八七話 界想
あれは精神世界でのことだ。
珍しく早起きしたオレに驚くユリナと軽く話をした後、すぐに精神世界に戻った。
「待たせたな」
精神世界に戻るとフレイとアイリスがそこで待っていた。
「いえ、もう少しゆっくりでも大丈夫でしたよ?」
「いや、待たせるわけにはいかないからな」
「それくらい私もフレイも気にしていませんよ?」
「……とにかく始めよう」
オレは少し急かすように言うと二人を連れてさっそく作業に取り掛かったんだ。
作業というのはセラがオレに提示してきた嘘みたいな企画だ。
それも謎めいた内容のな。
その内容というのが……
『 マスターと精霊、ドキドキ成長作戦!!
その一︰マスターと各自順番に二人っきりでお互いについて語り合う
その二︰全員の戦い方と技を把握する
その三︰マスターへの愛を語り合う
その四︰マスターの理想を知る
以上の四点をすべて行うことで真の力が発揮されます』
「とりあえず……フレイから始めるからアイリスは順番に集めてくれ」
「わかりました」
「ではマスター、行きましょう」
***
大体一時間ずつ順番にオレと相手のことで語り合うこと半日分くらいの時間が過ぎた。
だが精神世界での一日は本来の世界での一時間……つまり外ではまだ三十分程度しか経っていないという単純計算になる。
が、それでも疲れた。
「……少し休む」
オレは地べたに寝転がるとため息をついた。
そばにはフレイとアイリスがおり、二人とも心配そうにこちらを見ていた。
が、これもすべて自分のため。
そう考えたオレは再び頑張ろうと思いつつ、そのままの体勢でフレイに言った。
「続きを始める。
全員の戦闘スタイルと技をまとめてくれ」
「わかりました」
それと、とオレはフレイに一つだけあることを依頼した。
「その三についてはそっちでまとめたものを用意してオレに報告してほしい。
それを見ながらやりたい」
「でしたら私が聞いて回りますね」
アイリスがオレの頼みを引き受け、彼女はすぐに行動に移った。
頼りになる精霊だ、オレは改めてそう思った。
「んじゃあ……も一度頑張るか」
***
六時間ぐらい経過した時にその二の内容はすべて終えた。
ひとまず全員の戦闘情報をまとめ、そしてアイリスがまとめ上げたその三についての情報。
オレはそれらを照らし合わせながらオレのもとに集合したフレイたちと話し合っ……このまま順を追って言うのも長いな。
まあ……結論だけ言うなら全部クリアしたってわけだ。
で、本格的に特訓を開始したわけで……
「……完成した。
「狂鬼」との戦いで纏ったあの力と同等の……いや、結果次第ではそれ以上の成果を出せる力が」
オレは全身に白銀の稲妻を纏うことができるようになり、この状態を「ソウル・ハック」と名付けた。
それはなぜか?
この「ソウル・ハック」の白銀の稲妻はオレの魔力とフレイたち全員の魔力を合わせたことで生まれる大きな力を身に纏うこと、そしてこの力で自分自身の魂を「精霊」という存在に昇華するためだからだ。
魂に干渉する、そういう意味ではふさわしいかもしれないな。
オレはこの力をさらに改善しようと考え、フレイたちとセラと新たな精霊四人と共に試行錯誤を繰り返していた。
そんな中、「ソウル・ハック」を発動したとき、偶然ではあるが声を聞いたんだ。
『マスター』
『ついに会うべき日が来ました』
『ここにいます……』
オレを呼ぶ声、それはフレイたち十一人でも、セラ含む合流したばかりの五人でもない。
ここにいる誰も知らないような誰かの声だ。
「声、ですか……?」
フレイたちに確認したが、それらしい存在は知らないと言われるが、確かに聞いたのだ。
間違いなく、何かがいる。
オレの精神世界で聞こえた声、それはつまりこの世界に誰かしらいるという証明だ。
その声の存在を確かめるようにオレは精神世界にある白銀の城の中を探し回った。
「ソウル・ハック」の発動状況による影響なのか、偶然なのかはどうでもいいと思いながら探していると出会ったんだ。
セラがオレに隠していたそれに……。
「これは……」
白銀の城の中、その地下に位置するある場所でそれを見つけた。
その部屋はこれまでヒロムもフレイたちも気づくことのなかった部屋。
そこは剣、槍、杖、刀が突き立てられし部屋、それだけで何かがいるわけではないが、感じたのだ。
だからオレはそこで「ソウル・ハック」を発動して確かめた。
その結果、力に呼応するように剣や杖は光を放ちながら姿を変え、そして現れた。
フレイたちも、オレも知らない四人の精霊が。
彼女たちが何なのか?
それが気になったオレはセラに問い詰めた。
「あれについて知っていたのか?」
「ええ……存じていました。
私たちとは別の方法でマスターがご自身の力を制御できる日が来るまで自分たちの存在を封じることにした守護の精霊です」
「守護の精霊?」
気になったオレは何なのか尋ねた。
セラもオレの問いについてははぐらかすことも誤魔化すこともなくすべて正直に話した。
「本当のことを言うと、マスターは私たち二十人を偶発的に宿しました。
そしてマスターが物心つくよりも前に、私はマスターの身を案じて力を封じて抑えることを考えました。
彼女たちは私たちが力を抑える一方で、マスターの負担となる精霊の数を今は減らそうと姿を隠していたんです」
「ふ~ん……」
よくわからなかったが、とにかくオレの中の力を抑え込むことで肉体への負荷を減らそうとしていたセラに協力した精霊がまだいたってことらしい。
が、気になる点はいくつかある。
「なんで最初にオレにそれを言わなかった?」
「言えばマスターは何が何でも全員を召喚できるようになろうとしたのでは?
