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5.二年生最初の課外授業

 二年生になって変わったのは、古代語がかなり読めるようになったことだった。一年間古代語の基礎をみっちり学んだわたくしは、専門書のように難しくない古代語の本ならば辞書なしでも読めるようになっていたし、専門書も辞書を引きながら読むことができるようになっていた。文法を授業できっちりと教えてもらったのがよかったようだ。

 魔法学の授業も進めやすくなっていた。

 火の魔法、風の魔法、土の魔法、水の魔法の四大元素に加えて、癒しの魔法と結界の魔法と防御の魔法と、術式の編み方も慣れて来た。


「課外授業を行おうか」


 わたくしの上達具合を見てエロラ先生が申し出てくれたのは、二年生になってすぐの頃だった。ヘルレヴィ家に手紙を書いて、スティーナ様とカールロ様に許可を取る。

 課外授業の許可が取れるとわたくしとエロラ先生は移転の魔法でヘルレヴィ家に向かっていた。空間を直接つなげるドアを作るようなイメージでエロラ先生のサンルームとヘルレヴィ家を繋ぐ。移転の魔術もエロラ先生の監督下であれば、わたくしは紡ぐことを許されていた。

 無事にヘルレヴィ家に着くと冷や汗をかいて座り込みそうになるわたくしに、エロラ先生は少し休憩をくれる。ヘルレヴィ家に入って子ども部屋でお茶を飲んでいると、マウリ様が隣りに座ってわたくしを見上げて来た。


「アイラさま、つかれてる?」

「少し疲れました。魔法の術式を編むのは楽ではありませんね」


 話を聞いてマウリ様が真剣な眼差しになる。


「わたしのげんきをわけてあげる」


 きゅっと小さな手がわたくしの手を握る。緑色の生気がわたくしの中に流れ込んでくるのを感じる。


「げんきになぁれ、げんきになぁれ」

「マウリ様、ドラゴンの力を使っているのですか?」


 自然と流れ込んでくる生命力にわたくしは回復していくのだが、小さなマウリ様がこんなことをして平気なのかが気になる。正面の席でお茶を飲んでいるエロラ先生に問いかけてみる。


「マウリ様から生命力が流れ込んでくる気がするのですが、こんなにお小さいのにわたくしに生命力を分けて大丈夫なのでしょうか?」


 心底心配なわたくしに対して、ソファから立ち上がったエロラ先生がマウリ様に近付いた。蜂蜜色の髪の毛をくしゃくしゃと撫でると、アメジストのような目を細める。


「元々ドラゴンは生命力が非常に高いし、傍にマンドラゴラもいる。周囲の大気から生命力を得るグリーンドラゴンの特性がちゃんと活かせているから心配はないよ」

「よかった……」

「わたし、おかあさまにも、げんきになぁれしてるんだよ」


 わたくしだけではなく、マウリ様はスティーナ様にも生命力を分けているという。


「グリーンドラゴンは生命力の媒体になるだけで、世界を構築するエネルギーを吸収して分け与えている形になっている。世界を構築するエネルギーは多少のことではバランスを崩したりしないよ。アイラちゃんやスティーナ様に分けたくらいではね」


 心配を吹き飛ばすようなエロラ先生の言葉にわたくしは安心した。マウリ様の小さな体を抱き締めてお礼を言う。


「わたくしに元気をありがとうございます」

「アイラさまがだいすきだから、げんきになってくれたらうれしい!」


 明るい声で蜂蜜色のお目目を輝かせるマウリ様に、わたくしは愛しくて再びぎゅっと抱き締めた。わたくしの手首に巻いている魔法具もマウリ様の鱗が使われているので、わたくしとマウリ様の相性はとてもいいのだ。魔法具でも常にマウリ様に守られている気がする。


