九話 角王
トウマが滞在する一室。
トウマと狼角はノートパソコンの前でコーヒーを飲んでいた。
ノートパソコンのモニターにはどこからか撮影しているヒロムたちと自身の部下である「牙道」の戦闘が映っていた。
「おいおい……。
弱すぎるだろ」
「……」
「牙道」の面々が倒れ、最後に牙天が倒れたのを確認したトウマはため息をついた。
「あっけないものですね……」
「もう少しマシな戦いすると思ったんだがなあ……ん?」
すると戦闘映像に男が新たに映ると狼角は思わず笑ってしまう。
「クハハ!!
まさかあの男があの場に居合わせるとはなあ。
なんて運がいいんだよ、拳角」
「すぐ駆けつけるように連絡を入れたのですか?」
「まさか。
拳角の出現はたまたまですよ」
拳角の出現「は」たまたま。
狼角のその言い方にトウマはすぐに気づいた。
「拳角さん以外には連絡を入れたんですか?」
「鋭いね、ダンナ。
射角と刃角には拳角に合流するように伝えてある。
だからこのままいけば角王三人であの男を始末できる」
「ですが……」
「わかってますよ。
今回の狙いはあくまであの「無能」を襲った上で裏切り者が出てくることくらいは」
狼角は淡々と言うが、トウマは納得しているようには思えなかった。
狼角はそんなトウマを見て、ある質問をした。
「もしかしてだけど……あの「無能」に情けをかけたいとか思ってます?」
「……そうじゃないです。
ただ、あのシンクがこんな方法で姿を見せるかが不安なだけです」
「その時はその時。
ここであれを始末できれば嫌でも姿を出してくるさ」
狼角の自信にあふれるその言葉。
トウマは納得しているわけではないが、狼角の考えには一理あると思っていた。
万が一この狼角の案がうまくいけばシンクをおびき出せる。
その上で「無能」のヒロムを始末してしまえば一石二鳥。
まして今自分が信頼する「角王」のメンバーが集結しつつある。
いくらあの「無能」が何かを隠していたとしても実力上はこちらが上である。
「……ここで決まれば障害は一つなくなる。
早々に片づけて例の一件に専念したいものだ」
***
拳角。
目の前のこの男は「角王」と名乗った。
「……へえ。
角王か」
ヒロムは不敵な笑みを浮かべながら拳角のもとに向かおうとしたが、ガイがそれを止めた。
「ああ?」
「待て。
危険すぎる」
「危険?
ここで速攻で倒せば……」
落ち着け、とソラもガイと同じようにヒロムを止めようとした。
「いくらオマエがあの雑魚たちを倒してもさすがに簡単に任せることはできない」
「おい。
それはオレに能力が……」
「そうだ。
今に関してはオマエは「無能」だ」
「な……」
「オマエはトウマがかかわると冷静さがなくなる。
だから今そう呼んだ」
「オレは冷静だ」
「おい、終わったか?」
拳角はこちらの様子を眺めながら全身に炎のようなエネルギーにも似た何かを纏っていく。
ユリナとハルカはそれが何かわからないがために驚くが、その正体を知るヒロムたちは驚く様子もなかった。
「自慢か……」
「悔しいならやってみろ。
こんなもの基本中の基本だぞ」
「何あれ……?」
「魔力兵装」
拳角が何をしたのか気になっていたユリナにイクトが説明した。
「オレら能力者や精霊を使う大将は魔力を持つ。
力の使用などに使用する燃料みたいなものだ。
で、それを外部に放出し、その身に纏うことでエネルギー体として攻撃や防御に応用する技術が魔力兵装」
「あんなことが基本中の基本って……」
「ただ……大将はできない」
「え……?」
「できても何もねえよ」
拳角が今やっていることはガイやソラ、イクトは簡単にできてしまう。
しかし、ヒロムにはできない。
十一人の精霊が使えるにもかかわらず、それ相応の膨大な魔力を持つヒロムはできない。
フレイたちは十一人中十一人が魔力兵装ができる。
ヒロムは魔力を外部に放出できない。
そのことがヒロムを「無能」と呼ばせる原因でもある。
「理由はわからないがオレが出会ったとき……いや、聞いた話も含めば生まれてから一度も魔力兵装を成功させたことがない」
「そう、初歩中の初歩もできない。
だから「無能」、それなのに無駄に足掻き、意味もなく日々を過ごしている」
「誰にでも得手不得手があるってわからないのか?」
「おいおい、馬鹿なこと言うなよ」
するとヒロムたちの背後から男が現れる。
金髪に左頬に傷を持つ男、男は右手に銃を持っていた。
そして、その男から放たれる殺気は拳角のものと似ていた。
そう、つまり……
「角王……」
「へえ、正解。
オレは射角だ」
「……早かったな射角」
「そうか?
