プロローグ
ガーデンパーティー方式で行うつもりの結婚式の当日、小雨が降っていた。真夏の雨なのでさほど気にしなくてもいいのかもしれないが、わたくしはマウリ様とヘルレヴィ家のお屋敷の中で、雨が上がるのを待っていた。
「アイラ様、これで私たち、ずっと一緒だね」
春に18歳の誕生日を迎えたマウリ様が輝くような笑顔で言う。その笑顔がわたくしにしか向けられない幸せを、わたくしは噛み締めていた。
マウリ様と出会ってからの16年間、色んなことがあった。
初めて出会ったときには、マウリ様とミルヴァ様は人間の姿をしていなかったのだ。
トカゲと思われていた二人と、わたくしはヘルレヴィ家の離れで出会った。
あの日がもう遠く思われる。
「マウリ様、本当に色んなことがありましたね」
わたくしに獣の本性がないことも、わたくしに別の才能があったことも、マウリ様は柔軟な精神で受け止めてくれる。8歳も年下なのにマウリ様は本当に立派な青年になった。
「アイラ様、私、泣きそうです……」
「もう、マウリ様ったら、泣き虫なんだから」
「アイラ様と結婚できるのが嬉しくて」
小さな頃からずっと泣き虫だったマウリ様は、蜂蜜色の目を潤ませていた。
女性の中では長身といわれるわたくしよりも、更に背が高く、見上げるようになったマウリ様。
微笑んでその頬に手を当てると、恭しく手を取られて、手の平に口付けられた。
「愛しています、アイラ様」
「わたくしも……」
外を見ると雨が上がって晴れ間が見えている。
結婚式はもうすぐ始まりそうだった。
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