// 死せる罪人の浄罪 //
ある貴族が町外れの教会に赴き、聖髪降霊の儀を執り行った。
傍らには読唇術士を従えている。
術者が懐紙に火を灯すと、ぼおっとみすぼらしい男が浮かび上がった。
「そろそろ妻から奪ったペンダントの場所を教えてもらおうか」
“嫌だね” と口元の動きを読み取り、読唇術士は言った。
“お前らは俺が捕らえ殺すだけでは飽き足ら
ず、何をしたか覚えているか?
腹を割いてはらわたをひきずり出し、
細かく刻んでくれたよな。知ってるんだぜ”
「いたしかたなかった。何処を探しても見つからず、
もしやおのれの腹に隠したのではと思ったからだ」
“そのお陰で俺は今でもはらわたをひきずって痛みに悶えている。
この恨み消えようか”
降霊の儀、術者は口を挟んだ。
「それはおのれの罪なり。
せめて苦悩を断ち切りたければ告白するが近道ぞ」
男の顔が歪んだ。そして俯き、言った。
“確かに死んでまでこんな苦しみはご免だ。
はやく楽になりてぇ。教えれば本当に俺は楽になるのか?”
その言葉に、術者は大きく頷いた。
――後日ペンダントを手にした貴族は礼をもって教会へ赴いた。
「しかしてあの男は、その後楽になったろうか?」
それに対し、術者は答えた。
「さぁ。
余罪が多かろう故、まだ苦しみの中かも」
華々しく戦果をあげる英雄の影に、作戦に従事する名もなき英雄もそこにはいる。次回は人知れず戦を勝利へ導いた者たちの物語。