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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
魂霊装天編
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九一話 思解


「……どうしたものか」



ヒロムの屋敷を出たガイは自分自身を見直そうと考えたために河川敷に来ているのだが、どうすべきか悩んでいた。


何をすべきか、何をやるべきか。



何を考えても先に進まない。



いや、考えてもこれまでやってきたことしか浮かんでこない。


ただひたすら特訓する。


それ以外に思いつかない。


だがそれが今求めてるものと違うのは頭でわかっている。


それでも似たようなことしか思いつかない。


「くそ……こういうときソラがいたらな」


今はどこかへと行っているソラがいれば何か言ってくれたかもしれない。


ついそう思うガイだが、そう考えてしまうくらいに行き詰まっていたのだ。


「……こういうときに限って何も思いつかないとはな」



何も浮かばない、そう思うとため息しか出ないガイ。


何度も行き着く特訓に至っても、一人では何の進展もなく終わる可能性だってある。


そう思うとより難しく悩んでしまう。


(ヒロムの精霊の力借りて生み出した新しい技もバッツに通じずに終わった。

結局あの特訓も無意味だったのか……)


「ああ〜、イライラする!!」


ガイはムシャクシャしてきて頭を掻きむしり、足下に転がっていた小石を何の考えもなく蹴り飛ばした。


ガイに蹴られた小石は勢いよく転がっていき、そして誰かの足に当たって止まる。



「あっ……」


蹴った方に人がいるとは思いもしなかったガイは慌てて謝ろうとした。


「す、すいません!!」


「あら、大丈夫ですよ」


ガイの謝罪に対して丁寧な言葉で返す女性。


汚れが付けば確実に目立つ白いドレスに銀色の長い髪、その瞳の奥を覗こうとすれば引き寄せられそうになるほどの美しさはガイを多少なりとも魅了してしまう。


が、我に返ったガイはまたしても謝罪した。


「えっと……本当にすいませんでした」


「いいんですよ、お気になさらず。

それよりも……何かお悩みですか?」


見透かされたように今のガイのことを言う女にガイは少し警戒してしまうが、女はそんなガイに伝えた。


「見知らぬ人に言えることじゃないでしょうし、無理に言ってもらわなくて大丈夫ですよ?」


「……そうですか」


警戒する中、ガイは少しだけなら話してもいいかと思い、女に相談するように話し始めた。



「壁にぶち当たってるんですけど……少し前に友人の力を借りて特訓して強くなったんですけど、本番になったら何も成果を出せずに終わってしまったんです」


「ふむふむ」


「……すいません。

訳わかんないこと言って……」


「ではアナタは足りないと思ってるんですか?」


「……え?」


女の突然の質問にガイは驚いてしまう。

いや、驚くだろう。


見ず知らずの初対面が自分の考えを読んだかのように言葉を発したのだ。


「……そうです、ね」


「なるほど……。

「修羅」の力を使いだし、そして特訓して完成させた修羅蒼天も成果を出せずに突破され、進む方向性に悩んでいるんですね?」


「……!!」


ガイは驚くとともに完全に目の前の女を警戒し、そして戦うために霊刀「折神」に手をかける。


いつでも抜刀できるよう、そしていつでも斬撃を放てるように。


「……なんで修羅蒼天のことを知ってる?」


「聞いたからですよ?

ある方から」


「ある方?」


ガイは嫌な予感しかしないその言葉に、思わず「十家」を想像してしまう。


いや、「十家」なら可能性はある。


バッツとの戦いで見せた修羅蒼天、それを鬼桜葉王も見ていたのなら情報は筒抜け尼なっていてもおかしくはない。



となれば、目の前の女の所属次第では……


「アナタの場合足りないのではなく、足り過ぎなのです」


「……はい?」


敵意を向けようとしたガイに対して女は呑気に話を始めた。


「アナタは天才かもしれませんが、失敗したから何か足りないという概念をお持ちではないかしら?

アナタのそれは間違ってますよ?」


「えっと……」


なぜか細かく注意されるガイ。

目の前の女は敵かもしれないのだが、なぜこんなにアドバイスを出してくるのか?


段々と訳が分からなくなっていくガイだが、そんなガイに女は一言告げた。



「アナタはむしろ足り過ぎてるのに得ようとして全てに振り回されてるんです」


「振り回されて?」


「ええ、アナタは本当に必要なものだけを使えば十分な力を発揮できるようになりますよ」


だから、と女はガイに向けて手を差し伸べる。


「アナタの全てを委ねてみませんか?」


「全て……」


「ええ、私ならアナタを今の倍……十倍は強くできますよ?」


いや待て、とガイは冷静に考えるとおかしいと思ってしまい、聞き返してしまう。


「アンタは何者なんだ?

味方か敵かもわからない相手に委ねるなんて無理な話だ」


「では一人で解決できますか?」


「それは……」


女の素性もわからない相手に身を委ねて強くなるかもわからない。


だが目の前の女の力で強くなれる可能性も否定出来ないが、自分一人で解決できるかわからないのも否定出来ない。


ではどうすれば……



「どうしますか?」


「オレは……」


では、と女は突然手を叩くとガイに提案した。


「アナタの望む形で私は助力しましょう。

その上で不満があるのなら、アナタは私を迷わず斬ってください」


「なっ……!?」


何を考えてるかわからない女の言葉にガイは困惑してしまう。



己の命を賭してまで見ず知らずの相手に力を貸そうとするその考えと意図がわからないガイは言葉を失い、ただため息をつくと確認するように言った。


「……本当にオレの気分次第で斬ってもいいんだな?」


「ええ、ご自由に。

アナタの心に従ってください」


「そうか……だったらアンタの提案に乗ってやる」

(これがどんな結果になろうとも……オレは!!)




