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能力者戦争  作者: 豆腐
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第24話-数的優位と個の威力

 王魁はいくつかの戦略を考えていた。


 昨日、自身の存在が相手にバレた時、王魁もまた紅針盤を起動して相手の存在に気づいていた。


 敵と対峙する日はそう遠くないと予想した王魁は早速迎撃の準備を始めた。逃げることはいくらでもできた。しかし王魁にその意志は無い。


 敵の存在に気づいた翌朝、王魁は街中を練り歩いて『命令』で駒にする人材を探した。そして逸材を見つけた。


 準備は完了したが、完了したその日のうちに敵が向かってきて眼前に立ってくるとまでは予想していなかった。とはいえそれは戦わない理由にはならない。


「出てこい」


 王魁が歩道から少し離れた茂みに向かって言うと、茂みから男が一人現れた。


 暗闇でも分かる高そうな白スーツ。筋肉隆々の体格であることも一目瞭然だ。髪は丸刈りで目には不気味な眼光をたたえている。


 ヤクザだった。王魁の『命令』にかかれば赤子だろうがヤクザだろうが意のままに操れる。


 『命令』で操る対象者の選定方法としては、個としての戦闘力がより高い者を操ることがベストである。そして街中にいる戦闘力上位といえば、警察官かヤクザというところになる。


 王魁は合図一つですぐ呼び出せるよう近くにヤクザを待機させていた。歩道橋に居た時も皆噛見が遠距離から攻撃してくる可能性を考慮して近くに隠していたが、結果的に皆噛見は近接戦闘を挑んできて、それは王魁にとって最も都合の良い流れだった。


 『命令』は性質上、数的優位を取りやすい能力であり近接戦闘となれば自身を含む最大六人の戦力で敵と対峙できる。数的優位の脅威は先斗との戦闘で証明済みだった。


 しかし王魁の誤算は一つだけあり、それは致命的でもあった。


「協力者がいるのか?まあ何でもいい。お互いがやれることを全部やればいい」


 そう言ったのち皆噛見の様子が変わった。肩甲骨の辺りが膨れ上がったように王魁には見えた。そしてそれは幻覚でも何でもなく、ありのままに起きている事象だと気づいた時にはもう皆噛見の変身はだいぶ進んでいた。


 肥大と呼ぶベき肉体の巨大化。それも圧倒的な筋肉の増加だった。


 胸が膨らみ背中が膨らみ、腕が伸びて太くなり、足が伸びて背丈が遥かに高くなった。ゴキゴキという骨の軋む音が滑稽なほど連続して聞こえてきた。


 唇が捲れ上がって現れた巨大な犬歯を王魁は見逃さなかった。気づけば王魁の頭以上に大きくなった両手には、包丁のような長く鋭い爪が各五本備わっている。


 服は裂けてズボンの残骸が微かに腰部を纏うのみとなった。暗闇でも全身に獣の如き体毛を生やしているのが分かる。


 それは暴力が形を持って、さらに凶悪さで歪んだような禍々しい能力。『M』の能力『怪物(ザ・モンスター)』。


「…想定を遥かに超えているな」


 王魁が小さな声で言う。冷や汗が額から流れて頬を伝った。敵戦闘力の想定、能力の予想。そんなものは全く無駄だったと痛感した。現実的な思考のままでは相手の能力の予想など到底できない。


 危機的状況において、それでも王魁は笑みは絶やしていなかった。


 今や王魁が対峙しているのは巨大な怪物だった。かつて童話で読んだ狼男のようでもあるし、生物図鑑で見たヒグマのようでもある。


 自分の傍に立っているヤクザがまるで子供のような存在にも思えてくる。しかし怯んでいる場合ではない。


「行け。奴の心臓を狙って攻撃しろ」


 王魁が言い放つと、ヤクザは手に持ったドスを皆噛見に向けて突進した。


 屈強な男の突撃、本来なら脅威的であるはずだった。


 ブン、と空気を切った音の直後にヤクザの身体が吹き飛んだ。王魁は空中に飛んだヤクザの身体が歪に捻れているのを見た。


 丸太のような腕と岩石のような手で振った皆噛見の打撃が、ヤクザにもろに直撃して吹っ飛んだ。痛々しい音出して歩道脇に落ちる。あちこちの骨が折れているだろうことは容易に想像できた。


 それを深く観察することもなく、脱兎の如く王魁は背中を向けて走り出した。


 この状況で死んだらなんとお粗末な敵だったと舐められるだろうな、と自嘲気味に考えていた。


 皆噛見はすぐさま王魁を追った。流石に四つ足では無かったが、有り余る筋肉と歩幅の長さにより恐ろしい速さを実現させていた。


 王魁は全力を振り絞って走り、どうにか爪が届かない距離を維持させる。


 全身から汗を吹き出す王魁がたどり着いた先は、広場内にある公衆トイレだった。一目散に女子用のトイレに入る。入り口近くに目隠しの衝立もあるせいで中の様子は皆噛見のいる外からでは見えない。


 皆噛見はトイレの少し手前で立ち止まった。中に入るのは簡単だった。しかし警戒していた。


 トイレ近くの茂み、そこから人の気配がしていたからだ。それも複数の気配だった。


 敵は勝負を捨てていない、そう気づいた。


 王魁が逃げている時もその足取りから恐怖を感じなかった。戦略的撤退、そう皆噛見には感じられた。恐らくこの場所に何らかの策がある。


 さっきのヤクザのように、恐らく何人かの協力者が他にも潜んでいる。そいつらを使って一斉攻撃で勝機を探るというところか…。


 敵はこちらが近づいてくることを期待している。それを承知で皆噛見は一歩また一歩とトイレへ近づいた。


 罠を恐れる理由はない。望んでいるのは暴力と知力を駆使した全力の戦闘だ。罠があるならその罠を全力で攻略するだけだ。


 少しづつ近づきトイレ前の衝立まで来た。


 その時、後方で足音がして皆噛見は振り向いた。少し離れた茂みから土方の作業着の男が飛び出して来て、ナイフのような物を握り締めてこちらへ走ってきていた。


 皆噛見が数秒そちらに気を向けていると警戒していたトイレ横の茂みもザワつき始め、二人の男が飛び出してきた。スーツ姿の男とパーカーを着た学生風の男。


 挟撃か、三人とも敵能力者本人ではないことに皆噛見は瞬時に気づいた。


 後方から来た一人と前方の二人は息を合わせたように、皆噛見に同時に突進してきている。


 これは撹乱…ならば本命は…。


 その時、女子トイレの入り口から新手が飛び出してきて一息遅いタイミングで皆噛見へ向かってきた。


 三人に気を取られている隙を狙った二段階攻撃。これか…と皆噛見は拳に力を込めた。


 しかし皆噛見の動物的な勘の鋭さが、さらなる本命を見抜かせた。


 トイレの屋根の上から人の気配がした。視線を少し上に移した時、暗闇だったが屋上で微かに影が動いたのを見逃さなかった。


 トイレの通風口あたりから屋上に出たか、と推理した。隙をついて頭部を狙ってくるとみて間違いない。


 複数方向による一撃目、そして追い討ちの二撃目、真打の三撃目。三段階攻撃だ。

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