表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
魂霊装天編
85/672

八五話 想談

ヒロムは一人、ベンチに座っていた。


戦闘を行っていた地点から少し離れた先にある公園。

戦闘があった先程まであの場所とは打って変わってここには休みらしく子供を連れた主婦や家族らが楽しそうに遊んでいた。


「……微笑ましい光景だな」


ヒロムはため息をつくとベンチの上で胡坐をかくように座り直し、ある人物を待っていた。


そう、フレイに頼んだことでここにやってくる人物だ。

場所はそう遠くないが、狼角と戦う前の一件があったせいで来てくれるかは怪しい。

というか、来てくれても向こうからすれば気まずいのかもしれない。


「はぁ……」

こればかりは待つしかないかと自分に言い聞かせるようにため息をつくヒロム。


フレイが手当てしてくれた右手を見ながら何かを考えるヒロム。


いや、難しいことではない。

単純にこれを見た時、どう説明するかを考えているのだ。


ヒロムの予想では高確率で自分のことのように辛そうな表情を浮かべて心配してくる。

ただでさえ心配していたのに、怪我してるとなれば余計にだ。


「……これもオレの行いのせいなんだろうな」


またため息をつくヒロム。

これで何度目だろうか?


何度もついたため息、数えていないとはいえ多くなっていることは明白で、どれだけため息をついたんだとヒロムは呆れてため息をつく。


「……また、か」


「ヒロムくん……?」


ヒロムのもとへ誰かが来て、恐る恐るだが声をかけてくる。

誰か、というのは適していない。

なぜならその人物を、彼女のことをヒロムは知っているのだから。

「お、来たか……」


ヒロムは彼女の方を見ながら話しかける。


「悪いな、こんなところに呼び出して」


「う、うん……大丈夫だよ」


彼女は、姫野ユリナはどこか元気のない表情で頷く。

が、決してヒロムのそばに近づこうとせず、距離を保って立っていた。


「リサたちは……フレイと一緒だよな?」


「う、うん……ここには私だけで来た」


「……立ち話も何だし、座れよ」


ヒロムはユリナへ自分の隣に座るように告げる。

それを受けたユリナは小さく頷くとゆっくりとヒロムに歩み寄ると、隣に座る。


が、それでもユリナはヒロムとの間に少し距離を開けていた。

ヒロムが手を伸ばせばすぐに届く距離だが、それはしない。


触れられたくないからこそこうして少し離れているのだから。


その理由となる原因は先程の件だ。


「……さっきはごめん」


まず謝罪をしたヒロム、だがユリナは何も言おうとしない。


それでもヒロムは話を続けた。


「自分勝手なのはわかってる。

けど、ああしなかったらオマエを危険に晒していたかもしれないんだ」


「……」


「さっきも言ったかもしれないけど、オレには戦うしかできない。

それがオマエたちを守るためでもあるから……」


「……でない」


小さく呟かれたユリナの言葉、それは突然のことということもあり、しっかりと聞き取れなかった。


「どうかしたか?」

「……頼んでない」


ユリナは再び呟く。

涙を浮かべながら呟かれた言葉にヒロムは言葉を奪われ、そんなヒロムにユリナは続けるように話した。


「いつも守ってほしいなんて言ってないよ……。

私はヒロムくんと何気ない毎日を過ごして、みんなと楽しい毎日を送りたい……。

だからヒロムくんには無理なんてしてほしくなかった……」


「……悪い」


「パーティーの日だって、一人で勝手に動いて私……すごく怖かった」


