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能力者戦争  作者: 豆腐
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第26話-異界のプライド

 生き残るための最適解、そう考えてこの場に留まっている。


 不快な場所では無かった。三食与えられて寝床も用意されている。しかし部屋からは出られないのでどうしても運動不足になりがちだった。毎日の腕立て伏せやスクワットを日課として、最低限のトレーニングを行っていた。


 外の空気を吸えないのはやはり不満だったが、しかし自由の身としてそこらを歩いている時に、能力者に不意打ちで攻撃されて命を落とす可能性を考えると我慢できた。


 それはあまりにも、あまりにも屈辱的だと思うからだ。


 だからこそ今日もいつも通り、黙って与えられた飯を食い、貸し出しの本を数冊取って読書にふけっていた。


 しかしこの日は少し様子が違った。普段自分を監視している者達とはどこか違う気質の視線をふと感じた。


 座ったまま通路に面している鉄格子の壁を見ると、鉄格子の向こうに立つ男がこちらを眺めていた。成人ではないのが顔の雰囲気から分かった。だがこの場に未成年が訪れることは普通は無い。


異界いかい穢見夜いみやだな?」


 男が聞いてきた。


「君は誰だ」


「俺は王魁旺我という。能力者だ」


 そう言って鉄格子の向こうから左手の甲を見せつけた。紅針盤の存在を示唆したその動きは、王魁が戦いの参加者の一人であることを十分に説明していた。


 異界はたいした動揺もなく、王魁に質問した。


「どうやってここに入ってきたんだ」


「そういう能力だ。お前に会うために色々計画する必要はあったが、ともあれここまでたどり着けた」


 王魁の『命令』で操れるのは一日最大五人。警察署のどの五人に命令すれば騒ぎも立てずに留置場まで来れるのか、計画を考える必要があった。


 警察署長に直接会えるようそこそこの役職の者とどうにか接触ことができ、その者を伝って警察署長に会い、留置場を管理している部署の管理職にも会ってそれぞれに『命令』した。


 苦心の末、誰からも咎められることなく中に入り、且つ警察署に入った記録は何も残らないように調整することができた。


「生き抜くためには公権力の庇護の下に入る、といったところか。なかなか考えたな。それほどにこの戦いを勝ち抜きたかったか」


「…勝ち抜きたいわけじゃない。だが為す術もないまま一方的に殺られるのは嫌だっただけだ」


「それで絶対者に呼び出された翌日にはどう考えても捕まるだろう下手な強盗をやって、予定通り捕まってここに閉じこもったというわけか。確かにここなら位置がバレてもなかなか入れない。能力者でも警察の拠点に突撃するのは厳しいだろうからな」


「だが入られてしまえば僕に打つ手はない。今ここで僕を殺すかい」


「それはお前の言う、一方的に殺られるってことになるのかな」


「そうなるかもしれないが、一応抵抗はするつもりだ」


 そう言って異界は立ち上がった。臨戦態勢だ。


 だがそれを王魁は手で制した。


「お前が嫌じゃないなら提案がある。俺と組まないか」


「組む?」


「俺にはもう一人仲間がいる。俺達とお前の三人でこの戦いを攻略する」


「互いに殺し合う関係なのに一緒の卓に着いて作戦を練ろうというのか」


「それがこの戦いを勝ち抜くための一つのやり方だということは、お前だって分かってはいるんじゃないのか」


 異界は黙った。王魁はたたみかけるように言う。


「躊躇することもなくすぐに逮捕されて守りに入ったその機転、俺はその知略が欲しい。お前が絶対者になる気は無いと言うのだったら俺に力を貸せ。俺が気に食わなかったり絶対者になりたくなったら、俺を攻撃すればいい」


「なるほど。しかし一緒にいる以上、僕は君といる間は常に君に殺されるリスクを抱えることになる」


「ならばお前を攻撃するときは事前にお前から承諾をもらうことにしよう」


「その約束を守る保証は?」


「何も無いが、約束は守ろう」


 異界は俯いてため息をついた。


「一つ条件がある」


「なんだ」


「僕は舐められるのが大嫌いなんだ。こいつは僕を下に見ている、と思った瞬間にはらわたが煮えくりかえりそうな程不愉快になるんだ。だから決して侮らないで欲しい。ある意味ではこれはお願いだ。僕自身が不愉快にはなりたくないから、頼むから小馬鹿にしたり軽んじたりはしないで欲しい」


「分かった。肝に銘じよう」


「もし舐められている、と思った時には…」


 言いかけている途中で異界の姿が消えた。


 何が起きた、と王魁が目を見張った次の瞬間には王魁の眼前、鉄格子を挟んでいたが互いの息がかかりそうなほど目の前に、異界が立っていた。


 瞬間移動?王魁は瞬時に推察するが実態は分からない。


「躊躇なく前振りなく君を殺す。君がどれだけ野望半ばでも、必ず殺す」


 それは実際に、もし蒼刃を持っていたら難なく王魁の心臓を突き刺せる距離間だった。


「…なるほど。良い能力を持っていそうだな。大いに頼もしいよ、お前」


 正直に胸の内から出てきていた王魁の感想を、異界は素直に受け取るべきか悩んだ末、片眉を上げるだけで何も言わなかった。


「これはもう一人の仲間にも言ったんだが俺達は対等だ。上下関係は当然無い。極論、残りの能力者が今日にでも俺達だけになったら、今すぐにでも殺し合う間柄だ。それでいいし、それがいいと思っている。お前もそういう距離感でいてくれそうだからちょうどいい」


 異界は再びため息をついた。しかしそれに不快な念はこめられていないようだった。


 示威行為には飽きたらしく、王魁と距離をとって部屋の中央に戻った後に言い出す。


「で、ここまで話して僕をここから出す策が無い、などとは言わないよな」


 言われて王魁は満足げに微笑んだ。

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