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能力者戦争  作者: 豆腐
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第27話-王魁の善意

 王魁旺我は子供の頃から強い正義感に燃えていた。


 政治家だった父親の影響か、あるいは母親の教育方針のもと幼い頃から政治や経済や国際ニュースを見せられたからか。


 いずれにせよ『世の中を平和にしたい』という執念のような夢を小学校に進学する頃には抱いていた。


 ある意味で王魁は感情的な子供だった。テレビで自分と同じくらいの子供が虐待死したというニュースを見た時、あるいは複数の野良猫が何者かに殺されたというニュースを見た時、王魁は決まって号泣した。


 虐待死した子供や動物の受けた傷は自身の傷のように感じられ、彼らの死に対して身が裂けんばかりの悲しみを覚えた。世の中の無常さや残酷さに怒りや失望が混ざったグチャグチャの感情を覚えて、それに押し潰されそうになっていた。


 王魁は歴史書に書かれている平和運動を行った聖人・偉人のページを読むたびに苛立ちを覚えていた。確かに彼らは世界を平和に導いた。しかしそれは部分的でしかない。一部の人種、一部の地域を平和にすることはできても世界の全てを平和にすることはできなかった。


 何て中途半端な奴らだろう。王魁は聖人・偉人を全員軽蔑した。奴らは全てを変えることを諦めて妥協したのだ、と心中で吐き捨てた。


 この世から戦争が消え、犯罪が消え、不正が消え、正しく生きる人は何の理不尽も無く、全ての生物が悪意に触れない世の中。そんな世の中を人類は目指すべきだと思っていた。


 王魁にとって自己は世界であり、世界の平和が自身の平和であり、自己の幸せとは世界が幸せになることだった。


 自身の考え方は独特であると自覚した中学生のある日、王魁は決心した。


 このような思考に至ったのは運命であり、天命なのだ。自分はどんな手段を使ってでもこの世界を平和にしないといけない。それが自分が死ぬまでにやることなのだ。


 自身の存在意義と生涯の夢を見つけた時、王魁はたまらないほど高揚した。心が輝いていた。


 しかしその想いはあまりに強く、世界を平和にするという結果のためなら過程は何でもいいという思考が生まれていた。誰もが成し得なかったことを自分が成し得るには綺麗事だけでは当然済まないと考えていた。


 目指すべきは国の総理でも宗教の教祖でもテロリストでも何でもよかった。最終的に全てが平和になるのなら自身はどういう存在でもいいし、どう思われてもいい。


 多くの知識はあるに越したことがないと考えた王魁は、日常から多くの本を読み勉学に努めた。優秀な成績を残し優秀な高校に進学できたが目指すゴールは遥か遠い先にあった。


 自分はそこに辿り着けられるか、時に不安に駆られた。


 そんな折に戦いに呼び出され『命令』という能力を与えられて、試運転で適当な人間を操った時、王魁は自身の人生の道筋を見つけた。遥か遠いゴールは依然として遠かったが、そこまでの長い道程の全てを見通せた。


 絶対者になって叶える願い、それは全ての人間に『命令』ができるようになること。自分の思惑どおりに全ての人間を操ることができれば、世界は必ず平和を実現できる。


 不老不死という報酬も王魁にとって大変都合が良かった。永久にこの世界を監視できる。永遠に世界を平和にできる。


 誰も苦しむことがない世の中にできるのだ。何も悪いことをしていないのに死ぬ赤ん坊はいなくなる。一方的に虐待される動物もいなくなる。人種差別や性的マイノリティに対する差別はこの世から消失する。


 全ての国を掌握して世界全体の経済をコントロールすれば、孤独死する老人や治療を受けられないまま死ぬ病人もいずれはいなくなるだろう。


 小規模から大規模まで、信号無視から戦争まで、全ての規模の悪意を消して一切の理不尽が無い世界を作ってみせる。


 王魁は生き続ける意味と戦う意味を知った。





 とある一室で王魁、皆噛見、異界の三人はくつろいでいた。三人が集まったのはレンタル会議室。王魁が予約したものだった。


「わざわざこんな金がかかる所を選ばなくてもな」


「ここの管理者に『命令』したので金はかかってないぞ」


 皆噛見の感想に王魁は気さくに言う。


「三人の誰かの家やカフェなんかがよかったか?そんな所を選んでも当然警戒するだろう。住所や生活圏を知られたくないだろうしな」


 三人はいずれも必要以上の情報を開示していなかった。名前と能力名と、断片的な能力の内容しか共有できていない。


「カフェなんかには集まれないだろう。そんな風体ではな」


 異界が皆噛見を見ながら嫌味気に言う。皆噛見は『怪物』で異形の姿になっていた。


 この日集まった理由の一つに、皆噛見と異界の顔合わせという目的があったが、信頼できるまでは異界に素顔を見せないと皆噛見は言い、異界がやって来るまでに変身を終わらせていた。


