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// 序章 //
誰も知らぬ国、誰も知らぬ刻
そこでは聖髪降霊の儀が執り行われていた
この儀式は戦へ参じる者の頭髪を燃やし、
戦死したるその者を、
ひとときこの世へ呼び戻さんとする秘術なり
ある戦が終焉を迎えた
国は歓喜に沸き立ち、昼夜問わずの祭りが一週間続いていた
そんな中、城壁の外れにひっそりと佇む教会があった
そこには対照的に、顔に暗い影を落とした人たちが列を成している
戦死者の家族や恋人、友人たちの列である
彼の者たちは戦死者の頭髪を懐紙に包み、後生大事に持っていた
自分の番が来ると、その頭髪を術者へ託す
うやうやしく聖火にくべられし頭髪は青い火を放ち、
暫時ゆらめく像となりそのものの魂を呼び戻した
「戦は勝利に終わった。国の為によく頑張ったな」
――ある者は声をかける
「あなたの子はこの腹の中に。あなたのように強く育てますから」
――ある者はいう
魂は揺らぎ、声を出すことなく、消える
たいていはにっこりと、ほほえんで消えた
まじないごとは科学と共にいずれ消えゆこう
しかし人々の思いは、消えずに残るだろう