オマエが魔力兵装したおかげで気配辿れたからな」
「……で、何が馬鹿だって?」
「ああ……。
わかってないだろ、オマエ。
オマエら一般人はできなくてもそれで済む。
けどな、その「無能」はその体の中に「八神」の血を流している。
つまりだ、それ相応のことができないんじゃ意味がない、価値もない」
「何だと……!!」
「とにかく、何もないその男がこれ以上何かするのは危険だ。
ここで始末する」
「じゃあ、楽に殺されろよ?」
「……やってみろ」
ダメです、とフレイとマリアがヒロムを制止する。
が、二人に止められたヒロムは不機嫌そうな顔をするが、二人は一切気にしていない。
「マスターはここで休んでいてください」
「ヤダ」
フレイの言葉にただ一言言って断るヒロムだが、すぐにマリアがヒロムと止めるべく動いた。
「子供みたいなこと言わないでください。
ここは……」
「はいそうですか……て納得できるか。
昨日の今日でこうも八神の刺客が来てんだ。
ストレス溜まってるんだよ」
冷静になってください、とテミスもヒロムを止めようとする。
「今ここで未知数の相手と戦うのは危険すぎます。
ここで私たちが足止めして……」
「聞こえているぞ。
その未知数の相手を足止めできるか?」
「……確認だけど、殺していいわよね?」
「ええ、マスターの害敵は排除しなければいけません」
マリアの確認にフレイは何の迷いもなく肯定すると武器を構える。
そして、マリアは魔力をその身に纏うと拳角に殴りかかる。
が、拳角はそれを避け、マリアを殴ろうとしたがマリアは拳角の拳を殴り返した。
「なんて力だ……」
「油断してるの?」
マリアの力に驚く拳角の背後にアルカが現れ、雷を放つが、拳角はそれを避けると一度距離をとった。
「……油断などしていない」
「おいおい、こっちにもいるぞ!!」
射角が銃を構え、引き金を引こうとすると、無数の炎弾が射角に襲い掛かる。
「ああ?」
射角は炎弾をすべて余裕の表情で避けていく。
炎弾が飛んできた方向を見ると、その方向には銃を構えたソラがいた。
「おい……オレもいるぞ」
「このクソガキが……!!」
射角は何の迷いもなく銃口をソラに向け弾丸を放つ。
「させない」
メイアはソラの前に立つと氷の壁を作り、弾丸を防ごうとした。
「氷の能力か」
「ええ。
氷を自在に操るのが私の能力よ」
「余計なことを……」
メイアの氷の壁の内側で反撃の隙を窺おうとソラは銃に魔力を込めようとした。
しかし……
「メイア、ソラ。
そこから離れろ」
ヒロムは拳角のほうを向いたままソラとメイアにすぐさま退避するよう指示した。
ソラとメイアはそれを聞いてすぐさま氷の壁から離れ、それとほぼ同時に射角の放った弾丸が氷の壁に当たると大きな爆発を起こす。
「な……」
ソラは目の前の光景に少し驚いていた。
もしヒロムの合図が遅く、あのままあそこにいれば、敵の攻撃で負傷していたからだ。
「なんでバレたかな?
オレの能力「爆撃」の力を初見で避けるとはな」
「この、オレたちも……」
戦闘に次々と介入していく仲間たちに続こうとガイとイクトも武器を構えた。
だがガイはすぐさま異質な気配に気づかされる。
「ありゃりゃ。
もう始めてたか」
どこからか声がする。
ガイはその声の方を見るとそこには青年がいた。
帽子を深く被った青年、腰には六本の刀を帯刀し、不敵な笑みを浮かべていた。
「まさか……」
「そ、角王が一人……刃角だ」
「また……角王か」
最悪だ、とガイは今のこの状況に対して少なからず焦っている。
危険だとして警戒すべき相手が一度に三人も現れ、それも囲まれたような状態だ。
退路を断たれ、もはや戦って勝つ以外の選択肢がない。
「どうすれば……」
「……あのさ、考えがある」
するとヒロムがガイたちに急に説明を始めた。
「オレが拳角を相手する。
だからあとの二人は頼む」
「何を……」
「オレを信じてくれ」