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9.サロモン先生を紹介するマウリ様

 夕食はサロモン先生はわたくしたちと別々でとる。マウリ様とスティーナ様とカールロ様とハンネス様はご家族だし、わたくしはその中に混ぜていただいている状態だ。ヨハンナ様はマウリ様の食事の介助で一緒の食卓に着く。息子のハンネス様と食事の場を共にできるが、ヨハンナ様はそこでは食事をしない。

 ハンネス様はヘルレヴィ家の息子として受け入れられているが、ヨハンナ様は乳母なので使用人と同じ扱いになっている。それでも同じ場所で不自由なく暮らせることにハンネス様とヨハンナ様は満足してくれているようだった。

 裕福ではなく、下級とはいえヨハンナ様は貴族の娘だ。それを乳母として雇い入れることには賛否があるのかもしれないが、ヨハンナ様はオスモ殿に借金のかたに無理やりに妾にされて、実家には帰れる状況ではない。ハンネス様を連れて働くとなると、ヘルレヴィ家よりも条件のいいところは他にないだろう。

 乳母という立場を受け入れてヨハンナ様はサロモン先生にもはっきりと意見を言っている、マウリ様のことを一番に考えてくださるよき乳母だった。


「ヨハンナさま、サラダのおまめがにげちゃうの」

「スプーンの上に乗せましょうね」


 ヘルレヴィ家に来た頃は食事介助もそっぽを向いて嫌がっていたマウリ様は、今はヨハンナ様に甘えるようになっている。お皿の上でつるつると逃げてスプーンに乗ってくれないサラダのひよこ豆をヨハンナ様のスプーンでマウリ様の小さなスプーンの上に乗せてもらっている。

 わたくしたちが使っているのはヘルレヴィ家のドラゴンの紋章の入ったカトラリーだが、マウリ様が使っているのは木の柄のついた子ども用のスプーンとフォークだった。ナイフはないので大人と同じものを使っているが、上手く握れずヨハンナ様に頼ることになる。


「きちんが、きれないんだけど」

「チキンですね。わたくしがお手伝い致します」


 手を添えてナイフを持ってパリパリに皮の焼けたチキンを切るマウリ様とヨハンナ様。ヨハンナ様が一人で切ってしまわずに、マウリ様にナイフを握らせて、そこに手を添えているからマウリ様も自分で切った気持ちになって食事を満足して続けられていた。

 フォークで切ったチキンを刺してお口に運ぶマウリ様。口いっぱい頬張ってもぐもぐと咀嚼していると、カールロ様がそれを見て目を細めている。


「マウリはスティーナ様に本当に似てるな。なんて可愛いんだろう」

「父親に似なかったのが幸いでしたわ」

「父親は俺だろう?」

「そうでした。カールロ様に似てくれたらよいのですがね」


 臆病なマウリ様がカールロ様のように豪胆になる日が来るのだろうか。臆病なままでもわたくしはマウリ様は可愛いと思ってしまうのだが。

 夕食を終えるとマウリ様はお風呂に入る。わたくしもバスルームで身体と髪を洗ってバスタブに浸かる。そろそろ寒くなり始める時期だった。

 髪にタオルを巻いて水分を取りながらバスタブで温まって、寝るためのパジャマに着替える。ハンネス様が次にお風呂に入って、出てくる頃には子ども部屋で準備が整っていた。

 パジャマ姿で通信をするというのは恥ずかしい気もするけれど、その後は部屋に戻って眠る準備をするだけなのでスティーナ様もカールロ様も気にしないでくれるからそうさせてもらう。マウリ様もまだちょっと湿った髪で子ども部屋の指標の上に置かれた魔法具の前に立っていた。


「そろそろ時間ですか?」

「サロモン先生、こんな格好で申し訳ありません」

「いいえ、お気になさらず」


 今日はサロモン先生も一緒だったとサロモン先生が子ども部屋に来て思い出して、普通のワンピースを着ておけばよかったと少し後悔してしまった。同じお屋敷に住んでいるからパジャマ姿を見ることがあるかもしれないが、ちょっと恥ずかしい気がする。

 困っているわたくしに、ヨハンナ様がカーディガンを羽織らせてくれた。


「それでは繋ぎますね。ミルヴァ様、クリスティアン、聞こえますか?」


 魔法具に手を翳して通信を始めると、ミルヴァ様とクリスティアンと父上と母上の立体映像が浮かび上がる。わたくしたちはマウリ様にカールロ様にスティーナ様にサロモン先生にハンネス様と大勢だった。