***

夜。


夕食も済ませ、風呂にも入ったヒロムは寝間着がわりのジャージを着て庭に出て、夜空を見ていた。


「アイツ、大丈夫かな……」

(いつもオレのことで真剣に悩んだりしてるけど……ガイが自分のことで悩むって珍しいからな)


ヒロムは今、ガイのことを心配していた。


ヒロムの話を聞いてから屋敷を出ていったガイだが、ヒロムも気づくほどにガイは自分のことで悩んでいたのだ。


「アイツにも悩みくらいはあるだろうしな……」

(オレからは何も言えねぇからな……)


ヒロムは後ろ頭を掻くとため息をつき、空を見上げながら呟いた。


「……下手すりゃオレのせいだろうしな」


「何悩んでんだ?」


すると屋敷の方から真助が歩いてきてヒロムの方へ向かってくる。

真助はやってくるなり缶コーヒーをヒロムに手渡し、座り込む。


「オマエも悩んでんのか?」


「いいや……ってこれブラックじゃねえのかよ」


「微糖だから大丈夫だろ?」


「そういう問題かよ……」


で、と真助はヒロムに一つ質問した。


「見つかったのか?

守るための戦いのためにどうするか」


「……さあな。

オマエらの言う通り、これまでのことがあるから戦いは増えるのはたしかだ。

だから……変わらないのかなって」


「なんだ、悩んでるじゃねぇか」


「……悩みってほどじゃねぇよ。

でも、守るってどうすればいいんだろうな」


オレに聞くなよ、と真助はため息をつくとヒロムに告げた。


「今まで戦うだけだったオレに聞くことじゃねぇだろ?」


「どうだか……オマエ、変にアイツらの気持ちわかってるからなぁ……」


「たまたまだな。

……でも、オマエが少しは向き合うようになったのは大きいと思うぞ?」


「そうか?」


そうだな、と真助は頷く。


ヒロムにはあまり変わりのないことなのだが、真助は大きな変化だと思っているらしい。


「今更だろうけどな……」


「それでも、このまま変わらなかったらお嬢様方はもっと苦しんでただろうな。

アイツらはアイツらなりに戦ってたんだぞ?」


「……そう、だな」


真助に言われ、ヒロムは申し訳なさそうな顔をする。

それを見た真助はヒロムも少しは反省しているんだなと思い、思わず笑ってしまう。


「ハハハハ、オマエは面白いな」


「何がおかしい?」


「……オマエも人間らしく生きてるじゃないか」


「ああ?」


「まぁいいさ。

とにかくどうするかはゆっくり決めろ。

それが決まるまでは全力でオレが敵を潰してやるよ」


「オマエ……武器ねぇだろ?」


「雑魚くらいなら素手でも余裕だ」


真助は笑いながら冗談のように言うのだが、真助と一度戦っているヒロムはそれが冗談に思えず、笑うことが出来なかった。


というより、真助がやると言ったら本当にやってしまいそうで怖い。


「……程々にしとけよ?

オマエの能力は命削るんだろ?」


「今更だな。

この痣が肥大化しない限りは問題ねぇよ」


右頬の痣を触りながら真助は言うが、ヒロムはただ心配でしかなかった。


「狂」の能力は発動中常時真助の体を少しずつ侵蝕する黒い雷を使役する。


その度合いはよく分からないが、大きな力は確実に命を削るはずだ。


その代わりに魔力を断つ力と身体強化を行える。


だが、その諸刃の能力に頼って戦えば真助であろうと倒れるのは目に見えている。


「……無理なら退くくらいはしろよ?」


「王様の言葉として聞いておくよ」


茶化すなよ、とヒロムはため息をつくが、そんな真助に少しばかり頼りになると感じていた。


「……なら、少しは時間かけて見つけるか」


「おうよ。

頑張……」


いた、とユリナがこちらに向かって早足でやってくる。


何かあったのかと思うヒロムと真助だが、ユリナは少し頬を膨らませていた。


「こんな遅くに外に出たら風邪引くよ?」


「あいあい……」


「もう……わかってる?」


ユリナはヒロムの顔を覗きこむように見つめるが、ヒロムは視線を逸らすと背を向けて屋敷に戻ろうとする。


「ど、どこ行くの!?」


「中に戻るんだけど?

風邪引くんだろ?」


「う、うん」


「ここで話しててもオマエが風邪引くかもしれないしな……。

何かあるなら中で聞くよ」


「うん!!」


ヒロムが歩いていくのについて行くユリナ。


(ヒロムの変化が何を意味するのかはわからないが、これで少しは前に進むかな……)


「そうすれば、オマエも楽になるんじゃないか?

そうだろ……シンク」


二人の後ろ姿に何かを思う真助は遅れながらも追うように歩いていく。


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