 二人の顔合わせはあっさりと終わった。二人とも不要な戦闘を行う気はなく、何一つ荒れることもなく互いの自己紹介は終わった。しかしどちらも一切の笑顔は見せなかった。


 この日集まった理由は顔合わせ以外にもう一つ、今後の計画についてだった。


「まさか俺達を誘っておいて、この後の策がないとは言うまいな」


 皆噛見が言うと王魁は不敵に笑った。


「色々考えてはいる。まず我々チームの人数だが、俺はあと二人は増やしたいと思っているところだ」


「二人?あまり多過ぎても裏切りが出るぞ」


 裏切り、という言葉をあえて出したのは王魁や異界の反応が見たかったからだが、王魁も傍で聞いていた異界も全く動じていなかった。


「その時はその時だ。現状の残り人数は二十四人。あと三、四ヶ月もすれば何人かが消えていくだろう。残り十数名というところで我々が五名ほどで固まっていれば一大勢力だ。二人や三人はともかく五人以上の勢力が他で作られるのは考えにくい」


「ま、似たような思考の奴に出会えるかは完全に運だと思うがな」


 皆噛見は感想を言いながら、ちらりと異界を見る。


「お前は何をやっているんだ」


 異界は先ほどから自身のスマートフォンを夢中で操作していた。


「ここ最近のニュースを見ている。一週間くらいろくに見れなかったからな」


 留置場上がりらしい発言に皆噛見は何も言わず眉を寄せる。王魁は話を続けた。


「仲間の他に必要なのは拠点だ。東京都内しか移動できないから、都内で上手く砦となるような場所を見つけていきたい。時には守りに回るような時もあるだろうからな」


「それなら東京の西側…山林地域の方が適しているかもしれんな。県境なら後ろを取られることも無い」


 王魁と皆噛見の意見交換に、黙ってニュースを見ていた異界が割り込んだ。


「なにか興味深い話題が流れているぞ」


 そう言って自身のスマートフォンの画面を見せる。王魁と皆噛見が画面を見るとそれはSNSの投稿だった。


『渋谷の広告モニターに謎の宣伝が流れてる!』


『正体不明の告知が流れてるぞ。能力者ってなに?』


「何のことだこれは?」


 皆噛見が突っ込むと異界が自分に画面を戻して操作をし始める。


「渋谷駅前の大型モニターに意味が分からない映像が流れたらしい。個人が広告会社に金を払って映像を流したと思われるが、どうやらそこに…」


 言いながらまた画面を二人に見せる。画面は動画サイトに変わっていた。


「能力者、という単語が含まれているらしい」


「なに?」


 王魁が敏感に反応する。


 異界が動画ページの再生ボタンを押すと、誰かが撮影した渋谷駅前の映像が映し出された。大型モニターも撮影されている。


 モニターに映っているのは文字だけの映像だった。これといった加工もしていない淡々とした内容の映像、しかしそこに映る文面に王魁と皆噛見も見入った。


『能力者達に告ぐ。伝えたいことがある。○○日✕✕日△△時に、動画配信サイト●●●で流す生配信を見て欲しい。ヒントは僕らの武器だ。それで配信を見れる。…君達に伝えたいことがある』


 映像は同じ文章を三回ループさせて終了していた。どうやらこの映像が定期的にモニターで流れているらしい。


「広告会社に金を払い、倫理的に問題がなければ誰でも希望の映像を流せるようだ。金額を考えれば普通は企業案件のはずだが、流した本人は個人のように見えるな」


「そこまでして見せたいものって何だ?生配信というのはどういうことだ?」


 異界の解説に対して、皆噛見が疑問を投げる。それに答えたのは王魁だった。


「指定の日時に動画サイトで生配信するということだ。そこで伝えたいことがあるのだろう。宛先はメッセージにあったとおり、俺達だ。これを流した奴以外の二十三人だ」


 そう喋る王魁の顔を見て、異界は訝しげな表情を浮かばせた。


 王魁が顔に浮かばせていたのは警戒心や不安ではない。予期せぬ事態と姿の見えない新たな能力者の存在に対して、多大な好奇心を浮かばせていたのだ。



【第二章】 終

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