第19話-残り
あまりに非常識な出現すぎて、どうやって現れたのかと聞く気にさえならなかった。
「なんかたくさん映画のソフトがあるね。しかもブルーレイで。こんなにたくさん買うお金はどこにあるの?」
「…旧作のブルーレイならそんなに高くない。そこにあるものも大体が千円とかだ。金は両親の仕送りがある。月に一、二本くらい映画ソフトを買う余裕くらいできる」
「へぇー。十八歳にしてはなかなか渋い趣味だね」
そう言う絶対者はどう見ても大導路より年下に見える。
「さっき暗闇だったが本棚が見えていたのか」
「うん、どんな暗闇でも問題なく見える目なんだ」
そう言って絶対者は自分の目を指差す。
「これも不老不死になった時の影響の一つだよ」
「…不老不死の特典が多すぎないか」
「だって、もし暗闇で何も見えなかったら深海に潜った時に困るでしょ。海で溺れることも水圧で死ぬこともないけど、周りが見えなさすぎて永遠に深海を漂うなんて最悪じゃないか。そういうことが起きないような配慮なんじゃないかな」
「誰の配慮なんだ」
「うーん、それは詳しくは言えない」
そう言って絶対者は肩をすくめて、また本棚の方に視線を戻した。
「この邦画のやつ面白そうだね。グロいのかな」
「…中学生達が集まって、一人になるまで殺し合いをする話だ」
「へぇー。奇抜な内容だね」
「…」
どこまで本気で言っているのかは分からないが、どうあれ現状は命を脅かす危機的状況ではないようだと分かり、大導路は安堵しつつベッドに腰を下ろした。
もっとも悪意のある不審者と悪意のない絶対者、どちらが歓迎できる相手なのかはよく分からない。
「俺の所に来た、というのは俺に聞く順番が来ていて、用件が済んだら次の奴の所へ行くのか」
「ん?いや、全員の参加者に同時に聞いているよ。二十五人にね」
「どうやって?」
「そういうことができるんだ。僕は絶対者だから」
絶対者が大導路の顔を見つめて意地悪そうに微笑む。
「僕は複数の場所に、同時に何人も存在させられるんだよ」
「…それが君の能力なのか」
「それも言えないな」
絶対者は立ち上がると大導路の横に座った。
間近で見るとごく普通の子供にしか見えない。しかし少年なのか少女なのか依然として不明だ。子供とはいえ聞くのは失礼な気がして大導路は黙っていた。
「じゃあ早速なんだけどこれあげる」
そう言ってポケットから物を取り出す。黒い四角い何かだ。
「これが『蒼刃』ね。上手く使ってね」
こんなに気安く殺人の道具を渡されることになるとは、と絶句した。
「使い方はさっき教えたとおり、握って敵意を抱く。それだけさ」
大導道は鞘を受け取って掴み、集中してみた。
途端、鞘の端から青い光が迸る。
「わっ。もしかして僕に敵意を覚えた?」
絶対者が軽く身を退かせながら言う。
「試しだよ」
「怖いなぁ。でも僕にはそれ効かないからね」
「不老不死だから?」
「その通り」
絶対者は誇らしげな顔をしている。
「君は、本当に前回の優勝者なのか」
「そだよ」
「変わった髪色をしているけど、絶対者になるとそうなるのか」
「いや、これは染めてるだけ。目もカラコン」
白い髪を撫でながら何気なく言う。大導路は思わず「え…」と呟いてしまう。
「今、現在進行形で、僕の外見について聞いてきているのは君で十四人目だ。だいたいが髪色とか年齢とか性別とか。でもそんなに気になるかね。そんな情報はこの戦いで優勝するヒントにはならないよ」
「まぁ確かに…ただの好奇心でしかないな」
先に釘を刺されたような気がして、ますます年齢や性別のことを聞きづらくなった。他の能力者に聞かれた際は何て答えたのだろう、とも思ったが知る方法はない。
「さて、次の話だが君には選んでもらうよ。『殺意解放』するかどうかを」
「…そうだな」
大導路は考える。この戦いは能力者との戦いであるが、一方で自分との戦いでもある。学校などで学び教えられ育んだ道徳をいかに捨てることができるか。いざという時に理性を排除できるか、そうした内的な戦いでもあると思った。
どれだけ頭で決断していても戦いの際に迷ってしまうようなら頼るしかない。『殺意解放』というものに。
「どうする?」
催促する絶対者に対して、十秒ほど固まっていた大導路はゆっくり口を開いた。
「俺は…」
※
早朝、ベッドで目覚めるといつもより寝不足を感じた。
昨日の疲れもあるが、途中で起きる羽目になったからだろう。
絶対者が自室に出現したことを夢だと思う気にはならなかった。ベッドの横に置いてある食卓には蒼刃の鞘が置いてあったし、そこに置いたのは大導路自身だ。
昨夜、選択を行ったあとすぐに絶対者は去っていった。
「本当は映画の一本でも一緒に観たかったけどね。流石に二十五ヶ所同時に存在し続けるのはしんどいから、次の機会に取っておくよ」
そう言った直後、大導路が瞬きをしている間に影も形もなく消えてしまった。最初から最後まで異常だったが、異常に慣れつつある大導路は電気を消して再び就寝した。
制服に着替えて家を出て通学路を歩く。負傷した傷の痛みや筋肉痛を感じていたが、どうにか日常生活は送れそうだった。
人の死を直視した翌日にいつもの日常にを過ごすなんて、そうとうイカれている気もしたが、多少イカれていないとこの先やっていけない気もしていた。
歩きながらルールをいくつか考える。最初に考えたのが紅針盤の定期的な起動だった。
まずは朝起きてすぐに一回。登校して高校に着く直前に一回。下校して家に着く少し前に一回。寝る前にもう一回。残りの一回はその日決めたタイミングで行う。定期が四回。不定期が一回。そう決めた。
他の能力者を積極的に探すことは当面せずに、これまで通りの高校生活をひとまず続けることにした。能力者としての正体がばれることや、自宅を特定されることは絶対に避けなくてはならない。十分に注意して生活しなければいけない。
この日、不定期の紅針盤の起動を昼休みに行った。紅針盤に表示されたのは中央の自身の点のみ。周囲に能力者はいない。
しかしいつかは現れる。いつかは紅針盤に他の点が表示される。この戦いからは降りられない。覚悟を決めなれけばならない。たとえ緩やかでも、確かな覚悟を決めなければならない。
いつかは命のやりとりをしなくてはいけないのだから…。
『A』Absorption…『吸収』(ジ・アブソープション)
能力者:安在 晶
任意のタイミングで発動できる。
認識できたエネルギーを触れることで吸収できる。認識できずに触れたエネルギーは吸収できない。吸収できる量には限界があり、限界を迎えると全てのエネルギーが放出される。
『D』Direction…『方向』(ザ・ディレクション)
能力者:大導路 憧夢
対象に手で触れることで発動できる。
対象が持つ運動エネルギーの方向を、触れた際の手が向いている方向へ転向できる。その際にさらなる運動エネルギーを付与する。
自身に使用した場合、手を向けている方向へ移動・加速することができる。
『F』Fire…『炎熱』(ザ・ファイア)
能力者:噴上 風火
炎に触れることで発動できる。
触れている炎を吸収する。吸収した炎は任意のタイミングで炎や熱として放つことができる。
『F』の噴上風火…『死亡』
残り二十五人。
【第一章】 終




