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能力者戦争  作者: 豆腐
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第45話-本番、始まる

「分からないが成功させなくてはいけないと思っているよ」


「…もし成功したら私達は生き残ることができるってことだよね。ずっと自分なんか、きっとこの戦いのどこかで死んじゃうんだろうと思っていたけど」


 少し間を置いてから付け加える。


「…噴上だってそう言っていたし」


「噴上はたしかに、君は必ずどこかで死ぬしきっと生き残ることはできないと言っていた。だけどそれは噴上の主観だ。気にすることはない」


「私は…私が気にしていることは、噴上は最後まで私をそういう人間だと思っていたってこと。弱くて頼りなくてずるくて卑怯な私だと、そう思って…恨みながら死んじゃったんだなってこと」


 安在は鼻をすする。抑えようとしていたのだろうが叶わず、嗚咽まじりの小さな咳を一つ鳴らした。頬から落ちた涙の一滴が皮張りのソファーに落ちてポツと音を立てた。


「ごめんね。前日の肝心な時にこんな弱音を言って。不安になったらずっとあの時のことを思い出しちゃって」


「無理もない。幼馴染が死んだんだ。むしろ気丈にやれていると思うよ」


「ううん、本当は自分の力だけならとっくに潰れているのは分かっているんだ。誓囲くんが『信頼』で私に生命力を貸し与えてくれて、それで心がどうにか持っているだけ。私はこのチームから離れたら絶対に死んでしまうだろうし、一人じゃ生きていけない弱い人間なんだ」


 堰を切ったように涙と嗚咽が溢れ出す。


「誰かがそばにいないと不安でしょうがないのに、そばにいる人の気持ちを考えることが上手くできなくて自分から関係を壊してしまう。このチームも私がいつかミスして壊してしまうんじゃないかって、それがずっと怖いの。私は誰かがいないと何もできないのに誰かのために何もできない。だから噴上にも嫌な想いをさせてしまった。こう考えるとひどく惨めな気分になる。もっと良い人間になりたいのに、何にもなれないんだって」


 大導路には上手い言葉が見つからなかった。映画だとこういう時、主人公は人生の教訓になるようなとても素晴らしい台詞を言ってくれる。しかし自分は主人公では無いし過去何千本と観た映画の印象的な台詞を引用しようにも、どんな台詞もこの場に相応しくないように感じられた。


 映画の台詞はその世界での最適解だ。だがどんな映画も現実とは違う。


 だから大導路は思いついたことを、考えていた事柄を、そのまま口に出した。


「君はあの時俺を救った。炎から守ってくれた。君がこれまでどう失敗してどう惨めな思いをして、どう後悔しているかは知らない。だけど俺から見れば君は命の恩人だし、俺の感覚で言えば君は誇っていいことをやりとげたんだと思う」


 安在は大導路を見た。先程まで自己嫌悪に満ちていた瞳は、わずかな救いを得たかのように薄く煌めいていた。


 しかし安在が本当に思い悩み、鎖のごとく心に絡みついているのは噴上に関する後悔であることに、大導路は気づいていた。


 噴上は死んだ。安在と和解することなく。


 それは絶対的な事実であり、それをくつがえすことはできないと大導路にも分かっていた。


 映画と違って現実は全てが綺麗に完結するわけではない。酷く中途半端で、酷く悲しくて、惨たらしいほど最悪のまま終わることなどたくさんある。


 それでも救いはあって欲しいと大導路は思った。だからこそ考えていたことを思うままに話した。


「…俺が噴上と戦った時、あいつの言葉をいくつか聞いていた」


 何を言おうとしているのだろう、と安在は泣きつつ不思議そうに大導路を見た。


「聞いたことから想像して噴上がどう考えていたのか、どう思っていたのか、俺なりに考えてみたんだよ」


 大導路の語る話を、安在は静かに聞いていた。





 翌朝、能力者八人が一同に集まる当日。


 四人全員で朝食を取りながら、確認がてら最後の打ち合わせをしていた。


「君達三人は双子駅から離れた別々の駅に、それぞれ十一時頃に到着して待機してくれ。そして正午十二時頃前に双子駅に到着するよう向かってきてくれ。大導路は十一時五十分、安在さんは五十五分、遠見さんは十二時ジャストに着くようにするんだ。一緒に来たのだと邪推されないように必ず時間は分けて来てくれ」


「分かってるよ」


 大導路が答える。もう何度もしたやりとりなので忘れるわけないのだが、だからといってフリートークする気にもなれないので確認の打ち合わせの方が気を紛らせてよかった。


「相手四人が何時頃着くか分からないけど十二時半までは待つ。まぁ今日までのやりとりから感じる限り恐らく全員来るだろう。全員集合したら紅針盤を起動する。八人全員能力者だと確認してから皆で拠点へ向かう。移動中は遠見さんは常に最後尾だ。『視界』で四人全員が不審な視線を送っていないか監視しておいてくれ。もし何かあったら事前に取り決めたハンドサインをそれとなくやって他の三人に伝える。大導路と安在さんも何かに気づいたらハンドサインだ」


「了解」


 安在が短く答える。泣きはらした痕のような腫れぼったくなっている瞼が目立ったが、誓囲はあえて何も聞かなかった。大導路も今朝になって改めて話すようなことは何もなく必要以上には喋らない。


「最後にこれも確認になるけど、全員本名は必ず隠してくれ。聞かれても答えないか偽名を使うこと。保険証なんかの本名が書いてある物は全部自室にしまってくれ」


「…はい」


 遠見が小声で返事をした。やはり怯えているようだった。


 朝食を終えて思い思いの食後の休憩を過ごし、そして午前十時。


 四人は動き出した。





 午前十一時四十分、大導路はあまり馴染みのない駅のホームベンチから立ち上がった。十一時五十分の集合時刻が近い。


 別の駅で待機している安在、遠見もそろそろ動き出す頃だろう。


 電車に乗って二駅で双子駅に戻ってきた。改札を出てカフェhome近くに立ててある地図の表示板を見る。そこが集合場所だ。


 既に誓囲以外もいるかもしれない、と警戒していたがまだ誓囲しかいなかった。


 知らない人という体で話しかけるという手筈だったので誓囲へと近づいたその時、大導路の横を何者かが追い抜いていった。


 歩く先にいる誓囲の表情がどんどん強張っていくのが分かる。その者は誓囲の前で立ち止まった。

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