「……悪い」


謝罪するように同じ言葉を繰り返すヒロムにユリナは溜まりに溜まった言葉を吐き出していく。


彼女の本音、それをヒロムは遮ることなく聞くしかできないと考えた。


「本当のことを言うと……精霊世界で新しい精霊と出会ったって言われた時、すごく不安だった。

また……無茶しようとするんじゃないかって」


「……悪い、けどそれは……」


「真助が敵だった時、ヒロムくんが奇跡的に勝てたけど……。

あの時、ヒロムくんが死んじゃうんじゃないかって怖かった」


ユリナは体を震えさせ、そして涙を瞳から流し落としてヒロムに対して訴えかけるように告げる。


「あの日からヒロムくんはどこか変わった気がするの……。

何か一人で背負おうとしてるような……」


「それは……」


「こんな言い方するのはひどいとは思う。

けど……こうでも言わないと聞いてくれないじゃない」


ユリナは次々に涙を流していく。

その涙を見るとヒロムは胸が苦しくなり、そしてユリナの顔を見れなくなってしまう。


悲しませた、それはすぐにわかる。

これまでも悲しい顔をすればそんあことはすぐに気づいた。


けど、今もこれまでもその根本的な理由は敵とかではなく自分にあると理解したからこそ苦しいと感じるのだ。


「その手……」


ユリナは手当てのされた右手を指差してヒロムに訊ねた。


「さっきはなかったよね……?」


「ああ……狼角のやつと戦った時に……」


「……見たくないよ」

ユリナの震えながら、振り絞るように吐き出された言葉。

それはヒロムがこれまで言われたことのない言葉だった。

「ユリナ……?」


「ヒロムくんだって私たちと同じように一人の人なんだよ?

それじゃダメなの……?私たちと一緒じゃダメなの?」


「ち、違……」


「だってそうじゃん!!

私たちのためって言って、いつもそうやってたたかうことばっかりで……。

私たちのためだって言うなら……話くらい聞いてよ!!」


ユリナの心から発せられたであろうその力強い言葉を前にヒロムは何も言えなかった。

いや、言う資格がないと思った。


これまで何があっても自分の力になろうとして、自分の話を誰よりも聞いて、誰よりもそばで支えようとしてくれた彼女にこんなことを言わせてしまう自分には反論する資格はないのだと思ったのだから……。


「……ごめん」


「謝らないでよ……能力者じゃなくてもいいって思うのは私だけなの?

強くなることがそんなに大事なの?」


「前にも言ったかもしれないけど……オレはトウマを……」


「わかってるけど……今もそのためなの?

だったら私たちのことはそのついでなの?」


「……!!」


「私はただ……皆と何気ない毎日を過ごせるだけで幸せだと思う。

でも……ヒロムくんは違うんだよね?」


ユリナの言葉、それは今まで戦闘で受けた傷や痛みでは表せないほど心をひどく締め付け、そして苦しくて仕方ないほどの罪悪感に見舞われてしまう。


トウマを倒すために強くなる、ユリナたちを守るために戦う。

何度も戦うたびに己の中で強く抱き、これまで戦ってきた。

だがそれは自身が満足するための理由でしかなかった。


「……オレは……」


何を言っても都合のいい言い訳だと思われるような言葉にしか聞こえない、そう考えてしまうとヒロムは次に言おうとする言葉が出てこない。

そんなヒロムにユリナは涙を拭うと伝えた。


「……こんな言い方しちゃったら何も言えないかもしれないわかってる。

でも……今のヒロムくんはこれくらいしないと聞いてくれないでしょ?」


「……そう……だよな」

(これが……気持ちを察しようとせずに押し付けた結果か)


