第四話:義臣の説教
翡翠誘拐事件から一夜明けた。
TEAM本社では久しぶりの息子の説教をひどく楽しみにしている社長が一人。それをニコニコして見守るであろう母親も控えていた。
「さて、久しぶりの楽しい説教を始めようか」
面白さ全開モードの義臣ほどめんどくさいものはない。自分の父親なだけに性質も悪い。
「……悪かったよ。確かにやり過ぎたと反省してるよ」
快は素直に謝った。新聞記事のトップを飾ってしまっただけに今回は自分の方が明らかに悪い。
「いや、翡翠を誘拐したんだ。倉庫の破壊と全員に全治三ヶ月の骨折ぐらいは大目に見てやるさ。おかげでホークも壊滅させやすかったしな」
あくまでも義臣は結果オーライ主義である。それに息子の気持ちを汲んでやることは忘れない。
「だが、お前が使った召喚はいただけないな。龍神を呼び出すような相手でもなかっただろうに」
一番突かれたくなかったところをクリーンヒットさせて来るのも義臣である。龍神を使ったために、快の魔力はしばらく回復せず、ホーク壊滅の任務に参加できなかったのである。
「しかも、翡翠をホーク壊滅の任務に出す羽目にさせたのはいただけないなぁ、隊長としてな」
任務を与えたのは明らかに義臣のはずなのに、全て快が悪くなるように話を持っていくのは義臣ならでは。
しかも楽しんでいるあたり非常に快は気に喰わなかった。
「だったら翡翠を外せば良かっただろう。むしろたまには運動しろよ社長」
精一杯の抵抗がこれだと虚しくなる。だが母親は分かってくれていた。
「そうよね、たまにはあなたも動いた方がいいのかもね。社長としての示しがつかない上に父親の威厳も失ったらさすがに痛いでしょう?」
「いや、俺は夢乃さんに惚れられているから問題ないけどな」
これである。篠原義臣という男は妻の愛と酒さえあれば問題ないのだ。
「まっ、これに懲りたらしばらく龍神は使わないことだな。それと翡翠のケアは頼むぞ。誘拐されやすいのは治療兵の宿命でもあるが、女の子として全くショックを受けなかったわけでもないだろうからな」
確かにそれは当たっている。とりあえず動くかと、バツの悪そうな表情を浮かべながら快は社長室から消えた。
「やっぱり、翡翠ちゃんをホーク壊滅任務に参加させたのは間違いだったんじゃないの?」
夢乃は義臣の判断に多少ながらの不満を持っていたが、
「確かに翡翠には気が重い任務だったと思うが、二人を成長させるのも社長の任務だからな」
こんな時だけはまともになる。夢乃は心の底から義臣に恋い焦がれているのは自分だと思わされるのだった。