ひとりぼっちのネズミとゾウ
地方の動物園に若いゾウがいました。
お客様が少なくあまり裕福でない動物園だったのでゾウは1匹だけしかいませんでした。
ゾウはたくさんエサを食べるので飼育にとてもお金がかかるのです。
それでもお客様に見てもらおうと頑張って若いゾウを1匹展示していました。
ある日、そのゾウのスペースにおばさんネズミがやって来ました。
動物園に住み着いたおばさんネズミには夫も子供達もいたのですが、園の衛生管理の一環でネズミ駆除に逢い、おばさんネズミはひとりぼっちになっていました。
自暴自棄になっていたおばさんネズミは園で1番大きいと噂のゾウと言う生き物を冥土の土産に見にやって来たのでした。
ゾウの宿舎にはネズミにとってはビックリするくらい大量のエサの食べ残しがありました。
「少しお裾分けしていただこうかしら」
ネズミがエサを食べていると後ろに見たことがないくらい大きな生き物が体を小さくしながらこちらをこわごわ見ていました。
その大きな生き物こそがここに住むゾウだったのです。
「あら、こんにちは。少しご相伴に預かっていますよ。あなたなぜこんなにご飯を残しているの?」
ネズミが聞くと
「あんまり食べたくないんです。食欲がなくて」
ゾウが小さな声で答えました。
「それは一人で食べているからね。良かったら一緒に食べましょう。誰かと一緒に食事するって楽しいのよ!味の感想を話したり、今日一日の出来事を教えあったりしながら食べるのよ。」
ネズミはこの大きな体の子供が気になってしまった様でした。
ネズミとゾウは自己紹介しながら食事を続けました。
数日後には飼育員さんはゾウの宿舎にネズミが住み着いたことに気付いていました。駆除までして遠ざけたネズミでしたが、ネズミが来てからゾウはエサを完食していたので、良い影響があるならと様子を見てもらえることになりました。
そうしてしばらくゾウの宿舎に2匹で暮らしていました。
しかし、ネズミはとても小さく、ゾウはとても大きい。
そもそも寿命が全然違うのです。更におばさんネズミと若いゾウだったので、お別れの日がそう遠くないことを2匹は感じていました。
ひとりぼっちに戻ることを不安がるゾウにネズミが言いました。
「一緒に過ごした記憶はあなたの胸に残るのよ」
出来るだけいつも笑顔を心掛けること、気持ちをちゃんと言葉で表現すること、相手の様子を見て思いやること。
ネズミと一緒に暮らす内に教わったこと、気づいたことがたくさんありました。これらはネズミがその人生を掛けて気付き、子供達に伝えたいと思っていたことでもありました。
「まずはここに飛んで来れる鳥達と仲良くなるのよ。自分から笑顔で話しかけてエサを分けてあげるのも良いかもしれないわ。そうしてこの動物園の中の色々なことを教えてもらうの。寿命が長いあなたが色々なことを覚えて、困り事のある動物を助けてあげるのよ。思いやる気持ちがあればきっと会ったことのない動物とも友達になれるわ。」
晩年になり体がうまく動かせなくなると、ネズミはそうゾウに言い聞かせていました。
「大丈夫、ちゃんと出来るって信じてる。」そう微笑んでネズミは死にました。
ネズミがいなくなってしまって飼育員さんはゾウのことを心配しましたが、ゾウはエサを完食したり元気に体を動かしたり大丈夫そうでした。ゾウにはネズミとの約束があったのです。
しばらくすると動物園中の動物達が元気になりました。
飼育員さんが動物達の変化に何故か気付きやすくなったのです。
まるで動物達自ら何かあると訴えてくる様でした。
動物達が元気になるにつれて飼育員さんの負担が減り、展示方法の工夫や動物園で行う企画を考える余裕が出来たことで、お客様がだんだん多くなっていきました。
お客様が増え収入が増えたことで園にはとうとうもう1匹ゾウがやって来ることになりました。
こうしてひとりぼっちで仲間を探していたゾウに家族ができました。
「ネズミのお母さん、ありがとう。とうとう僕にゾウの家族ができました。動物園のみんなも僕の大事な家族です。ネズミお母さんから教わった大事なことはちゃんと家族へ伝えていきます。」
ネズミの記憶を胸にゾウはいつまでも心穏やかに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
めでたし、めでたし。で終わる作品を書いてみたくて作りました。
読んでいただき、ありがとうございました。