八二話 力の差
ヒロムの闘志を前にしてやる気を見せる「ハザード・チルドレン」たち。
フレイとディアナはヒロムの横に並び立つと一つ確認した。
「時間をかけないのでしたら、「クロス・リンク」を使いますか?」
「私たちのスピードなら……」
「ダメだ、それだとコイツらを前にして策がないのと同じだ。
重要なのは狼角がわざわざ下がったことだ」
ヒロムは深呼吸して気持ちを整えると白銀の稲妻をその身に走らせる。
「なぜ現れてすぐに下がるのか、おそらく葉王からオレのことを聞いてるに違いないってことだ」
「では……」
「まずは目の前の雑魚を潰す。
その上で狼角を……潰す!!」
ヒロムはさらに白銀の稲妻を走らせると両手にマリアの装備するガントレット、さらにテミスの銃剣を右手に、ディアナの槍を左手に装備した。
「……やるぞ。
オレたちの力を見せつけるぞ!!」
はい、とフレイとディアナは勢いよく走り出し、ヒロムもそれに続くように走り出した。
その中でヒロムは銃剣を前に構えて炎の弾丸を放ち、敵である「ハザード・チルドレン」を牽制し、左右に散開させる。
が、「ハザード・チルドレン」たちは左右散開するとともに銃を構えてヒロムに向けて弾丸を放ち始める。
「へぇ……」
迫り来る弾丸、それを前にしてもヒロムは足を止めない。
それどころか次々に迫る弾丸の中を駆け抜けるように走り、ヒロムは彼らとの距離を詰めていた。
「速い……!!」
「なんで弾丸を……」
「ま、流動術があれば余裕だよ」
ヒロムの言う流動術、それはヒロムが能力者と戦うために編み出した技だ。
相手の動きや気配、風の流れ、殺気、ヒロムが相手から得られる情報から予測して行動する技。
弾丸を避けるくらい、この技を用いれば弾丸の軌道を導き出せば簡単に可能になる。
そして、それはヒロムがこれから彼らを倒すための手段を導く手段の一つでもある。
「さて、始めるか」
ヒロムはディアナの槍を天にかざすとともに槍の刃を展開し、天へと無数の光の弾丸を放つ。
「どこに撃ってやがる!!」
ヒロムの背後へと現れた炎城タツキは拳に炎を纏わせると背中から殴りかかろうとするが、それを阻止するかのようにヒロムの影からいくつもの苦無が放たれ、タツキの拳を弾いてしまう。
「な……」
(コイツ……後ろを見ないで……)
「……驚くなよ?」
ヒロムはタツキを見ることなく走る。
なめやがって、そう思ったタツキは追いかけようとしたが、フレイはタツキに大剣で勢いよく斬りかかる。
「この……!!」
タツキはギリギリでフレイの攻撃をかわすが、それを待っていたかのようにディアナが勢いよくタツキに蹴りを放ち、遠くへと蹴り飛ばす。
「ぐあっ!!」
「タツキ!!」
「降り注げ!!」
ヒロムは「ハザード・チルドレン」たちの中心に位置するであろう場所へと到達すると高く跳び、地面へとディアナの槍を投げ、突き刺した。
それを合図にするかのように天より無数の光の矢が雨の如く彼らに向かって降り注ぎ、襲いかかる。
「ゲイジング・ミーティア!!」
「うわあああ!!」
空からの攻撃、それを前にして彼らは避けることに必死になってしまい、陣形も何もなくなり、動きは乱れ始めた。
光の矢は数人に命中し、戦闘不能に導くが、残りは地面に突き刺さって炸裂して戦塵を巻き起こす。
「し、視界が!!」
「お、落ち着け!!
見えないのは向こうも……」
「違うんだよ」
ヒロムはテミスの銃剣の弾倉を数回回転させると引き金を引き、ビーム状の炎を放つ。
放たれた炎は戦塵の中へと向かっていき、そこにいるであろう敵を倒していく。
「うわあああ!!」
「きゃああ!!」
ヒロムの攻撃により響く悲鳴、それは彼らをさらに混乱させ、動きを乱れさせる。
「う、うわあああ!!」
錯乱したかのように「ハザード・チルドレン」の能力者が武器を構えてヒロムに攻撃をする。
だがその攻撃は隙が大きく、心の乱れからか攻撃も遅い。
「こんなもんか……」
ヒロムは流動術で先読みすることもなく迫る攻撃を避けると銃剣を地面に刺し、両手に魔力を纏わせると攻撃してきた敵を殴り飛ばしていく。
「……足りねぇな」
「オマエエエエ!!」
仲間が次々に倒れる中、その光景を目の当たりにして怒りを募らせたタツキは全身に魔力を纏い、さらに炎を拳に宿すと一気に接近してヒロムに殴りかかる。
が、ヒロムはそれを魔力を纏っている拳ではなく、何の武装もしていない脚で放つ蹴りで止めたのだ。
「!!」
想定外だったのか、タツキの顔は驚いたという表情が支配している。
が、ヒロムにとってはこれくらい出来て当然のこと、そして彼らもそれを想定していてもおかしくないはずだ。
彼らは理解しているはずだ。
能力者ではないヒロムが能力者を相手にこれまで勝利している事実から考えればこうなることは予想出来たはずなのだ。
「足りねぇ……これでオレと戦おうとしてたのか?」
「何をした……!!
それにオマエは能力者じゃないだろ!!」
何が言いたい、とヒロムはタツキの顔を殴り、さらに体に蹴りを入れると質問した。
「もしかしてこの武器のことか?
