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能力者戦争  作者: 豆腐
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第33話-『H』の『深淵』

 翌日、晴れ渡る青空だった。大導路は目覚め良く起床した。


 昨日までよりさらに早く家を出て、長い長い遠回りを経て高校に到着した。


 到着前に紅針盤を起動するも、他能力者の反応は無い。


 校舎に入ってまもなく教師に見つかると、職員室に連れ込まれた。他の先生達も混えて昨日の状況の説明を求められた。


「突然自分の席の部分の床が崩れて、怖くなったんで無許可でしたが帰りました」


 同じ事象について様々な角度から質問が来たが、ほぼ全て同じように返した。


 実際には帰ろうとしたところで床に穴が空いたのだが、そこは誤魔化した。


 ほとんど要領を得ない証言を聞いて、先生達はもやっとした思いを抱いたまま大導路を解放した。


 担当教師から、今日からしばらく別室で授業を行う旨を知らされた。


 大導路の教室とその両隣の教室、さらに真下の教室は閉鎖されていた。さらなる事故を警戒して、普段使用していない教室に待避させられていた。


 校舎の一部が崩落したという事実を考えれば学校自体を休校にしても良さそうなものだが、と呆れ混じりに思ったが、一応進学校なのでカリキュラムを遅れさせたくないのだろうと察した。


 仮の教室で朝礼が始まる。大導路は若干の視線を感じつつも平静な態度を取っていた。


 皆、自席が消滅したという点で大導路の反応を知りたいのだ。


 それを最初に聞けたのは園田だった。


「なぁ。昨日のアレは、お前はなんか原因を知っているのか」


「原因も何も、先生達が分析しているように経年劣化による崩落だろう」


「それは大人達が帳尻合わそうとしているだけの、いい加減な真実だろ。お前だってそんなこと無いと思っているはずだ。なにせ崩れたはずの床が、下の教室に落ちていなかったんだからな」


 今日知った事実だったが崩れ落ちたはずの床の一部は、下階の教室に全く落ちていなかったのだ。落ちたのは大導路の机と椅子のみだった。


「経年劣化なんてもんじゃない。消えたんだ。床の一部が。この世から」


「そう言ったってどういう現象なのか分からないんだから、いい加減な分析でも先生達の言う真実を信じるしかないんじゃないのか」


「本当に原因も理由も分からないのか。お前はあの直前に、急に帰るなんて言い出していたじゃないか。何か知っていたんじゃないのか」


「俺だって、分からないことだらけだよ」


 素っ気なく返したが、事実として大導路にも殆ど分かっていなかった。


 床を消滅させたのは八方の能力によるものだろう。切り崩したり突き壊したりしたわけではないのが不気味だ。


 能力の発動条件や発動の方法、効果範囲は依然として不明だ。


 より深く分析して対策を練らねばならなかったが、恐らく時間は無いと考えていた。


 相手にとっても大導路は危険な存在である。脅威であるゆえに、正体に気づいたその日のうちに攻撃をしてきたのだろう。


 朝礼後に紅針盤を起動すると、今度は他能力者の反応があった。八方は朝礼ギリギリに登校してきたのだろう。


 即時行動してきた相手の気質を考えれば、今日中にどこかで攻撃を仕掛けてくるはずだ。その意志があるからこそ八方は退かずに登校して来たのだ。


 そしてそれは大導路も同様だった。いまさら退くという選択肢は無い。





 何事も無く昼休みに入ると、大導路は園田に声をかけられた。


「なぁちょっと聞きたいことあるし、たまには屋上で昼飯を食おうぜ」


「ああ、いいよ」


 素直について行き二人は屋上へ上った。屋上は昼休みだけ開放されているが、水捌けが悪いせいでコンクリ剥き出しの屋上床はあちこち変色してたり汚い水溜まりが残ってたりと酷い状態だった。それゆえ全く人気は無く、二人が上がった今日も他に人は居なかった。


「相変わらず汚ぇな」


 園田はそうこぼしながら屋上真ん中辺りのそこそこ綺麗そうな床に腰を下ろす。大導路も近くに座った。


 屋上は全方位に三メートル程の高さの金網が張られており、事故防止としては優秀だったが景観は悪く、どこか刑務所のような雰囲気すら醸し出していた。


「聞きたいことって何だ。昨日のことならこれ以上教えられることなんてないぞ」


 持参したコンビニ袋からおにぎりを取り出しつつ大導路が聞くと、園田も持参した弁当の蓋を開けながら喋る。


「なんというか…そうだな」


 その表情は、いつものふざけがちな園田には珍しい真面目な顔つきだった。大導路に対して伺うような視線を送ってきている。


「お前さ…どういう能力を持っている?」


「…!」


 戦慄が走った。


 同時に右腕が動いた。


 あらかじめ想定していたかのような無駄のない動作で、ポケットから目当ての物を取り出した。


 正午の眩しい陽の光に照らされたナイフの刃が、鋭い輝きを伴ってポケットから現れ出た。


 園田の目が見開く。大導路は腕を振り上げ、強く大きくナイフを放った。


 投げたのは自身の後方だった。その先には男が立っていた。


「!!」


 屋上の扉の近くにいた、音も無く忍び寄ってきていた八方にまっすぐナイフが向かった。


 咄嗟に両腕で防いだことで、ナイフは上着越しに八方の左腕に突き刺さった。


「うぐっ!」


 思わず悶える声を上げた八方の姿を大導路は観察していた。冷静ではない。胸は強い鼓動で揺れている。


 大導路が投げたのは蒼刃ではなく家から持ってきた果物用ナイフだった。蒼刃は身体から離れた瞬間に刃が消えてしまうので投擲ができない。


 『方向』によって投げる方向へエネルギーを付与した投擲は、浅手ではない一撃を与えていた。腕から手を伝って、八方の足元に血が滴り落ち始めた。


「お、おい大導路…!?」


 うろたえる園田は見ずに大導路は喋った。


「園田、さっきの言葉、そう言えと言ってきたのはこの八方か」


「え、あ、ああ…」


 大導路は敵の狙いを早々に看破していた。


 こちらを一瞬でも狼狽させるための言葉を園田に言わす、その隙をついて死角から奇襲するというのが八方の策だ。屋上に呼び出すように仕向けたのも八方に違いない。


 確かな真相は分からないがおそらく「こう質問すれば大導路が隠していることが分かる」などと吹き込まれたのだろう。園田も多少は怪しんだだろうが、まさか殺人計画に加担しているとまでは思わなかっただろう。


 屋上を襲撃の舞台にされたのは大導路にとってはむしろ好都合だった。ここなら隠れられる場所がない。すなわち不意打ちをするなら後方しかない。


 大導路の隙をつくための園田の発言は、結果的に大導路が攻撃に転じるスイッチになった。後方の確認も取らないままに思い切りナイフを投げつけたが、狙いは完全に成功した。

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