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能力者戦争  作者: 豆腐
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第39話-『C』の『信頼』 その③

「常に味方全員で固まっている。そして全員に僕の『信頼』の効果を与えて強化してもらう」


「全員が誓囲から生命力を借りるのか?誓囲は身体は持つのか?」


「まぁ七、八人くらいまでなら大丈夫だろう。個々は強い方がいいし、その個々が集まって強力な自衛団とする。これが究極の防護策だと考えたんだ」


 誓囲の言い分は分かる。実際、大導路を抜きにしてもこの建物を紅針盤で調べた際、誓囲と他の能力者二人で計三人の表示が現れる。そんな場所を敵能力者が単身で攻めようと思うだろうか。


 自分だったら絶対にしない、と大導路は思った。


「外出を許可しないのは一人で行動させたら、そこを不意打ちで狙われて各個撃破される恐れがあるからか」


「そのとおり。もしどうしても外出が必要な際は味方全員で一緒に外出する、という案もあるがやはり原則は外出禁止だ」


「運動不足になるだろうし、攻撃される恐れは無くなっても体調不良になっては元も子もないだろう」


「この一つ下の三階にはジムがあってね。色々運動はできるようになっている。整備し直す必要はあるけど屋上にプールもあるよ。運動不足の恐れはあまりない。外出できないことによるストレスの懸念は確かにあるけれど、一応映画鑑賞用のシアタールームや楽器演奏用に防音工事された音楽室、バスケやバドミントンができる屋内運動場も一階にある。これまでの暮らしを可能な限り再現できるようにしていて、極力ストレスを排除させるつもりだ」


「…この戦術、籠城というくらいだから、自分達からは積極的に戦いに行くことはしないわけだな?」


「そのとおり。敵が攻撃をしてきたら反撃は行うが、あくまで防衛であって命を取る目的は無い。誰も攻撃してこない限りはこちらから攻めに行くこともしない」


「絶対者は能力者がどんな策を講じても干渉しない。つまりこの籠城計画は、敵能力者達が攻撃を諦めた時点で瓦解する可能性が無くなるということだ。ただそれは決着がつかないことを意味している」


「まぁそれが狙いではあるからね」


「そうなるとこの計画の参加者は永遠にこの建物から出られない、ということにならないか?」


「まさにそのとおりだ」


 狂気的な防御策に呆れつつも、確かに生命の保証はできている計画だと大導路は思った。


「最悪、一生この建物か…」


「皮算用かもしれないが、もし生き残りの能力者がこの籠城計画の参加者だけになれば、実質敵はいないと考えて自由に行動できるようにしようと考えているよ。その状況になるかはもちろん不透明だけどね」


「…計画に賛同してくれている能力者二人は、もちろん承諾済みというわけか」


「そうだ。二人ともここに入居してからは一度もここを出ていない。僕の計画の説明は以上なんだが、何か聞きたいことはあるかい?」


 無い、と言えば早速この計画に参加するかどうかを問われるだろう。大導路は沈黙して自分の考えを練った。誓囲は察したようで何も言わず待ってくれている。


 この計画の参加で失うものは自由。参加すれば余程状況が好転しない限り外には出れなくなる。しかしもともと戦いは終わるまでは東京都から出られないという制約がある。籠の中の鳥がさらに小さな籠に入るようなものだ。


 計画の参加で得られるものは、安寧。能力者同士で結託して身を守ることで攻撃されるリスクは激減するはずだ。


 そして何より、計画に参加することで人を殺さなくてもいい立場に立てる。


 大導路は八方との戦いを経て自身の戦いに対する姿勢の甘さを痛感していた。殺人を意識した戦いをすべきかそうでないか、決断をするべきだと考えていた。


 殺人を行う選択があれば、殺人は行わないという選択も当然ある。


 どちらが正しいか、どちらが善かは重要ではない。平時ならば殺人を行わないのが正しく善い選択に決まっている。しかし今は戦いの場に立たされているのだ。平時ではない。


 重要なのは決めることだ。生きていくうえでくぐらなければならない選択肢という門、それをくぐらなければ何も始まらず、どこにも行けない。


 大導路はゆっくりと口を開いた。誓囲は黙して見守っている。


「誓囲…」


「はい」


「シアタールームがあるって言ったよな」


「はい?ああ、あるよ」


「DVDは?映画のDVDは何枚あるんだ?」


「え、ええと。図書室があってそこに保管しているけど百枚くらいかな。僕は観てないからタイトルは覚えてないけど」


「そうか…百枚か。いや待てよ。普通に考えてネット注文して取り寄せばいいのか。頭の悪い質問だった」


「いや、そもそも意図の分からない質問なんだが、計画に参加するかどうかを考えていたんじゃ?」


「ああいや、考えていた。考えていたよ。そして決めたんだ」


「え?」


「俺もこの計画に参加するよ」


 誓囲はポカンと口を開けて大導路を見ていた。一方で大導路は神妙な顔をしており、必要な回答はしたという雰囲気を醸し出していた。当然誓囲はその回答だけでは真に満足はできない。


「…もしかしてシアタールームがあるからとか映画のDVDが十分な数あるからとか、そういう理由で決めたんじゃないよな?ちゃんと考えた?」


「考えたさ。確かにそれは決めるうえでの材料になったけど、ちゃんと考えたうえでの結論だ。ちなみにDVDの枚数は別に十分な数じゃないぞ」


「…よかったら決めた理由を教えてくれないか」


「そうだな。最初は奇抜なアイデアだと思ったんだが、話を聞いてみれば成功する目は結構あると思えたのと…」


「うん」


「こんな戦いにおいても仲間を作ることができて共に協力することができるというなら、それに賭けてみたい気持ちになった」


 親しい友達がいない大導路にとって、物事の解決は独りで臨むものだった。自己の価値観に則って、自己で挑み、自己の中で完結させる。


 孤独だがそういうものだと考えていた。自分の人生だから自分で選んで自分で悩み、全ての責任を自分で持つ。


 しかし先日誓囲に相談した時、八方に命を狙われているという事態にも関わらず、えも言われぬ安堵感を覚えていた。なにか強く固い確かな紐のようなものに自分が結び付けられていて、それは縛られているとも取れるのだが、不思議と不愉快ではなく救われているような気持ちになるのだった。


 その紐の繋がりはここで計画を断ったら儚く消えてしまうという予感があった。


 大導路はあの時の安堵感を忘れられずにいた。


「俺にできることは協力するよ」


 それは本心の言葉だった。


「…ありがとう。大導路」


 誓囲は微笑む。照れているような泣きそうなような、とにかく喜びを帯びた表情だった。


「心強いよ。君は能力者と直接戦ったことのある人間だし、僕らとは違う視点に立ってくれそうだ」


 大導路は無言で微笑んだ。


 …計画に参加した理由はもう一つあった。


 映画に登場する主人公達は自分が為すべきことが分かっており、それゆえにひたむきに戦っている。


 そこには眩しさがあると日頃映画を観ていて感じていた。自分がやるべきことを知りそれを行うという行為に人間の美徳を感じていた。


 それと同じ眩しさを誓囲から感じたのだ。


 そしてそのそばに居ることで自分もそうなれるような、そういう希望が胸中にあった。

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