// 唯一の戦果 //
遠く湖を眺めていた。
弓部隊に入れば前線でも少しは負傷のリスクは少ないだろう、
そう思いながら志願したが、上司である小隊長は俺に厳しかった。
いつも馬鹿だ馬鹿だと言われ、そんなことでは
いの一番に狙われて命を落とすと言われた。
悔しかった。悔しかったから、俺は必死で戦場で弓を射た。
しかし、俺の腕ではなかなか敵を射ることができなかった……。
ある日、小隊長の頭が射ぬかれた。
俺はその瞬間を目撃した。その射ぬいた相手、
敵を俺は素早く狙い、反射的に射た。
それは命中し、俺の唯一の、ささやかな戦果となった。
友人は俺を聖髪降霊の儀に誘った。
小隊長に逢おうという。しかし、俺は断った。
小隊長は死んだ今でも、俺を叱りつけるのではないか、
そう考えると委縮してしまう。
情けないが、恐いのだ。
友人は俺が仇をとったことを伝えるといいながら、
聖髪降霊の儀を行うため、町外れの教会へ向かった。
「よ、会ってきたぞ」
友人が帰ってきた。そして俺の肩を叩いてこう言った。
「小隊長、誇らしげだったぜ。
小心者のお前が仇を討ったと伝えたとき、
涙を流してるようだった。
きっとお前の成長を喜んでたんだな」
部下の手柄を喜ばない上司がいるだろうか?
俺は胸の奥につっかえていた、何か重いものが、ようやくとれた気がした。
「ありがとう、俺も会っておけばよかったな」
俺は立ちあがり、湖の向こうに聳え立つ巨木を目標に、弓を射た。
湖面をすべるよう走り、矢は闇に消えた。