「このブレスレットもマウリ様がお傍にいるような気分になります」


 そのことを口にするとエロラ先生が説明してくれる。


「鱗を通してマウリくんと繋がっているような状態だからね」

「そうだったんですか!?」

「鱗を通して、マウリくんが集めた生命力を受け取り、マウリくんの存在を感じることによってアイラちゃんは魔法の制御がうまくいく」


 わたくしの魔法にとってはマウリ様はなくてはならない存在のようだった。

 お茶を飲んで、マウリ様から生命力を分けてもらって回復すると、わたくしは術式を編み始めた。最初は子ども部屋だ。

 マウリ様がうっかりドラゴンの姿になってしまっても、家具や衝立にぶつかって怪我をしないように慎重に結界を張っていく。続いては庭に出て屋敷の敷地内全てを覆い尽くすドーム状の結界を編む。高く飛び上がったマウリ様が屋敷の敷地内から出てしまわないように、マウリ様を狙う輩が屋敷に入って来られないように、緻密に編み上げた結界が出来上がったときには、わたくしは力尽きて座り込んでいた。


「アイラさま、げんきになぁれ、する?」


 心配そうに庭に座り込んだわたくしを覗き込んでくるマウリ様に、エロラ先生がわたくしに手を貸して立たせながら言ってくれる。


「お昼ご飯を食べたら治るかな」

「わかった! ごはんにしてくださいっていってくるね!」


 使命感を持って走り出したマウリ様に、残されたマンドラゴラがそっと自分の頭に生えている葉っぱを一本千切ってわたくしに差し出した。


「びぎゃ……」

「わたくしに?」

「びゃ」


 受け取った葉っぱをどうしようか迷っていると、エロラ先生が驚いている。


「マンドラゴラが自ら葉っぱを与えるなんて驚きだね。その葉っぱは厨房に持って行って調理してもらうといい。マンドラゴラの葉っぱにも薬効があるんだよ」

「疲れ切ったわたくしのために……ありがとうございます」


 大根マンドラゴラにお礼を言うと、恥ずかしそうにもじもじとして、葉っぱをわたくしの手からもぎ取って厨房に走って行った。厨房に食事の用意をしてくれるようにお願いしに行ったマウリ様に渡して、調理してもらうのだろう。

 お昼ご飯にはわたくしだけは特別に大根マンドラゴラの葉っぱの炒め物が一品多く出た。

 昼食を食べると、食事のおかげか、大根マンドラゴラの葉っぱのおかげか、かなり体調がよくなってくる。落ち着いたわたくしを連れてエロラ先生はスティーナ様とカールロ様に説明に行った。


「今回の課外授業で、アイラちゃんがヘルレヴィ家の子ども部屋と庭を含めた敷地全体に結界を張っています。結界を張る練習にもなりましたし、マウリくんの安全をこれで守ることができます」

「そのための課外授業だって手紙に書いてあったな」

「カールロ様、話し方!」

「あ、すみません。妖精種様に」


 いつも通りの喋り方をしてしまうカールロ様にスティーナ様が指導を入れる。


「気にしなくていいですよ。カールロ様はそこがいいのだとスティーナ様は思っておいでのようだし」

「まぁ! 恥ずかしいですわ」


 エロラ先生に指摘されてスティーナ様は頬に手を当てる。その頬が赤くなっているのは気のせいではない。


「結界を張る授業をしてくださってありがとうございます。マウリの安全については気にかけていたところです」


 マウリ様も育ってきていて、本性のドラゴンの姿が中型の猫くらいにはなっている。翼を広げると更に大きくなるので、飛び上がるとどこまでも行ってしまいそうな危険性はあった。

 今回ドーム状の結界を張ったので、マウリ様は屋敷の敷地内から出ようとすると、止められる仕様になっている。子ども部屋でも飛んで何かにぶつかっても危険がないようにはしている。

 幼いせいなのかマウリ様の翼は繊細で薄く、傷付きやすいように思えていた。


「おとうさま、おかあさま、まー、おへやでドラゴンにならないようにするね」

「そうしてください、マウリ」

「結界を張ってあるが、ならないのが一番だからな。早く制御できるようになろうな」


 スティーナ様とカールロ様に言われてマウリ様は大人しく頷いていた。

 お昼の休憩も終わりそうだったので、報告が終わるとわたくしとエロラ先生は高等学校に移転の魔術で戻る。帰りの移転の魔術もわたくしが術式を編ませてもらって発動したが、問題なく移動できた。

 大根マンドラゴラの葉っぱをもらったせいか、それほど消耗してもいなかった。


「次は王都まで飛ぶかな」


 距離を伸ばして移転の魔法を練習する。

 これから課外授業が増えそうな気配だった。

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