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能力者戦争  作者: 豆腐
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第50話-容疑者の七人

「紅針盤を使った人自身のも含めて、点は八つ表示されると思うんです。実際私の紅針盤もそうでした。だけど一つだけ、点が七つの紅針盤があったような、そんな気がしたんです。でも私、急いで全員のを観察したから、結局どの人のだったか分からなくなって…合図を送るか悩んだんですけど、一瞬のことだったし自分の見間違いの気がして…」


 遠見がモニョモニョ言っている間も、大導路は必死に思考していた。気のせいと片付けるのは簡単だが、それが気のせいではないという前提で思考をする必要がある。もし『七人分』が真実なら何を示しているのか?


 『七人分』を真実とした場合、導き出される事実は、シンプルに紅針盤の表示がおかしいということだ。しかし紅針盤は故障しないはずだ。故障しないのに物によって違う情報を示していたということだ。


 その推論がとある仮説にたどり着いた時、大導路の中にある情報のピース群が、仮説という新たなピースを加えたことで全てがかっちりと嵌り合ったような感覚があった。


 全てを嵌めることができたきっかけは、仮説という朧気なピースだ。だがこのピースには妙な真実味がある。


「遠見、ちょっとついて来てくれないか?」


 そう言いながら扉を開ける。不思議そうにこちらを見上げている遠見が目の前にいた。


「え、は、はい」


 大導路は女子トイレから離れて今度は男子トイレへ向かった。


「大導路さん、あの…そっちは…」


 遠見はついて来ながらもかなり抵抗のある様子だった。男子トイレには金髪の死体が放置されている。行きたくないのは当然だ。


「今、考えていることが真実かどうか確かめないといけない」


 男子トイレを開けて個室を覗くと、そこには先程と変わらず倒れている金髪の死体があった。


「だ、大導路さん…」


 遠見は怯えてトイレの入口で固まっている。


「遠見さん、一緒に確認したいんだ。こちらに来てくれ」


 そう言って大導路は手を差し出す。君が必要だ、と求めてくる手。遠見は数秒その手を見ていたが、恐る恐る手の先を掴んだ。大導路はそっと手を引き寄せる。


 遠見は勇気を振り絞ってもなお恐ろしいらしく、大導路の服の裾を掴んでいる。


「な、何を確認するんですか…?」


「彼の死因だ」


「それは蒼刃では…?」


「たしかに外傷は無いように見える。だが…そう見えるだけかもしれない」


 そう言って屈むと、金髪の手首を触る。既に冷たくなり始めている感触が非常に不気味だったが、手首の周囲を撫でたり強く握ったりして入念に確かめる。


 次にシャツをめくって腹部や胸部を触る。違和感を取りこぼさないよう神経を集中させる。


 腹部も胸部も異常は無かった。すがるような気持ちで今度は首を触る。


 首を撫でた時、微かだが確かな違和感を覚えた。思わず手の動きを止める。


「…大導路さん?」


「ちょっと待って」


 再び手を動かして首全体を触る。そして自分の覚えた違和感が具体的にどういうものであるか分析する。


「…見ている情報と、触っている情報の差異…だ」


 大導路の呟きを聞いてもなお遠見には理解できない。だが大導路は真実に近づきつつあった。


 首をさらに撫でながら考える。この違和感を、この不自然をどう立証すればいい?どう証拠にすればいい?


