第30話-学校内の敵
翌日、起床した大導路は制服に着替えていつもどおり高校に向かった。
平静から大導路は他の生徒より早目に登校していたが、ここ数日は最も通学生徒の多い時間帯に登校していた。
また授業が始まる際のクラス移動や昼休みに売店に行く時などは、出来る限り生徒の人波に紛れて移動していた。
そして園田に対しても、園田が違和感を覚えるほどに密に近づいて行動した。
「なんか最近近くない?」
「そうか?」
「なんか俺、お前に気に入られるようなことしたっけ」
「いや、何もしていない」
「そう言われると逆につれぇな」
適当に取り繕って誰かと一緒にいる状態を継続させる。そうしなければならない理由があった。
自分はおそらく、狙われている。
今日も一日元気にやっていきましょう、という担当教師の掛け声をもって朝礼は終わった。終わると同時に大導路は紅針盤を起動した。
周囲二キロを探るレーダーが、大導路以外の存在を捉えていた。
やはり今日もいる。
渋谷のモニターで映像が流れた数日前、大導路は学内にいる自分以外の能力者の存在に気づいた。
不定期で使用することに決めた紅針盤の一回、それを正午頃に起動した時に相手の点が突然表示された。
瞬間、戦慄が走った。相手との距離は約百メートル。紛れもなく学内である。
周囲から動揺を悟られないように振舞うだけで精一杯だった。早退も考えたが敵もこちらの存在に気づいている場合、下手な行動は発見されるリスクに繋がる。敵が放課後前に紅針盤を起動したとしてそこに大導路の点が表示されなかったら、この日早退した者を調べ出すだろう。それで容疑者をほぼ特定できるのだ。
冷や汗をかきながら優先して考えるべきことは何か、と自問し続ける。自分の立っている状況を速やかに考察しなければならない。
敵は既にこちらの存在に気づいている、そう考えた方がいい。自分のように一回でも起動すれば分かるのだ。仮に今この瞬間知らなくても今日中には気づく可能性が高い。
だが能力者の正体は大導路、というところまでは気づいていないのではないか。それならばこれから取るべき行動は一人にならず平静に動き続けることだ。
登校する前に敵の存在を知ることができていたら、そのまま登校を諦めたうえで以後二度と登校しないことで隠し通せたかもしれない。しかし存在がバレた状況で登校拒否を始めたら、最近になって登校拒否した生徒という線で特定されてしまう。
大導路がやることは、まずは正体がバレないように学生生活を送ること。
そして相手の正体を突き止めること。
※
こうして大導路は本日もいつもどおり登校し、園田の近くで園田のだべりに付き合うのだった。
何度か紅針盤を起動して自身と敵との距離間を確認した結果、敵は二つ隣のクラスの生徒であると推測できた。
敵の正体を調べるうえでヒントはあった。敵の表示が出たのはある日突然のことだった。つまり何らかの理由でそれまで登校していなかった可能性がある。
ここ最近で休んでいた同学年の生徒を探せば容易に絞りこめる。しかし嗅ぎ回っていることがバレると、こちらの正体が気づかれるリスクがある。
そのため敵に気づいてからも数日間は何もせずいたが、このままでは根本的な解決にならないと考えそろそろ調査に転じることに決めた。
リスクに飛び込む決意をした大導路の脳裏に、チラリと先日見た生配信の映像がかすめた。
困ったことがあれば相談して欲しい。あの男はそう言っていた。
この状況を相談するか?という思考を覚えたが、すぐにそれを却下した。
謎の敵に狙われてるかもしれないという不安を、同じく敵かもしれない別の能力者に相談して解決する可能性は無いでもないが、より危険になるリスクが非常に高い。
※
翌朝も大導路はいつもどおり登校した。
ここ最近は毎日通学路も変えている。いつどこで紅針盤による探知をされるか分からないし、朝いつも同じ道を歩いていると知られれば通学路で待ち伏せされる可能性がある。また生活圏を特定される恐れもある。
どの道を歩いても最も通学が混む時間に到着できるよう、自宅を出る時刻も都度変えていた。
時間帯を決めて定期的に使用していた紅針盤も、学内の敵に対して集中して行うように使用するタイミングを変えていた。
家を出る前に一回、高校に到着する直前に一回、昼休みに一回、放課後に一回、寝る前に一回としていた。
敵が表示されるタイミングは常に校内に居る時で、自宅で紅針盤を使用して表示されたことはない。
こちらの住所を特定しようとするほど好戦的では無いという分析ができた。それは大導路も同様で、相手の家を突き止めて急襲しようという戦闘意欲は無かった。
そもそも戦えるのか?殺せるのか?その自問は延々と続いている。
大導路は殺意解放を選ばなかった。考えあっての決断だったが、それゆえに殺人についての自身の主義は何一つ固まっていない。
※
「園田」
クラスメイトの園田に教室移動で廊下を歩いている最中に声をかける。
「なんだ」
「お前は知り合いが多いな」
「俺のSNSのフォロワーの数見る?」
「そういうのはいい」
「話題を出しておいてお前…」
最低限のことしか話さない大導路がフリートークらしき話題を持ちかけてきたことに、園田は素直に驚いていた。
無論、大導路にははっきりとした狙いがある。
「お前なら知っているかもと思って聞くが、ここ最近で数日休んでいた同学年の生徒は知らないか」
情報通の園田のことだから何らかの情報を知っているかもしれないという打算があった。どういう返答にせよ、園田に質問をしたことについては口止めをするつもりである。
「数日休み?知らんなあ」
しかし狙いは虚しく空振り、素っ気ない回答を聞いた。
他の者にも聞き回ればいつかは知っている者に出会えそうだが、聞けば聞くほどに嗅ぎ回っていることがバレるリスクが上がる。
園田に聞くくらいが限界だろう。大導路は早々に諦めた。
「あ、それって登校拒否とかも含めるのか?」
しかし園田の突然の問いにやや驚く。
「含めるとどうなる?」
「一人、そういう奴がいるって話になる」
「ここ最近で復帰したのか?そいつは?」
「そう。長いこと登校拒否していた奴が、多分先週くらいからかな。突然来るようになったんだよ」
登校するようになったのは能力を得たことと関係があるのか?推理するが現時点では何とも言えない。
「そいつはどこにいる?名前は?」
逸るまい、と思いつつ聞く。園田はこともなげに答えた。
「名前は、たしか八方破孔だったかな」
思わぬところで敵の正体を知ることができた。大きな収穫に大導路の目が色めきたつ。
「俺達と同じ学年か。どのクラスか分かるか」
「ああ…たしか…ていうか、あいつだな。あいつ」
「え」
園田は前方を指差した。ごく普通に何気なく指差した。
大導路達が歩いている廊下の突き当たりに、数人の男子の集団がこちらに向かって歩いてきていた。大導路達と同じように教室移動だろう。
「あの一番小柄な奴がそうだよ」
男子の集団に馴染めているのかいないのか、集団の端を歩いて誰とも話さないでいる小柄な男がいた。
それが八方だった。




