プロローグ
俺は地面に膝をついた。まるで頭を鈍器で殴られたかのようだ。目の前が真っ白になって、そこら中から上がる炎が、その白を赤く染めた。
「どうして…」
そう、言葉が漏れた。煙が目に染みて、自然と涙が流れる。
「ああ、手遅れだったのか」
そう後ろから声を掛けられた。俺の横に立ったそれは、女の姿だ。まるでこの世のものではないかのような美貌を持つ彼女は、不釣り合いな襤褸を着てそこに立っていた。
「どうして…どうして……!」
俺は女に縋り付いた。俺は代償を…代償を払ったのに!これで全てが終わるはずだったのに…
「…まぁ、遅すぎたのだな。もっと早く頼っていれば、あるいは避けられたことかもしれん」
「そんな…そんな事って…」
涙は止まらない。女の手が俺を慰めるように髪を撫でる。
全ては遅すぎたのだ。これを止めようと思えば止められたかもしれない。しかし俺の村は結果として滅んでしまった。あちこちで黒煙があがり、道端には腹わたの散らばった知人達。
誰の声も聞こえず、女も何も言わない。全滅だ。
「私はこれをやったやつに心当たりがある。聞きたいか?」
思わず我が耳を疑う。
「つまりこの惨状を起こした奴はお前の知り合いなのか?じゃあ事前にこれを止めることだって…!」
「無理だ。私がついこの間目覚めたのを知っているだろ?私が言いたいのは、私の旧い友人たちのことだよ」
「旧い友人…?」
「我が血族のことだ。人々に言わせれば、吸血鬼というやつだな」
吸血鬼。子供騙しの、昔話にしか出てこない怪物。人の血を啜り、その強大な力で国を砕き、君臨し、そして跡形もなく滅ぼされた。そして、彼女はその生き残りだ。
「どうする?このまま泣き寝入り、私とも別れ、どうしようもない気持ちを抱えて余生を過ごすか?それとも、私に力を授かり、共に憎き吸血鬼達を滅ぼすか?」
…父に、母に、妹の笑顔が一瞬頭に浮かび、目の前の炎に消えた。
「…復讐を」
「誓え、決して私を裏切らないと。この世の吸血鬼共を滅ぼし、私に捧げると。そうすれば…力を授けよう。非力なお前が、奴らと戦えるように」
俺は彼女に跪き、願った。
「…家族のために、誓います。吸血鬼を悉く、業火に晒すと」