ごめんなさい
「ごめん、な、さい‥‥?」
その六文字からなる言葉の意味を高城の脳は理解できなかった。処理できなかった。
あれ、今フラれた気がする。
おい脳ミソバグってるぞ!
混乱する高城は上の空。ボソボソと呟く。
「あーこれ夢か。もしくは幻覚を見てるんだ。それか冗談だよな?」
幼馴染みは負けフラグなどと揶揄される昨今、例に漏れず高城も恋愛ゲームでは幼馴染みキャラは後回しにする質であった。それがいけなかったのか。
「本当に、あなたとは付き合えないから」
しかし現実ではどうだろう。
共に過ごした時間の長さ、小さい頃交わした結婚の約束。大切な記憶。
高城は声を大きくして言える。幼馴染みこそが最高の恋人になる、と。
それなのに‥‥
「だから、ごめんなさい」
「――――ッ!?」
二年三組の面々は困り果てていた。
最初こそ、夏休み前日を面白おかしく彩る喜劇の幕開けを期待していた。
そしてある意味その通りだった。
告白なんてイベントは十代の男女にとっては極上のゴシップネタなのだから。
しかし誰もこの劇の主演男優を務めた高城を笑うことができなかった。
涙していたからだ。
コメディアン高城が泣いていたのだ。
教室から逃げるように出ていく高城を見て、彼らの胸には罪悪感が沸いたとか沸かなかったとか。
舞台の幕が下り、各々抱いた感情を処理した後。
「帰るか」
「そうだな」
誰ともなく呟かれた言葉をきっかけにそれぞれの行動に移った。
なんだったんだあれ。
なんか変なもん見ちまったな。
口には出さないが、それが皆の感想であった。
これにて高城の初恋物語はオシマイ。
オチがつくならその後佐藤が松岡に告白し、付き合い始めたことか。
***
うまくいった。
当然だ。
なぜなら俺は全てを知っていたのだから。
知っていて、佐藤に聞いた。
わざと肝心な部分をぼかして。
知っていて高城を煽った。
高城には本当に悪いと思っている。
俺の唯一の親友。
これから起こることを思えば例え謝っても許してもらえないだろう。
ましてや頼み事などできる立場でないのは分かっている。
それでも
それでもどうか
彼女を助けてあげてほしい