『あねうえ、こんばんは! きょうもちゃんとねるじゅんびはできてるよ!』

『まー、わたくし、かわったの、わかる?』


 立体映像でくるりと回って見せるミルヴァ様に、マウリ様は目を丸くしている。


「みー、まえがみ、きった?」

『そうなの! わたくし、まえがみがのびすぎていたから、きってもらったの』

「わたしも、あしたきってもらう!」


 マウリ様はミルヴァ様とお揃いにしたいようで、前髪を切ってもらうつもりでいる。


「マウリはちょっと髪が伸びて来たな。全体的に切ろうか」

「わたし、みーとおなじがいい」

「マウリも三つ編みにするのか?」

「だめなの?」


 お揃いにしたいと言っても、ミルヴァ様は三つ編みに憧れて髪を伸ばしている途中だし、マウリ様は髪を邪魔にならない程度に切っている。これから同じにするのは難しそうだった。


「短いのも可愛いですよ」

「まー、かみ、きる」


 わたくしが言葉を添えるとマウリ様はあっさりと意見を変えた。


「みー、わたし、サロモンせんせいにおべんきょうをならうことになったんだ」

『サロモンせんせい? わたくし、ミルヴァ・ヘルレヴィです』

「ご丁寧にありがとうございます。私は、サロモン・シルヴェン」


 紹介するマウリ様に、ミルヴァ様が一礼して、サロモン先生も深々と頭を下げる。マウリ様よりもミルヴァ様の方がしっかりしているように見えるのは、女の子だからだろうか。男の子よりも女の子の方が成長が早いとわたくしの両親も言っていた気がする。


「みー、きいて。サロモンせんせいにだいじなことをおしえてもらったんだ」

『なぁに、まー?』


 真剣な表情で話し出したマウリ様に、ミルヴァ様も同じく真剣な表情で聞く。身長もほとんど同じで、顔立ちもそっくりな二人は、違うのは髪の長さだけだった。


「おおきくなってからだっこされると、おひざやこしがいたくなるんだって」

『そうなのね。わたくし、もうほとんどだっこされてないけれど、ばしゃにのるときは、ころげおちるからおひざにだっこしてもらっているわ』

「おひざにだっこしてもらうのはだいじょうぶ」

『それならよかった。サロモンせんせい、だいじなことをおしえてくださってありがとうございます』


 抱っこに関することは5歳の二人には重大な問題のようだった。伝えあって安心していると、サロモン先生がミルヴァ様とクリスティアンに話しかける。


「私はグリフォンです。ドラゴンほど強くはありませんが、何かミルヴァ様が自分の本性のことでお悩みがあったら、いつでも言ってください」

『グリフォン! クリスさま、グリフォンってなぁに?』

『あたまがわしで、からだがらいおんで、わしのつばさのついた、げんじゅうだよ』

「ドラゴンと同じく飛べますし、珍しい種類ではありますので」


 サロモン先生の正体を聞いてクリスティアンの水色の目が光る。


『サロモンせんせいはとべるんですか? とぶって、どんなかんじですか?』

「カールロ様も、マウリ様もミルヴァ様も、飛ぶことができますよ。飛ぶのはとても疲れます」

『疲れるんですか?』

「ぶつかるものがないか常に緊張していなければいけないし、身体を宙に持ち上げるだけでも物凄く筋力を使います」


 マウリ様もミルヴァ様も気軽に飛んでいたので全然知らなかったが、飛ぶのには筋力を使って疲れるとわたくしは初めて知った。


「俺が筋肉質なのも鷲だからだもんな」

「そうだったのですね、カールロ様」


 驚いているとマウリ様とミルヴァ様もうんうんと頷いていた。


「わたしも、とぶとおなかがすくよ」

『わたくしも、ねむたくなっちゃうの』


 飛ぶことは楽な動作ではない。それを知れただけでも今日一日はとても勉強になった気分だった。


「ドラゴンは精霊を従えると言います。風の精霊に助けられているから、少し疲れるくらいで済んでいるのかもしれませんね」

「ドラゴンは精霊を従える……精霊って妖精みたいなものですか?」

「目には見えない世界の四大元素を司る存在ですね。魔法が失われてから、使えるものも少なくなったと言われていますが、アイラ様がおられるから、マウリ様の傍には風の精霊が集まっているのでしょう」


 精霊についてもわたくしは知らないことだらけだった。エロラ先生のサンルームには大気を司る妖精の管理人がいる。それと同じようにマウリ様の周囲にはマウリ様を助ける精霊がいる。


「魔法使いやドラゴンは見えるようになると言われていますがね」

「いつかわたくしも見えるようになるのでしょうか」


 魔法使いやドラゴンは精霊や妖精が見えやすい体質であると言われて、目を凝らしてみてもやはり何も見えない。いつかは見えるようになるのだろうか。

 エロラ先生の授業でまた質問したいことが増えて来た。


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