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能力者戦争  作者: 豆腐
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第38話-『C』の『信頼』 その②

「この周りには他に能力者はいない。君も紅針盤を使っただろうから分かっているだろう。不意打ちをしてくる能力者はいないし、僕には君を嵌める策も無い。君が離れたあと僕が死んでいることに店員は気づくだろうが、心臓麻痺なら事件性は無いし、警察も同席していた人物を詳しく調べる気にはならないだろう」


「君を殺して俺に何のメリットがある?」


「言っただろ。蒼刃を一本手に入れることができる。今後の戦闘を考えれば複数持っていることのアドバンテージは大きい」


「殺される君にはどんなメリットがあるっていうんだ」


「ないさ。だけど僕は自分の計画の全てを君に提示したい。これはそのための君に対する最後の確認だ。これで死んだとしてもそれは僕の見通しが甘かったということだ」


 大導路は数秒固まっていたが、息を一つ大きく吐いた。強ばっていた肩や腕の力が抜けて、そして蒼刃の刃が消えた。


「緊張したせいでなかなか刃を消せなかったぞ」


 大導路が蒼刃をしまおうと腕を引くと、誓囲はあっさり大導路の手首から手を離した。


「いいのかい?」


 誓囲が聞くと大導路は首を横に振った。


「俺は自分を殺しにかかってきた八方を殺そうとすることもできないくらい、人を殺すことが下手だ。抵抗が拭えない。この戦いにおいて自分がどう振舞えばいいのか結論を出すまでは、俺は人は殺さないことにしている。今もまだ結論は出ていない」


「考えた結果、やはり他の能力者は全て殺そうという考えになることもありえると…?」


「その可能性は普通にある。だがまだどっちにも決められていないし、どっちに傾くのか自分でも分からない」


 沈黙が流れた。敵意殺意の警戒では無かったが、次の一手はどう動くべきか考えている気配が誓囲にはあった。


 そして口を開く。


「分かった。決まっていなくても構わない。君には僕の計画を聞いてもらいたい。聞いてもらえるだろうか?」


「構わないがいいのか。もしかすると最終的には戦闘肯定派になるのかもしれないんだぞ」


「仮にそう決めたとしても、決めた瞬間に不意打ちで僕を殺そうとはしないだろう。君は」


「ま、そうかもな」


 殺しにかかってくるにしても礼節があるだろう、という信頼か。奇妙なものだ、と考えつつ大導路はコーヒーを飲んだ。


「双子駅に来てもらったのには理由があって、ここから歩ける距離に僕が今住んでいる拠点があるんだ。そこにこれから君を招待したい」


「そこで君の計画を教えてくれるということか」


「そういうこと。僕の住処だから当然警戒すると思うけど、色々理由があってそこで説明するのが一番手っ取り早いんだ」


「もはや今さら、俺と君とで警戒し合う意味は無いだろう。殺すつもりならお互い殺す機会はいくらでもあったわけだし」


「そう言ってもらえると嬉しいね」


「ただもう一度確認するが、俺はその計画を聞いて賛同したり参加したりするかは分からない。もし断ったら誓囲は何の利益もなく拠点が俺にバレることになる」


「構わないよ。誘う側なんだ。リスクは当然踏まなきゃね」





 二人はカフェを出て四キロほど歩いた。


「歩ける距離じゃないじゃないか」


「どの駅からも二キロ以上離れているという条件で拠点を選んだからね。少なくとも二キロは離れていないと…」


 多少申し訳なさそうに誓囲が説明する。


「でももうすぐ着くよ。あと二百メートルほど」


 言われて大導路は紅針盤を起動するか考えた。


「念のため、紅針盤を起動していいか」


 無用な不信感を抱かれないよう確認を取る。


「問題ないよ。ただ先に言っておくと紅針盤は僕以外に二人表示されるはずだ。今から向かう拠点には既に二人、能力者がいるからね」


「…その二人は計画の賛同者というわけか」


「そう。話し合った末に今は同居している。二人とも戦う意志は全くない。だから君の安全は保証するけど、もしこれを聞いて考えが変わったなら…」


「いや、変わらないよ。拠点に行くのに何の問題もない」


「よかった。ただ君が計画に参加しない限りはその二人に会うことはない。二人も君の姿を陰から覗いて確認したりしないよう、しっかり注意はしているから安心してくれ」


 紅針盤を起動すると、確かに数百メートル先に能力者の存在が二人分示された。





 着いた先には巨大な敷地と、そこに立つ巨大な建物があった。豪邸というよりオフィスビルのような外見だった。立派な正門があり、正門から建物までレンガが敷き詰められた通路が伸びている。通路の両脇は芝が生えていてよく整備されていた。


