第40話-『C』の『信頼』 その④
「…それで俺は具体的にどう動けばいいんだ?もうこの瞬間から外には出れないと考えた方がいいのか。それとも荷物を取りに一度は家に戻ってもいいのか」
「…大導路」
誓囲は申し訳なさそうな表情で大導路を見ている。
「君に謝らなければいけないことがあるんだ」
「うん?」
「僕は君に一つ隠していること…いや、嘘を一つ言っている。それを白状させてくれ」
「うん聞こう」
「僕は自分の能力の『信頼』について君に説明した時に、君に実害は全く無いと、デメリットは無いと説明した。あれが嘘なんだ。本当は君には一つだけ行動の制約がかかっている」
「…それはもしかして、俺は君を攻撃できないということじゃないか?」
大導路の指摘に誓囲は目を丸くした。
「気づいていたのか?」
「そうなんじゃないかという推測はしていたし、さっきの発言からもそう睨んでいた」
「さっきの発言?」
「籠城計画の参加者以外が死んで、自分達だけになったら危険は無くなるから外へ出てもいいって話だ。あれは内輪での裏切りが絶対に起きない前提の言い方に聞こえた。そもそもこの計画自体、裏切り者が出て内部崩壊するリスクがあるはずなのにそこについては全く触れていない。いくら戦いが嫌で集まったチームだとしても、自分が絶対者になれるかもしれないという局面になったら裏切る可能性はあるはずなんだ」
「なるほど…。確かに裏切りは起きないという前提の言い方をしてしまっていたよ」
「だから俺が立てた推測は『信頼』の効果を受けている者は誓囲を攻撃できない、という性質があるんじゃないかということだ。籠城計画の参加者は誰も誓囲を攻撃できない以上、最後の一人になることができず、したがって裏切りは起きない」
「…君はやっぱりすごいよ。噴上や八方という者達と戦ったことによって得られた洞察力なのかな。それとも生来のものなのかな」
「当たっているのか?」
「ほとんど当たりだ。ただ攻撃できない対象は僕だけじゃない。全ての『信頼』の効果を受けている者だ。だから僕の計画に参加して『信頼』によって生命力を付与されている限りは、味方に対して攻撃することは一切不可能なんだ」
「なるほど。だから計画参加者だけになれば、もう安全ということか」
「…これを隠していたことは本当に申し訳ない。察していると思うが僕は命を賭ける振りをして実際は賭けていなかったということだ。カフェで君が蒼刃で僕を刺そうとしたとしても、直前で動きは止まって僕を刺せなかったはずだ。…不愉快に思っているだろう」
「別に不愉快には思っていない。生き延びようと計画を考案した張本人が、安全の保証も無しに俺と直接対面していたのだとしたらそっちの方が不安になる」
そう言って大導路は自身の胸を指差す。
「この『信頼』による効果、計画に参加したあとも付与し続けるつもりってことでいいのか?その方が万が一の裏切りも防げるだろうし」
「そのとおり。それを詫びた後に承諾してもらおうと思っていたところだ」
「俺は構わない。というか身体も心も張りがあるようで心地いいよ」
「この話を聞いてもなお、協力してくれるかい?」
おずおず聞いてくる誓囲に対して大導路は首を横に振った。
「俺にとっては大した問題じゃない。意向は変えない」
誓囲は心底ホッとした顔で胸を撫で下ろす。
「よかった。これでやっぱり参加は拒否すると言われたらどうするべきか、それは考えていなかったからね」
「まぁその時は多分黙ってここから帰していたんだろう。『信頼』は解除せずに。それなら最悪でも襲われる心配は無くなるからな」
「まぁ…そういう選択になっていたろうね」
言いながら立ち上がる。
「じゃあ早速だけど君には他の参加者二名を紹介したい。君が参加する際には顔合わせをするとも事前に言っていたんだ」
「その二人もやはり『信頼』の効果を与えられているってことだよな?」
「そのとおり。今呼んでくるよ」
そう言って大導路は呼びに行った、大導路は一人座りながらボーッと考える。
仲間を作り非戦闘を貫く。その決定に後悔も逡巡もない。しかしこの決定が結果として正しかったかどうかは分からない。
自分にとって最良と思える選択が、現実的にも最良であるとは限らない。しかし選択を行ったこと自体による安堵感を確かに覚えていた。
二、三分ほどして誓囲が戻ってきた。後ろに二人の人物がついて来ている。
「おまたせ。紹介するよ。僕の計画に参加してくれている同志だ」
誓囲の背後から顔を出してきた二人を見て、一人に既視感を抱いた。そしてすぐにそれが見知った顔であることに気づいた。
「安在…!」
驚きの声を上げて名前を呼ぶと、安在も気づいたようで不安な表情は驚愕に変わった。
「大導路くん…だっけ?無事だったんだね」
「二人は知り合いなのか」
誓囲が大導路と安在の顔を交互に見る。
「以前話した、最初の戦いの際に知り合った人だ」
噴上との戦いを示す発言を聞いて、安在の顔が一瞬暗くなったのを大導路は見逃さなかった。
「それなら話は早い。こちらの人は知らないと思うのでお互いに紹介しよう」
安在の横に立つ女性に手を向ける。
「こちらは遠見映奈さんだ。遠見さん、こちらは大導路憧夢くんだ」
遠見と紹介された女子はペコリと頭を下げた。非常に小柄で身体も細い。長い髪の前髪が目をすっぽり隠しているので、今いち顔つきが分からない。しかし安在以上に不安そうにしていることが態度から分かった。
「大導路にはこれから荷物を回収しに家に戻ってきてもらい、そして今夜までにはここに入居してもらう。いつ襲われるか分からないから可能であれば今日入居したらもう外出は禁止、というルールで動いてもらいたい」
「ああ問題ないよ。持ってくる荷物も服くらいしか無いからすぐに終わる」
「学校はできれば休学届を出してもらいたい。あと両親が警察に相談しないように、家出であって事件性は無いのだと判断してもらえるような対応をしておいてほしい」
「両親とは疎遠で連絡も全く取っていないから俺が消息不明になっても気づかないし、気づいても通報はしないよ。休学届は俺の申請だけでは通らないだろうから出すのは厳しいが、まぁ放っておいても大事にはならないだろう」
大導路の言い分に誓囲は眉をひそめた。
「別居しているとは聞いていたけど、両親とは全く連絡を取っていないのか」
「取らないというか、向こうが携帯を変えた時に俺に新しい連絡先を送ってきていないみたいで、こちらからは連絡が取れないんだ」
意味深な大導路の発言に他三人は言葉が返しづらく黙ってしまった。大導路はそれに気づいてはいたが、あえて気にしていない振りをして三人を見渡した。
「まぁそういうことで、これからよろしく」
そして奇妙な共同生活が始まった。
『C』confidence…『信頼』(ザ・コンフィデンス)
能力者:誓囲 誓人
対象者に自分を信頼しているかと聞き、信頼していると回答された際に発動できる。
対象者との間で『生命力』の貸し借りができる。生命力を借りた者は身体能力、気力が大きく向上する。
『信頼』の効果を受けている者は『信頼』の能力者および他に『信頼』の効果を受けている者に攻撃できない。
【第三章】 終




