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残36
そこでは、
その年、虫が多く見られた。
その季節は、鈴虫が鳴く秋だった。
どこか、遠くから、何かが、とある二人を見守っていた。
寮らしい一部屋で、男二人が、ともに、ビール缶を片手に持ち、決して、どんちゃん騒ぎではないような様子で朗らかに話していた。
「……泣く子も黙る、ワイシャツの柄だな!」
「そんなにセンスない柄かな?これでも、…」
双方とも、色々と思い、様々なことを考えて、しゃべっていた。
(僕が黙って、ベンチから離れて公園を出ていれば今、こんなふうにならなかっただろうな…)
「本当に全部、思い出したのか?」
「あたぼーよ!今まで、何も思い出せなかったのが信じられねぇぜ!」
(…本当は、お前の名前と、お前の生年月日だけは、覚えてたんだけどな…そんなこと、言えねーぜ…)
「君は、今の暮らしは、このように順調なんだな…」




