第28話-【第三章】能力者、全員集結
「…」
大導路は動画サイトに投稿された謎の映像を繰り返し見続けていた。しかし何度観ても、映像は文章以外何も映っておらず、隠された仕掛けなどは一切無さそうだった。
つまり言葉通り指定の時間に生配信を見て欲しいという、そのためだけの映像ということだ。そう結論づけた。
指定の日時は明日の夕方。
SNSを見ると謎の映像について活発な議論が行われていた。都市伝説である絶対者と紐付けて考察している者が多くいた。
今や絶対者という存在の真偽は実生活で語られることはほぼ無くなっているが、インターネット上では話題に取り上げられることがしばしばある。都市伝説好きの若者にはなかなか香ばしいネタとして扱われているのだ。
特に四年周期に当てはまる今年は、珍しいニュースが流れるたびに絶対者と関連づける者は多くいた。その中で『能力者』などと意味深な単語が出る今回の映像に食いついた者は多かった。
『絶対者が誰かに呼びかけている?』
『映像を制作したのは絶対者?あるいは絶対者の指示下にいる人間?』
『この映像は隠れ蓑で、本当に重要なことは他で起きているのでは?』
『ただの得体の知れない宗教団体の仕業じゃないか?』
『これは政府が流した映像だよ。絶対者という存在に注目させて、今度の選挙に対する国民の関心をそらす気だ。卑怯な手だよ』
『私を狙う集団ストーカーがまたこんな卑怯な手を使ってきた』
『映像を見るだけで脳を壊す信号が視神経を通して頭に入ってくるから、絶対に観ない方がいい。特に三回以上観た奴はやばい』
『マジかよ、俺百回以上観たぞ』
皆が思い思いの意見や感想を書き込んでいる。
自分は真相を知っている、という書き込みが多いのが大導路には興味深かった。この動画を配信した人物とは知り合いだ、と書き込むも者も多い。自分が配信した本人と告白している者もいる。
また自分こそが絶対者なのだと語る者もいるが、これはインターネットが一般化してから現在に至るまで、常に存在し続けている書き込みだ。
こんなにも『自分は真実を知っている』という書き込みがあるのに、当事者であるはずの自分は何一つ分かっていないのは面白いな、と大導路は妙に感心していた。
大導路にはこの映像を配信した真意も、配信した者が誰なのかも一切分からなかった。
やれることは、生配信が始まる時刻を待つことだけだ。
※
配信開始前、大導路はインターネットカフェ内のパソコンの前に座っていた。
生配信を見ることで誰かにIPアドレスなどを調べられて居場所を特定されるのではないか、そうした懸念を覚えたので自身所有の端末での視聴はやめた。
インターネットカフェでも調べようと思えば誰がいつどんなサイトを見たか分かるだろうが、警察くらいでないと開示請求はできないだろう、ということで受け入れることにした。
指定の動画配信サイトに入る。配信開始時刻にはまだなっていなかったが、とりあえずサイト内の様子を見た。
『大予想!渋谷の映像の正体』
『噂の生配信は本当に行われるのか?徹底解説!』
新着動画欄は似たようなタイトルで溢れていた。
この分だと配信開始時刻にはさらに多くの動画が投稿される。既に予告された時刻と同時刻に始まる生配信が大量に待機しているようだった。自分の配信が本物だと語る者も多いはずだ。適当に探していては本当の配信にはたどり着けそうに無い。
しかし大導路は調べ方に気づいていた。流れた映像の文章によると、ヒントは『僕らの武器』。
検索欄をクリックして『蒼刃』と検索する。
するともうすぐ配信予定の動画が一本現れた。タイトルは『蒼刃 二十六』。配信開始時刻も映像で予告されていた時刻だ。
間違いなくこれだ。動画ページに入るとパスワード入力のポップが表示された。この動画サイトはプライベートな配信向けにパスワードの有無を設定することができた。
入力フォームの下には文章が書かれている。
『パスワードのヒント:手に宿るもの』
大導路は『koushinban』と入力した。エンターを押すとポップが消え、動画ページに入った。
画面には配信開始時刻までのカウントが表示されている。画面脇に表示されている閲覧人数を見ると十二名が待機中と表示されている。
ほぼ間違いなく全員能力者だ。敵と呼ばざるを得ない者達が数字として目の前に現れていた。
もしかするとこの中に安在がいるのかもしれない、そんな想いがちらりと浮かんだ。
再生開始時刻が迫ってくると視聴人数は続々と増えていった。
そして再生開始直前、視聴人数二十三人。
能力者、全員集結。
※
開始時刻になって配信が始まった。生配信の映像は中性的な顔立ちの男が映っているだけの非常にシンプルな構図だった。しかし男は変装もしておらず素顔を晒している。
こいつは能力者ではないのか…?大導路は訝しんだ。
能力者ならば素姓がバレるようなことは絶対に避けたいはずだ。ましてやそれを見ているのは敵である他の能力者達だ。
「初めまして。みなさん」
男が喋りだした。繊細そうな印象の囁くような声だった。
「僕はこの戦いの参加者の一人だ。紛れもなく能力者だ。君達は…」
男は何かを見る仕草をする。自分の目の前にあるモニターを見ているのだろう。
「視聴人数二十三人…。僕を入れて二十四か。正直、全員来てくれるとは思っていなかったよ。では早速、本題を話したい」
男は少しだけ間を置いてから告げた。
「単刀直入に言うと、この戦いを止めたい。戦いを不成立にさせたい」
『そんなこと、できるはずないだろう』
映像横のコメント欄に突如として書き込みが現れた。何者かがコメントしたのだ。ユーザーネームは『No Name』となっている。
男もそれに気づいて反応した。
「確かに僕がこれからする提案は戦いを絶対に回避できるというものではない。だが可能性はあると思っている。僕の提案は大多数で同盟を組むということだ」
『同盟?仲間を作るということか?この殺し合いで?』
また他のコメントが現れた。同一人物かは分からない。
「そのとおり。この戦争に参加したくない者、殺し合いをしたくない者で同盟を組む。そしてその同盟は戦いには参加しない」
非戦闘勢力…?
大導路はこの男が何を狙っているのか把握しつつあった。