そうなれば急がれて見えるものも見えなくなる可能性がある、そう考えたからです」
「なるほど……。
なんで「ソウル・ハック」を発動したときに呼応するように声が?」
「おそらくそれがマスターの真の力による影響だからです。
マスターの真の力……それは私たちの力をその身に宿すことが許された力なのですから」
「オレの力が……」
ピンとこないが、セラの言う通りならオレの力というのはフレイたちの力を自分で使えるようになることらしい。
が、それについてセラは申し訳なさそうに説明した。
「ですが……こうしてマスターが「ハザード」に苦しむ事態に陥ったために私が取った行動のせいでそれが完全に復元できるかは……」
「……それもよくわからないが、オレが元々使えたかもしれないその力が今はないって言うなら新しい方法を作るだけだ」
オレはため息交じりに言うが、セラはそんな呑気には考えていない。
だから、オレはセラが提示した作戦の最後のオレの理想を口にした。
「……オレはオマエたちと共に戦いたい。
オマエたちの力をこの身に宿し、その力を体現できるならそれを実現する」
「ですが……」
方法ならある、とオレは言うとその方法をセラと、そしてフレイたちに伝えた。
非現実的な方法だがそれを聞いたフレイたちは馬鹿にすることもなく、それどころか賛同してくれた。
「やりましょう、マスター」
「その方法ならマスターの理想と私たちの思いの両方が叶うかもしれません」
「ああ……「コネクト」。
オレとオマエたちのすべてを共有し、そのすべてを自由に使える状態にしたオレたちにしかできないことだ」
こうして完成したのが「ソウル・ハック・コネクト」。
フレイたちの能力と武器を、そしてオレたち全員の力を共有して戦闘力に反映してしまう力だ。
が、この完成と共にあることを考えた。
「……オレの精霊の数はユリナにも伝えたようにしばらくは十六人で通す」
「どうしてです?」
セラは不思議そうに尋ねてきた。
それもそのはずだ、せっかく二十人全員の力を共有する「ソウル・ハック・コネクト」を完成させたのに、それを台無しにするようなことを言うのだから。
が、これには理由がある。
「最後の切り札ってやつだよ。
敵に完全に手の内をさらさないためにもこうしたほうがいいのかもしれない」
「では……」
「十六人になるように守護の精霊とセラを含む五人の計九人から追加召喚できるようになった精霊として皆に教える精霊を五人選ぶ。
しばらくはそれで隠していく」
「……いいのですか?
偽る形になっても?」
「今更だろ?
散々迷惑かけてるし……これからのためにもオレが切り札となれるほどのカードは残しておきたいからな」
「わかりました」
セラは頷くとフレイたちに確認するように全員の顔を見るが、その場にいた全員が迷うことなく首を縦に振った。
これはつまり、オレの意見に賛成してくれているということだろう。
ならば……
「そうとなったらしっかり考えねえとな……。
精霊間の相性と、戦闘スタイル云々、オレとの連携効率……全部を考慮して考えるとして……」
***
時間にしておおよそ二時間。
長い沈黙の中ヒロムは考え、それをフレイたちは静かに待っていた。
そして……
「これがベストかもな……」
オレは長い沈黙を破るように口を開き、そしてフレイたちに伝えた。
「最後の切り札ってことで秘密にしておく精霊四人は……だ。
だからディアナ、ランファン、フラン、セラ、そして……は新たに呼ぶ精霊として扱う」
「わかりました」
「それと……万が一オレが敵に洗脳された場合も考えて、ガイとソラには本当のことを話しておく」
「それは……」
「わかってる。
切り札として扱うって言ったのにおかしな話だが、それを阻止できる存在も用意しておきたいんだ」
「いえ、マスターが決めたのなら文句なんてありませんよ」
フレイは笑顔で言い、他の精霊たちもそれに頷いた。
「……よし、これで決まった。
これからオレは……オレたちはどうすべきか決まった」
それで、とオレはさらなる提案をフレイたちにした。
その提案は彼女たちを驚かせたが、同時に全員が賛同した。
これまで誰も思いつかなかった方法、そして誰もこれを真似ることができないであろう技術。
「……じゃあ、完成させるか!!」
オレはフレイたちと共に、それを完成させるために必死になって特訓をつづけた。
その結果生まれたのが……「クロス・リンク」だ。
こうしてオレは「ソウル・ハック」、「ソウル・ハック・コネクト」、そして「クロス・リンク」を完成させ、本来宿していた二十人の精霊すべてを認識し、使役できるようになった。
これが精神世界での全容。
そしてオレが二十人いる精霊を十六人と言ったかという理由だ。
長いわりによくわからなかった?
気にするなって、世の中……そんな感じだろ?