 通路突き当たりの正面は階段になっており階段の先は建物の二階玄関だった。


 建物は六階建てでマンションによくある外廊下は無く、外観は壁とたくさんの窓というシンプルな構造だった。窓の数を考えると部屋の数は数十にも及ぶと予想できた。


「…少なくとも一軒家じゃないな。本当にここに住んでいるのか」


「そうだよ。察しのとおりここは一般住宅じゃない。十年ほど前に作られた社員寮だ」


「社員寮?」


「当時の勢いのあったベンチャー企業が今後の発展を想定して建てたものなんだ。三十人の社員が一緒に住めるように建てられた。だから二人同居用の個室が十五ほどある。部屋だけで基本的な生活ができるよう設備も整えられている。結局そのベンチャー企業は失敗してこの社員寮も売却されたわけ。それを僕の親の会社が保有しているんだけど買い手がなかなかつかなかった。戦いに選ばれたあと僕が見つけて、会社の偉い人に色々交渉して住ませてもらっている」


「親の会社?…誓囲という苗字は、あの不動産大手の誓囲なのか」


 誓囲という苗字を聞いた時、大導路が最初に連想したのは国内最大手の不動産企業の社長だった。メディアにも頻繁に登場しているので、大導路に限らず中高生の間でも知名度は高かった。


「そうだよ。僕は社長の息子なんだ。三男だけどね」


 全く嫌味もなくしれっと言うが、素直すぎて理解しやすかった。


「金持ちというわけだ。だからあの渋谷の動画配信も実現できたわけだ」


「自分で得た金じゃないのに高額を使うのは気が引けるけどね。以前から父には与えられた金は自分の意志で好きに使えとは言われていたけど。実際、金と親の威光が計画の進行に大いに貢献してくれているよ」


 二人は正門を潜り敷地内に入った。正門には監視カメラが付いていることに大導路は気づいた。また警備会社のシールも貼ってある。


 通路を通って階段を上り、玄関の扉を開けると天井の高いロビーに迎えられた。


「こっちだ」


 誓囲に誘われるまま屋内を進む。さらに階段を二階分上り四階に着いた。四階は階段の正面に観音開きの大扉があった。開けると中はだだっ広いリビングになっており、ゆったりとしたソファーや茶会に使いそうな丸テーブルがいくつも置いてあった。


 部屋の隅にはオープンキッチンがあり大型冷蔵庫や食器棚が並んでいる。


「ここはもともと研修を受ける社員達の食事室兼談話室だ。ちなみにこの上の五階がもとは男性職員が居住するための階で個室が並んでいる。六階は女性職員用の階で五階とほぼ同じ作りだ」


「とにかく広いな。能力者二人は上の階にいるのか?」


「ああ。僕と君が離している間は下の階には降りてくるなと伝えている」


 二人は適当なソファーに座った。大導路は数キロ歩いてやや足が疲れたのもあってか、ソファーの柔らかさに素直に安らいでしまった。


「お茶いる?」


「いや、話をしよう。計画を聞かせてくれ」


「分かった。単刀直入に言おう。僕の計画に賛同する者、つまり戦いに反対する者はこの建物に籠城してもらう」


「籠城?」


「そう。この建物に住んで、味方同士で寝食を共にする。建物からは一切出ない」


「買い物とかにも行けないということか?通学は?」


「買い物はネットショッピングなど外出不要のかたちで済ます。通学は残念だが諦めるしかない。外出全般が禁止だ」


「恐ろしい計画だな」


 大導路は率直な感想を述べて肩を竦めた。もちろん誓囲が真剣に言っていることは理解していたが、それにしても奇抜としか言えない計画だ。

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