// 敵将に敬意をはらいて //
戦争が終わったと聞いた。
元、敵国が勝利。俺がこんな森の中で暮らしているのは、
敵の将が俺を逃がしてくれたからだ。
隻腕のドウ。
俺はいち小隊を率い、彼の陣に夜襲をかけた。
しかし返り討ちに遭い、殲滅。
捕らえられた俺を、ドウは助けた。
「徒なすことなかれ。深谷の森には戦を逃れた者の村がある。
そこにはそなたの新たな生があろう」
俺は母国を捨て、森へ逃げた。そして、森の民となった。
妻を娶り子が生まれた。時折思い出すのは、ドウのこと。
もしもあの時首を刎ねられていれば……
俺は彼に感謝をしている。
森を抜け彼の国へ入り、探した。
しかし残念ながら戦死したという。
俺はせめて感謝の気持ちを伝えようと、遺族を探した。
やがてみつけた家族は、俺の話を聞き、懐紙を渡した。
「街外れの教会で術をうければ、あの人に会えましょう」
話に聞いていた、聖髪降霊の儀か。
俺は教会へ向かった。そこには長い列ができていた。
番がまわってきて、懐紙を術者へ渡す。
中の毛を取り出し、青い火を灯した。
懐かしい陰。その表情は和やかだった。
俺は命を救われたこと、
今、家族を持ち幸せにしていることなど、まくしたてるように伝えた。
彼はゆっくりと頷くと、闇に消えた。
よかった。
俺は救われたこの命を、ドウのように誰かの為に使おうと誓った。