第18話-殺意解放
『二』を作っていた手を下ろして自身の胸に手を当てる。
「蒼刃を持ってもなお、殺人に抵抗を感じる者もいるだろう。どうしても殺意を持てない者もいるはず。なので殺意を持てるような選択肢を用意した。これは蒼刃のように目に見えるものじゃない。君達が僕の提案に賛同した時、僕が君達の心理から『殺意を解放』する。そうすると殺人への抵抗感が無くなる。この戦いに勝つためにより純粋な行動や選択ができるようになる」
その時、能力者の誰かが声を上げた。
「それはつまり俺達の脳をイジるということか?」
言われたことに対して絶対者は首を横に振る。
「肉体には干渉しない。もっと内的な部分、心を調整する。だけど洗脳とかじゃあない。僕が『殺意解放』しても身体も思考も依然として君達自身のものだ。僕の意志や思惑は何も反映されない。君達が抗おうとも抗いきれない殺人の抵抗を、速やかに外せるというだけの話だ」
絶対者は両手を広げた。
「二つ目の話もここまでだ。だからこの後に僕から一人一人に確認するね。殺意解放を行うかどうかを。選ぶ機会は一回きりだ」
「それを決める前に一つ質問いいかい?」
また別の誰かが手を上げた。
「もちろんどうぞ」
絶対者は笑顔で応えた。
「この戦いは絶対者になるための戦い、それはもう理解した。だけどそもそも絶対者とはなんだい。俺らが得られるその称号は何ができるものなんだい。報酬の中身をちゃんと教えて欲しいな」
「これは失礼した」
絶対者は気まずそうに頬をかいた。
「そうだ、そう。今日説明するつもりだった。最初は覚えてたのに。報酬が何だか知らないと戦う気にはならないよね」
「まぁそういうこと」
質問した能力者が相槌を打った。
「では絶対者について…すなわちこの戦いの勝者には何が得られるかについて話そう。単純にシンプルな話。まず不老不死になれます」
あまりに単純でシンプルな答えで、大導路は眉をひそめた。
「不老不死って分かるよね?老いず死なずってこと。それだけじゃないけどね。傷つかないし、苦しまないし、病気にならない。水中でも無酸素の空間でも割と平気で行動できる。放射線も効かないし、行ったことはないけど多分宇宙も平気なんじゃないかな。そういう存在になれる」
「俺、そんなに不老不死とかには憧れていないんだけど。永遠に生きることが苦痛になるかもしれないじゃん」
先程質問した能力者がかなり正直な感想を告げた。不老不死という奇天烈な報酬を受け入れるのが早いな、と大導路は感心した。
「不老不死はいつでも解除できるようになってるから、死にたくても死ねないということはないよ。そして今のは基本報酬ってやつだ」
絶対者が回答しつつ説明を続ける。
「報酬はもう一つあって、それは優勝した者の願いが一つ叶う、というものだ」
不老不死の次は願いが一つ。あまりにおとぎ話や少年漫画めいているな、と大導路は呆れつつ思った。
「願い事はこの世が崩壊するような深刻なものじゃなけりゃ、大抵は叶うと思っていてくれ。たとえば地球を消滅させるとかはナシだし、結果的に崩壊に繋がるような願いもダメ。隕石を落とすとか氷河期にするとかもダメ」
「人を生き返らせることは…?」
それまで質問していた者とは別の者が、おずおずと聞いた。
「人を生き返らせることももちろんできるよ。ただやはり地球が崩壊するような願い方はダメだ。今まで死亡した全ての人類を生き返らす、とかはね。十人とか百人とかなら問題ないよ」
「たとえば三年前に亡くなった人とか…それくらい昔でも生き返らせられるんですか?」
「もちろん」
妙に具体的な質問について、絶対者は簡単に肯定した。
「他に質問は無いかな?まぁこのあとにも話す機会があるから、その時にも質問は受け付けるよ。叶えたい願いは優勝するまでに考えといてね、まだ始まったばかりだけど…。それではまた、次に君達を招集させる時はもっとずっと人が減ってからかな」
物騒なことを言ったな、と大導路は思ったが急に周囲の霧が濃くなってきたことに気づいて周囲を警戒し始める。しかしあっという間に他の能力者やソファーの姿は見えなくなり、ついには何も見えなくなった。
自分が目を開けているのか瞑っているのかさえ分からなくなり、徐々に意識がぼんやりと定まらなくなっていった…。
※
目を開けて最初に驚いたのはとてもクリアーな意識で目覚めたことだ。ガバッと跳ね起きて周りを見る。おなじみの自室だった。
汗をびっしょりかいている。自分が今どんな夢を見たのかハッキリと覚えている。
いや、夢ではなかったのだろう。
再び絶対者に呼び出されたのだ、という確信に近い実感があった。
蒼刃と殺意解放。そして戦いの勝者への報酬。どれも極めて非現実的だったが、恐らくどれも現実の話なのだろうと感じていた。空想と現実の境界が曖昧になっている気がして、何となく居心地が悪かった。
時計を見ると午前三時。どうやら帰宅して疲れてベッドに転がって、そのまま熟睡してしまったようだ。
手から感じる火傷の痛みに顔をしかめて思い出す。あれほどの攻防と負傷があれば死んだように寝るのも無理はない。
汗で濡れて気持ち悪かったので着替えて、ついで水でも飲もうと思いベッドから起き上がろうとした。
その時、部屋に誰かの気配を感じた。真っ暗なので見えてはいないが、何かが居る気がする。
心臓がドクンと鳴った。能力者?まさか…。
しかし一度芽生えた警戒心と恐怖は消えない。
意を決して大導路は電灯の紐に手を伸ばして引っ張った。部屋に明かりが入ると同時に、ベッドから素早く横に跳んだ。
そして相手の姿を認めた。それは部屋の本棚の近くで座っていた。
白い服…小柄な体格…。
緊張で瞳孔を開かせていた目が疑惑に細まる。そして床に座っていた相手が振り向いた。
絶対者だった。
「やぁ、お邪魔してるよ」
絶対者はとても何気ない感じでそこに座っていた。本棚を眺めていたようだった。
「…そこで何をしているんだ」
「さっき言ったでしょ。一人一人に確認するって。だからさっそく来たんだ」




