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外れ婚約者とは言わせない! 〜年下婚約者様はトカゲかと思ったら最強のドラゴンでした〜  作者: 秋月真鳥
一章 ヘルレヴィ家の双子との出会い

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12.国立図書館での事件

 収穫を終えた薬草の処理と、来年の春に向けて栄養剤を作って育てる国立博物館から届いた種の栽培方法について調べようと、国立図書館に行きたいとリーッタ先生にお願いすると、リーッタ先生の表情が曇ったのが少し気にはなっていたのだ。


「最近、貴族の中でもアイラ様をよく思わないものがいると聞きます」

「どういうことですか?」

「将来アイラ様はラント領の領主補佐になるために勉強されています。しかし、獣の本性を持たないアイラ様が領主補佐になることを嫌がり、従いたくないと言い出しているものがいるのです」


 生まれたときにわたくしに獣の本性がないことは分かっていた。その上でわたくしの両親はわたくしがとれる最善の道を探してくれた。

 わたくしはわたくしなりに努力して来たし、クリスティアンと共に協力してラント領を治めようと心に決めて勉強に励んでいた。畑仕事をするのも、スティーナ様を助けるという第一の目的があるが、ラント領の領民はほとんどが農家なので、その苦労を理解することができるとリーッタ先生は応援してくれていたのだ。わたくしの努力を一番よく知っているリーッタ先生の口からそのような危惧が出て来て、わたくしは動揺してしまった。


「貴族の多くがそう思っているのですか?」

「頭の固い貴族に育てられた子息が、この前の舞踏会でも大っぴらにアイラ様のことを中傷したと聞いております」


 父上と母上はわたくしがショックを受けるから教えてはくれなかったが、リーッタ先生は真実を教えてくれた。ラント領の中の貴族ですらそうなのだから、他の領地や王都でわたくしがどのように言われているかは想像に難くない。

 そんなときに王都の国立図書館に行きたいとわたくしが願ったのだから、リーッタ先生はわたくしの身の安全を考えて止めてくださったのだ。

 現実としてわたくしのような獣の本性を持たない娘をラント領の領主の補佐として相応しくないと思うものはいる。そんな輩に負けていてはわたくしはこれから先の人生を謳歌できない。

 生まれたときから決まっているようなことで、わたくしの人生の全てが決まるようなことは、わたくしには受け入れがたかった。


「リーッタ先生、わたくしに勉強が必要なのは確かです。国立植物園に認められるためにも、国立図書館で調べなければいけないのです」

「王都まで行くのは少し不安が残りますが、お父上とお母上に許可をいただいたのならば、連れてまいりましょう」


 父上と母上の執務室は、大事な要件がない限りは、普段は入ってはいけないことになっていた。緊張して木の重いドアをノックすると、中から父上の「どうぞ」という声がする。

 ドアを開けたところで私のスカートをなびかせて、小さな影が三つ、ドアから中に入って行った。


「あーたま、とちょかん、いちたい!」

「とちょかん、くたのごほん、いっぱい!」

「ねえさまをこくりつとしょかんにいかせてあげてください! ぼくも、ミルヴァさまも、マウリさまもいっしょに!」


 わたくしがお願いする前に、入り込んで来たマウリ様とミルヴァ様とクリスティアンが用件を言ってしまった。人前に出るのが苦手なマウリ様が涙目でぷるぷると震えている。胸を張って主張しているミルヴァ様はオムツが濡れているのかワンピースのスカートのお尻が濡れている。クリスティアンはちゃっかりと自分たちも行きたいと付け加えていた。


「今は危険だからといっても聞かないのだろうね」

「マウリ様とミルヴァ様も行くのですか?」

「まー、あーたまと、いっと! まー、あーたまと、けこん!」


 結婚の意味が分かっているのかいないのか。何度もその言葉を繰り返すマウリ様にとっては、結婚とはわたくしと一緒にいることなのかもしれない。


「ぼくもいくよ! ちちうえ、ははうえ、ミルヴァさまもいっしょにいかせてください」

「わたくち、くーたんといっと」


 お手手を繋いでいるクリスティアンとミルヴァ様のお願いに、両親も折れるしかなかったようだ。


「列車から降りたら馬車に乗って、そこから絶対に油断せず、馬車で駅まで戻って、決められたコンパートメント席に座るのだよ」

「いいのですか?」

「アイラもクリスティアンも言い出したら聞かないから」


 こうしてわたくしたちの王都行きが決まった。

 早朝に畑仕事を終えて、朝ご飯を食べて列車に乗れば、昼前には王都に着くことができる。ヘルレヴィ領から移動して来たときにはまだ幼かったし、余裕もなかったマウリ様とミルヴァ様は、列車の旅にわくわくと窓の外を見ていたが、つく頃には眠ってしまっていた。

 眠ってしまった幼児を運ぶのは力が抜けていて難しい。同行してくれていたサイラさんがミルヴァ様を抱っこして、リーッタ先生がマウリ様を抱っこして、わたくしがクリスティアンを膝に乗せて馬車で国立図書館に移動した。

