第二話:誘拐犯はバスター
翡翠は暗い倉庫の中で目を覚ました。急に意識が遠くなったことだけは覚えている。そして今、自分は明らかに誘拐されてる状況にあるようだ。
「仕方ないな。まぁ、このぐらいの手錠なら壊せるかな」
自分の魔力を手錠に集中させる。そして手錠に流れきったところで気合いを入れて破壊した。これも小さな頃からの訓練の賜物だ。
「さて、とにかく紫織達が待ってるんだから帰ろ」
治療兵という立場上、いつでもどこでも逃げ切る訓練を受けて来た性か、実に翡翠は落ち着いていた。
「そりゃ困るな、俺達の誘いを断ってもらったらよ」
「誰?」
間髪入れずに翡翠は尋ねた。十数人に及ぶ男達は、ニヤニヤしながら翡翠を取り囲み始めた。
「今日の昼間にあっただろう? アートの女王に邪魔されたから覚えてないの?」
紫織の通り名を知っているということは、間違いなく彼等はバスターだ。
「生憎覚えてないわ。私に何か用?」
翡翠は強気に出た。逃げるルートは数本ある。おそらく快達も動いて来ると信じていたからだ。
「そうか。じゃあ、俺達が君に忘れられない思い出をプレゼントしよう。集団レイプって知ってる? お姫様」
爆笑が起こる。おそらく自分を絶望の淵に追い込んでから痛ぶるタイプだ。
「知ってるよ。TEAMの任務でもよくあるもの。暴行を受けた女の子を救ってあげる任務がね。だからTEAMを敵に回す恐ろしさを叩き込んであげるわ!」
翡翠はさっと構えた。今回は闘う方をとることにしたのだ。
「へぇ、治療兵なのに闘うんだ。立派な心掛けだね」
「当たり前よ! あんた達を見逃したらうちの任務が増える! だからここで片付ける!」
しかし、翡翠からは決してつっこまない。最悪のパターンも考えるべきだからだ。
「そうかい、だがいくらTEAMの治療兵でも、例えアートの女王が来ても敵わない人数だろう?」
翡翠は愕然とした。倉庫という場所はかくれんぼにはもってこいだ。三十人近くのバスターがいる!
「一度TEAMを敵に回してみたかったんだ。俺達『ホーク』の実力を試すためにもな!」
一斉に翡翠に襲い掛かってきたが、翡翠はするりと男達から抜け出した。彼女の回避能力が高い事を物語っている。
「甘いな」
「なっ!」
翡翠の体はいきなり動かなくなった。時空タイプのバスターがこの中にいたのだ。
「今だ! 押さえろ!」
絶望が翡翠を襲った! だが、急に三十人のバスター達の動きが止まる。
「体が! 何だこの重さは!」
「重力よ。あなた達の動きを止めるためのね」
翡翠の顔がパッと明るくなった。TEAMの中で重力を味方に付けるバスターは一人だけ。
「優奈!」
翡翠が見上げた天井には、四人のバスターが殺気を放って立っていた。