自業自得、まさにそれが今の自分にふさわしい言葉だ。

守るべき存在をここまで追い詰めるほどに苦しめていたのは自分なのだから……。


そう思ったヒロムはユリナに寄り添うとそっと抱きしめた。


「え……?」

予想外だったらしく、ユリナは驚いてしまう。

いや、驚くのも無理はない。


これまでのヒロムからこんな行動に出るなんて考えもつかないのだから。

ヒロムにはこういうことは無縁だと周囲が認識するほど、彼はこういうことをしようともしたいとも思っていない人間なのだから。


「ど、どうしたの……?」


「そのまま聞いてほしい……」


「う、うん……」


予想外のことでユリナはただヒロムの言葉に従うしかなかった。


「オマエの言う通りだよ。

オレは戦うために強くなって、その度に来る敵を倒すためにオマエたちを守るって言って巻き込んでたんだ。

……それでお前たちを安心させられるって勘違いしてたんだ」


「うん……」


「けど、実際はオマエをこんなにも不安にさせて、オマエにここまで言わせるようなところまで身勝手になっていた。

守ることを戦う理由にして、オレは強さを誇示しようとしてしまっていた」


「うん……」


「……形はどうであれ敵と戦って強さを証明できる、ガイたちとともに肩を並べて戦える……能力のないオレが戦うことで存在意義を保てると錯覚してたんだ」


ユリナを抱きしめるヒロムの力は少し強くなり、それにより密着してしまうユリナは涙を流す一方で頬を赤くする。


「オレの中でオレが生きてさえいれば問題ないと思っていた。

……それで安心してくれると思ってたんだ。

……言ってることは滅茶苦茶で悪いが、これがオレの本心なんだ」


「違うよ、私は……」


「だけど今わかったよ……オレがどうべきか」


「?」


なあ、とヒロムはユリナに一つ質問した。


「今のオレは……正直な話オマエらの気持ちに応えれそうにない。

自分がどうするべきかわからない、人に言われて気づくくらいに感情に対しての関心がない。

だから……今からでもいいって言ってくれるならオマエたちといさせてくれ。

今からオマエたちの気持ちに応えれるようになる……から」


「……大丈夫だよ」


ヒロムの言葉にユリナは一言言うと、ヒロムを抱き返した。

そしてそのままヒロムに思いを伝えた。


「今から一緒にがんばろ?

皆も私もヒロムくんが頑張るのならどこにでもついていくよ?」


「ユリナ……」


「そのために力になるって言ったんだもん。

それでヒロムくんが変われるなら、私は一緒に頑張るよ」


「……ありがとうな」


「うん、私は……」


ゴホン、と二人の後ろで誰かが咳払いをする。

二人は慌てて離れ、後ろを確認するとフレイがおり、その後ろにはリサたちがいた。



咳払いをしたのはおそらくフレイなのだろうが、リサとエリカの視線はどこか冷たかった。

「何イチャついてるのかなあ?」


「二人で話ってこういうこと?」


「ち、違うの!!

これはその……」


冗談よ、とリサは言うとヒロムに歩み寄るとヒロムに対して伝えた。


「私はヒロムくんが戦いたいなら止めないよ?

でも、何かあったら悲しむってことだけは覚えててね?」


「お、おう……」


それと、とリサに続くようにエリカがヒロムに言う。


「今日の埋め合わせ、しっかりしてね?」


「……わかったよ」


ヒロムがため息をつくと、入れ替わるようにチカがヒロムに自分の思いを伝える。


「ヒロム様がどうなさるか、これからについてはそれが大事だと私は思いますよ。

何のために行動するのか、それは大切ですし」


「これから、か……」


ヒロムは少し考え込み、、そしてある結論を出すとフレイに伝えた。


「フレイ、悪いけど……トウマとか「一条」とか「十家」は後回しだ」


「マスター?」


「今はコイツらと過ごす日々を守りたい。

オレのためにも、コイツらのためにも……帰るべき場所と待つべき人のために」


「それでいいんですね?」


「戯言かもしれないが、オレは「復讐」とかそういうことに囚われすぎた。

だから、今からでも間に合うならオレは何かのために戦う力を手に入れる」


「強くはなるんだね」


リサが話しの腰を折るようなことを言うが、それを気にすることなくヒロムはフレイに伝えた。


「これからもオレのわがままに付き合ってくれ」


「当然です。

すべては私たちのマスターのためです」


ヒロムの言葉にフレイは返事をすると、リサが話題を変えるようにヒロムに言った。


「じゃあ、まずは女心から勉強しましょうか」


「女心?

なんで急に……」


「私たちのことをもっと知るためよ。

ね、ユリナ」


「う、うん……い、いいんじゃないかな」


(返事曖昧だな、おい)


それと、とリサとエリカは顔を合わせて頷くとヒロムに抱き着く。


「うお!?」

「ユリナだけずるいから私たちも抱いて!!」


「そうよ、リサと一緒でついで感はあるけど、いっぱい抱いてね」


「ふざけんな。

つうか場所考えろよ」

「「ヒロムくんには言われたくないかなあ」」


「もう……」


ユリナを抱きしめていたヒロムのことを言う二人、そんな二人に注意しようにもできないユリナはただため息をつき、ヒロムもただ恥ずかしそうに二人を離れさせようとしていた。


そんなヒロムたちを見つめるフレイはどこかうれしそうだった。


(マスター、まだ少し不器用なところが目立ちますが、ようやく前に進むことを決意されたのですね。

過去に縛られていたこれまでとは違う、これからのために……)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