 そして一つの可能性に気づき、手を引っ込めてポケットからスマートフォンを取り出した。


「どうするんですか?」


「撮影する」


「えっ…」


 大導路はスマートフォンを金髪の顔に近づけて、至近距離でシャッターボタンを押した。


 死体を撮影し始めた大導路の奇行を遠見は黙って見ていた。取れた画像を大導路がチェックしている間も固唾を飲んで見守っている。


 そして大導路が口を開いた。


「写ったぞ…違和感の正体が」


 そう言ってスマートフォンの画面を遠見に向ける。


「ひっ」


 遠見はうろたえて思わず目を背けるが、大導路の見て欲しいという意志を汲んでおそるおそる細目で画面を見た。


 そこにはやはり金髪の死顔がアップで写っている。気持ちの良い画像ではない。大導路は何を見せたいのだろう、と頑張って画像を見続ける。


「え…あっ…」


 遠見は最初、レンズを通したことによって光の線か何かが写り込んだのかと考えた。だがそうではないことに気づいた。


「こいつは蒼刃で殺されたんじゃないんだ」


「つまり…」


「殺害方法を能力で隠していたんだ。そしてこの能力の使用者であり真犯人は…あの中にいる」





 二人はリビングに戻る途中で、これから起きる事柄や流れを迅速に確認し合う。


「説明するうえで、どうしても君の能力を説明しないといけない」


「はい…分かってます。大丈夫です」


 そして二人は大扉を開けてリビングに戻ってきた。全員が二人に視線を向けた。


「遅かったじゃないか」


 眼鏡が咎める口調で言う。


「まるで仲間同士、作戦を話し合っていたかのようだ」


 あからさまに疑惑の目を集中させるための物言いだったが、それを言わずとも短髪女も痩身も既に疑うような視線をこちらに向けていた。誓囲は憔悴しきった顔で大導路達を見ていて、安在もまた縋るような目を向けてきている。一人で誓囲を守ろうとしていたため精神的に疲弊しているのだろう。


「…皆に言いたいことがある」


 大導路は切り出した。


「何だよ。二人でフケていた言い訳なんかメンドクセーから別にいいぞ」


 短髪女が言葉を返すが、大導路はそれには反応しない。


「金髪の殺人方法が分かった。そして犯人も分かるかもしれない」


 その発言は明らかに不穏だった。場がしんと鎮まり、数秒の間を置いて短髪女は先程より大きな声で喋る。


「今更何を言ってんだテメー!蒼刃で殺したに決まってんじゃねーか!蒼刃じゃなくて能力だとしても一番怪しいのはコイツで間違いねーだろ!」


 怒りながら誓囲を指差す。痩身も口を開いた。


「その男以外が犯人だとすると、今日初めてここに訪れた俺達の誰かが慣れない場所で殺人を行ったということか?」


 大導路は返事ではなく、持論をさらに展開することを選んだ。


「真犯人の狙いは配信者の計画を潰すことだ。そのために金髪を殺して計画が成立しないような状況を作り上げた。不慣れな場所且つ他の能力者が複数いる状況で実行したのは、自身が殺害したことがバレない自信と能力を持っていたからだ」


 大導路は一呼吸置いたあとに続けた。


「死体は、能力で偽装されていた」


「偽装…どう偽装されてたってんだよ」


 短髪女の噛み付くような反論を制するように、大導路は自分のスマートフォンを掲げた。


「さっき金髪の死体を写真で撮った」


「はぁ?」


「そうすると肉眼で見えているものと画面に写るもので明らかな違いがあることに気づいた。これを見て欲しい」


 大導路がスマートフォンの画面を点けると、金髪の死顔が写った。


「何考えてるテメー…」


 短髪女の大導路に対する警戒心は今や頂点だったが、後には引けない大導路は金髪女を真っ直ぐ見て話しかける。


「何もしない。何かしたら遠慮なく攻撃していいからこの画像の金髪をよく見てくれ」


 短髪女はいつでも攻撃できるように両手を前方に構えながら、画像を見た。


 画像に何の不自然さも無いと判断できた瞬間、大導路を攻撃するつもりだったのだろう。並々ならぬ戦意を溢れさせていたが、それがゆるゆると収縮されていく気配を大導路は感じた。


「…?何だ?これ…?」


 誓囲もふらふらと近づき画像を覗く。近づいてきたことで短髪女は神経質そうに誓囲を警戒するが、それ以上は何もしない。


 覗いた誓囲がみるみるうちに怪訝な顔になる。


「首の痕…首に痕があるぞ…!」


「そうだ。首を一周するように痕、というか傷ができている。これは首を絞められた時の傷だ。つまり金髪は絞殺されたんだよ」


「何でだ!僕は死体を真近で見たが、こんな傷は無かったぞ!」


 混乱した誓囲が声を上げて大導路が肯く。


「俺の目にも傷なんて見えなかった。実際さっき確かめに行った時も傷は見えなかった。だが触れてみたところ、見た目に反して肌が擦れたような荒れた感触があった。そして撮影してみたところ、こうだ」


「どういうことなんだ?一体…」


「真犯人の能力は『他人の視覚を騙す能力』だ。スマートフォンの画像にちゃんと写るのは、カメラのレンズは騙せないのと画像は実物でなくデータでしか無いから肉眼で見ても能力が及ばないものと考えられる」

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