闇を晴らす光
「もう俺の家から出ていってくれ」
それっきり高城は膝を抱えて動かなくなってしまった。
目の前で高城の好きなキャラの凌辱物同人誌を見せても反応がない。いつもはこれで大喧嘩になるのに。
「困ったな。どうしたら‥‥」
悩む山本。事態は悪化する一方だ。
そんな中でさらに一つ爆弾が投下される。
「お困りのようだね。失礼するよ」
男の敵、天竜院正嗣だ。
ここは二階にある高城の自室。天竜院が現れるまで一度も足音がしなかった。
いや、それ以前に鍵はどうした。戸締まりはちゃんとしてあったぞ。
こやつ、何者‥‥?
警戒する山本を気にすることなく、部屋の中央まで入ってくる。
「可哀想に、高城‥‥」
天竜院は部屋の隅で丸くなった高城を見つけると悲痛そうな表情を浮かべる。
「山本君、さっきから聞いていれば君の発言は無神経だ。拠り所を失った今の高城は産まれたばかりの雛鳥‥‥一人で餌を獲ることもできないくらいか弱い存在なんだ。それなのに、彼女ができましたなんて自慢話をするんじゃない。高城はもう二度と誰も信じられなくなるかもしれない」
そ、そうだったのか‥‥!
高城ごめん。
反省する山本だったが冷静になってふと思った。
「えっ、ていうかいきなり入ってきてなんなのお前。ハーレム野郎が何しに来たんだよ。学校へ行って授業受けて女の子とセックスでもしてろよ」
山本は天竜院が嫌いだった。山本だけではない、男子全員が天竜院を大なり小なり嫌っていた。それは天竜院が女子にモテまくるから、という至極当然の理由からだ。
例えば、黒髪ロングドS生徒会長様がいたとしよう。厳しくて近寄りがたい雰囲気の美少女だ。それが目の前で天竜院とイチャイチャしていたらどうだろう。
他の男には見せないメスの顔だ。
殺したくなるだろう。
山本はぶっ殺したくなった。
つまりそういうことだ。
「セックスとか言うな。見ろ、高城が怯えているじゃないか!」
天竜院に注意され、はっと高城を見ると彼は耳を塞いで震えていた。
日常会話でセックスなんて使うのは非童貞だけだ。
「コワイ、コワイ‥‥親友ガ遠クエ行クノガ‥‥置イエイカレル」
童貞の高城は今、ひどいコンプレックスを抱えてしまっている。
山本は項垂れた。
非童貞の山本では彼の力にはなれそうもない。
「ここは俺に任せてくれ」
しかし天竜院の顔には自信が見てとれる。何か策があるのか。
「お前になにができるんだよ? 僕でも拒絶されているのに、ハーレム野郎のお前が受け入れられるとは思えないんだけど」
悔しくなった山本はそう言った。
今の高城はモテない男子の怨念から生まれた深い闇にとらわれている。
まるで太陽そのものであるイケメンリア充がなにを言ったところで逆効果にしかならない。
光があれば影は生まれる。強すぎる光は時に絶望という闇を生むこともある。
それでも、天竜院は力強く告げる。
「大丈夫、簡単さ。新しい女の子を紹介すればいいんだ」
「な、なるほど。いや、待ってよ。そもそもそんな女いないよね。こんな不細工で哀れでキモい奴を受け入れる女がいる? いたら高城は童貞じゃないよ。さてはブスか? いやブスでも」
「山、本‥‥黙レ」
高城が、喋った。
それも興味をひかれた様子だ。山本がなにを言っても返事をしなかったのに、今は天竜院へキラキラと期待した目を向けている。
「天竜院、本当、ナノカ‥‥?」
「ああ本当だとも。佐藤さんの件は僕の責任だ。それを償わせてほしい」
天竜院は心底申し訳なかったという表情で、謝罪の台詞を口にする。
「高城には美少女を紹介するよ!」
高城の闇が、晴れていく。




