撃により倒れそうなほど衰弱していた。緩慢な動作で周りを一望する。


 思考はまともに働かなかったが目の前の惨状を理解すると、冷蔵庫から顔を出している遠見の手を取って起こした。


 遠見を起こしている最中に近くに転がっているある物に気づく。異界が落とした蒼刃だった。頼りない足取りで近づいて、それを拾う。


「…逃げましょう」


 遠見が声をかけると大導路は黙って歩き出した。じきに警察や消防車が来るだろう。姿を隠さなくては。


 遠見は大導路が倒れないように肩を支えて一緒に歩き出す。


 支えられつつ大導路は自身の左手を見る。紅針盤を起動していた。


 反応は自身と遠見の二点、それしかなかった。


 全てが、終わったのだ。





 どのように帰宅したのか、疲労ゆえか記憶に無い。現場を離れてからタクシーを呼んだような気がするが、判然としない。


 気づけば自宅の部屋で転がっており、隣には同じように倒れ込んでいる遠見の姿があった。


 命からがら逃げ込んで家にたどり着いた瞬間、解けた緊張と疲労により眠り込んでしまった。


 大導路がここに住んでいることを既に八方が知っている可能性がある。安全な環境ではないという自覚はあったが、他に居場所は無いし理屈ではどうにもならない身体の限界が来ていた。


 上半身を起き上がらせるが、身体がとにかく重くダルい。


 どうにかして毛布を二枚取り出して、一枚を遠見にかけた。毛布ごしに触れても遠見に起きる気配は無い。


 本来は戦うべき能力者を自ら自宅に入れてしまっていたことにいささかの不安を覚えたが、しかし深く思考することはできそうにない。


 暗く重たい沼の底に沈んでいくように、大導路は眠りに落ちた。


 疲弊した二人の能力者を残して、籠城計画は消滅した。




『E』Eye…『視界』(ジ・アイ)

能力者:遠見えんみ 映奈えいな

肉眼で対象者の姿を目視することで発動できる。

対象者の視界を覗くことができる。

対象者から十メートル以内であれば以下の能力を発動できる。

対象者の視界を、別の対象者の視界に変えることができる。別の対象者も十メートル以内にいることが条件となる。

応用として、対象者の右目の視界を左目の視界に、左目の視界を右目の視界に変えることができる。いずれの場合も持続時間は十秒である。



『I』Imagination…『幻想』(ジ・イマジネーション)

能力者:異界いかい 穢見夜いみや

肉眼で対象物を目視することで発動できる。

対象物の視覚上の外観を変化させることができる。複数の対象物を変化させることができるが、変化させて誤認させられるのは視覚のみであり、触覚、嗅覚などには影響がない。



『M』Monster…『怪物』(ザ・モンスター)

能力者:皆噛見みながみ 猛威もうい

半径五十メートル以内に他の能力者がいる状態を五分間維持することで発動できる。

巨獣のような『怪物』に変身することができる。

発動条件を満たしたまま能力を発動せずに二十四時間が経過すると、能力は発動しなくなり再び条件を満たす必要がある。

変身は最大三時間持続する。時間内でも任意で変身を解除できるが、いずれの場合でも解除後は一時間発動できない。



『V』Velocity…『速度』(ザ・ベロシティ)

能力者:美刻 美々(びこく びび)

物体に触れることで発動できる。

対象物の移動速度を調節できる。調節が可能な速度範囲は対象物の大きさによって変わり、対象物が小さいほど広い範囲で調節できる。ボールやナイフなら調節範囲は静止状態から時速百四十キロまで。

自身に効果を与える場合、調節範囲は静止状態から時速六十キロまで。




『A』の安在晶…『死亡』

『C』の誓囲誓人…『死亡』

『V』の美刻美々…『死亡』

残り二十一人


【第四章】 終

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