 馬車が着く頃にはマウリ様とミルヴァ様も起きていて、国立図書館に着くとすぐにお手洗いに駆け込んでいた。

 国立図書館のカウンターで閲覧したい本を頼むと、書庫から出してきてくれる。

 栄養剤の作り方や薬草の保存の仕方、国立植物園から預かった種の育て方など、詳しく書かれている本のページを捲ってメモしていく。


「乾かした葉っぱを潰して水に浸けてガーゼで濾したり、熱湯で蒸して柔らかくなったところをすり潰して加えたりしなければいけないのですね……」

「ねえさま、カブとニンジンとダイコンだよ!」

「蕪と人参と大根……三種類の種がありましたね。それぞれに育て方が違うのでしょうか」


 蕪に似た植物と、人参に似た植物と、大根に似た植物が書かれているページを開いて、クリスティアンが教えてくれる。それぞれの育て方にあまり違いはなさそうでわたくしはほっとする。どれも葉っぱに虫が来やすいのでそれは注意するように書いてあった。


「虫よけの薬も作った方がよさそうですね」

「栄養剤をかけると虫よけにもなると書いてありますよ」


 リーッタ先生に教えてもらって、その部分もしっかりと書き写す。

 国立図書館で調べ物をしていると時間があっという間に過ぎてしまう。


「あーたま、おなかちーた……」

「わたくちも、おなか、すいたの」


 ワンピースのスカートを両側から引っ張られて、わたくしは集中しすぎていたことに気付いた。昼食の時間が過ぎていて、マウリ様もミルヴァ様も座り込みそうになるくらいお腹を空かせているし、クリスティアンも元気がなくなっている。


「これで最後です。終わったら、昼食を食べましょうね」


 国立図書館の中は貴重な本を守るために飲食禁止なので、手早く書き写してしまって、わたくしはノートを片付けてカウンターに本を返した。

 国立図書館の前は公園になっていて、木々の葉が風を受けて揺れて木陰は涼しい。木陰に敷物を敷いて、わたくしたちはお弁当を広げた。

 保温容器に入ったスープと、サンドイッチを食べていると、わたくしの膝の上に座ったマウリ様がサンドイッチの具が逆側からはみ出てしまって半泣きになる。


「よごちちゃった……」

「大丈夫ですよ。お着換えを持って来ていますから、後で着替えましょうね」


 サイラさんが慰めるが落ちたサンドイッチの具を見つめてマウリ様は落ち込んでいる。元気付けようと次のサンドイッチを手に取ったとき、わたくしたちの前に見知らぬ男性たちが立ち塞がった。


「公爵家のアイラ様ではないですか。トカゲと婚約したと聞きましたが、とてもお似合いで」

「食事も自分でできない子どもとしか婚約できないんでしょう」

「その子も大きくなったらあなたの本性がないことを知って捨てられるんでしょうけどね」


 嫌なことを言う男性たちは、綺麗な服を着ている。平民ではないのは明らかだった。これがリーッタ先生や父上や母上の心配していた相手か。


「わたくしは獣の本性はありませんが、他人を貶めたりするような卑しい心も御座いません」

「なんだと!」

「生意気な!」


 男性たちがわたくしの腕を引っ張って連れて行こうとするのに、リーッタ先生とサイラさんが必死に間に入ってくれる。


「公爵家を馬鹿にするようなことをして、許されると思っているのですか!」

「家庭教師や乳母風情が何を言う!」


 リーッタ先生とサイラさんを押し退けて、手を伸ばした男性がわたくしの三つ編みにしている黒髪を掴んだ。髪を掴まれて引っ張られて、痛みに倒れかけたわたくしを助けてくれたのは、マウリ様とミルヴァ様とクリスティアンだった。

 狼の姿になったクリスティアンは男性の脚に噛み付き、トカゲの姿になったマウリ様とミルヴァ様は男性の腕に噛み付く。噛み付かれて腕と脚を振った男性からわたくしは逃げられたが、マウリ様とミルヴァ様は振り飛ばされて、クリスティアンはころころと毛玉のように転がっている。


「トカゲが何をする!」


 振り飛ばされたマウリ様とミルヴァ様を男性が踏みつけようとするのに、わたくしは必死で男性の脚にしがみ付いていた。小さなトカゲのマウリ様とミルヴァ様が踏まれてしまったら命が危うい。


「あーたま、いたいいたい、めー!」

「わたくち、ゆるたない!」


 なぜか地面に振り落とされたはずのマウリ様とミルヴァ様が、わたくしの目線よりも高い位置にいる。それがどうしてか分からないでいると、男性が叫んだ。


「トカゲ、じゃない!? ドラゴン!?」

「え? ドラゴン?」


 見上げたマウリ様とミルヴァ様の緑と赤の体には、同じく緑と赤の翼が生えていた。

 トカゲに翼は生えない。

 何が起きているか分からないまま呆然としているわたくしの前で、マウリ様とミルヴァ様は口から小さな火の玉を吐いた。わたくしのことを酷く扱おうとした男性たちの髪の毛がちりちりに焼けて異臭を放つ。


「ど、ドラゴンだ!?」

「ひぃ! 逃げろー!」


 小さいけれど正確に吐き出したドラゴンのブレスに焼かれた男性たちが逃げ出す。ぱたぱたと翼を羽ばたかせて、マウリ様がわたくしの手の平に降りて来て、ミルヴァ様はサイラさんの元に降りて来た。

 確かに生えている背中の翼。

 トカゲだと思われていたマウリ様とミルヴァ様は、もう滅びたと思われている伝説のドラゴンの子どもだった。

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