それともこれまでの攻撃のことか?」
「ぐぅ……!!」
「……甘ったるいなぁ」
ヒロムはアルカが使用する銃を出現させると構えて、雷撃をタツキにぶつける。
雷撃を受けたタツキはその雷のせいで体が麻痺したのか動きは鈍くなり、身に纏う魔力も拳に宿す炎も弱りつつあった。
「く……の……」
「目の前の光景について説明がないと何も出来ないか?
オマエらは事前に聞いてないと対処できないのか?」
ヒロムは銃を捨てると白銀の稲妻を大きくし、右足に集めていく。
さらにそれに呼応するように魔力の龍が一体、姿を現して雄叫びを上げる。
「戦いってのはな、持ちうる策すべて出し尽くしたのなら新たに見つけてでも勝とうとするからこそ至極!!
力があるからこそ強さを体感出来る!!
故にこそ……戦うことは何よりも面白い!!」
ヒロムは軽く跳ぶと回転し、白銀の稲妻を纏った右足で蹴りを放ち、それに追撃を加えるように龍が食らいつく。
「ああああ!!」
ヒロムの攻撃、そして魔力の龍の追撃を受けたタツキはその衝撃で吹き飛び、何度も地面に叩きつけられながら飛ばされた先でうつ伏せに倒れてしまう。
「タツキが……」
「足りねぇ……足りねぇ!!」
ヒロムはフレイの武器である大剣を装備すると次々に敵を倒し、苛立ちを募らせる。
「オレを倒すため、殺すため、そのために集められた「兵器」なんだろうが!!」
「ひぃっ!!」
戦意を失った数人が逃亡しようとヒロムに背を向けるが、ヒロムはメイアのレイピアを装備するなり目にもとまらぬ速さで後ろから突きを放ち、逃亡しようとする彼らを倒してしまう。
「感情に左右されて恐れ慄くくらいなら消えろ!!
オレを殺すなら逃げんじょねえ!!」
何人もいた敵はほとんど倒れ、最後の一人がヒロムの前で恐怖に震えながら武器を構えていた。
「ひ、ひぃ……この……」
「ああ?
オマエで最後かよ……」
ヒロムは大剣を大きく振り上げると両手で強く握り、勢いよく振り下ろす。
「うわああ!!」
最後の一人、その彼が死を覚悟した瞬間だ。
ヒロムの攻撃を阻止するかのように魔力の狼が現れ、大剣の一撃の身代わりとなり、消えていく。
「……へ?」
「おいおい……今更か?」
ヒロムは大剣を捨てると最後の一人を蹴り飛ばし、狼角を睨む。
狼角の周囲には魔力の狼が何匹もおり、フレイとディアナは魔力の狼と戦っていた。
「……なるほど、足止めのための「ハザード・チルドレン」か」
「聞いてるぜ?
バッツを倒した力についてはな。
だからこうして分散すれば発揮されないだろ?」
「かもな……。
利口に思えて、とても不十分な理由だ」
「何?」
「……クロス・リンク。
「龍擊拳王」!!」
ヒロムが魔力に包まれるとマリアとランファンが現れ、ヒロムと一つになる。
そして魔力の中よりマリアとランファンの力を宿し、その身に纏ったヒロムが現れる。
「バカな……!!」
聞いていない、という考えが手に取るようにわかるほどに狼角は驚いていた。
「なぜだ!!
その二体がいなければ「クロス・リンク」は発動しないはずだ!!」
「……愚かだな。
オレの精霊の数を考えろよな!!」
ヒロムは一瞬で狼角の背後へと移動すると目にもとまらぬ速さで狼角を殴り、さらに魔力を纏わせた拳で何度も殴る。
「オレを倒したいなら、オレを殺すなら!!
あらゆる手を想定して、そのすべてを打ち砕き、その上で絶望させてみろ!!」
「ぐっ……!!」
ヒロムの拳を受けた狼角は大きく仰け反り、その瞬間、ヒロムは両手に魔力の龍の頭部を出現させて狼角を殴り飛ばす。
魔力の龍の頭部は狼角に命中すると炸裂し、狼角はそれによりかなりの勢いで吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた狼角はその先にある建物の壁に叩きつけられ、そして倒れる。
「……呆気ねぇな」
「……そうか?」
倒した、と思ったヒロムに向けて誰かの放った一言。
それによりヒロムはすぐに気づいた。
まだ終わっていないことに。
フレイとディアナ、二人の安否を確かめようと様子を伺う。
二人はまだ魔力の狼と戦っている。
つまり……
「まだやる気か……!!」
当たり前だ、と狼角が起き上がるとその体は大きく膨れ上がり、さらに体表は毛で覆われ、爪は鋭く、牙は鋭くなっていき、その姿はさながら狼の獣人。
その姿へと変化した狼角は雄叫びを上げるとヒロムを睨む。
「本気で行くぜぇ?」
「なめやがって……まだ本気じゃなかったってか!!」
ヒロムは魔力の龍を出現させると狼角に向けて放つが、狼角はそれを爪で破壊するとヒロムに向けて走り出した。
「オマエはここで殺す!!
ダンナのため、「八神」のために!!」
狼角はヒロムに接近すると殴りかかるが、ヒロムもそれに対抗するように殴り返す。
先程までならヒロムが勝っていたかもしれない。
だが今の狼角が相手では力は互角、拮抗している。
「ぐっ……!!」
「オマエを殺さなければあの方は前に進めない!!
己の中の屈辱的な感情に支配されたままで未来には行けない!!」
「それはトウマのことか?
屈辱?こっちのセリフだァ!!」
ヒロムは狼角の言葉に反論するかのように叫ぶと狼角の拳を押し返し、蹴りを放つ。
「すべてを否定しておいてオレを殺そうとして、差し向ける敵はすべてこの有様!!
オレをなめてるにも程がある!!」
蹴りを放った直後にヒロムは両手に魔力を纏わせるとさらに狼角を殴り、自身から突き放すように殴り飛ばす。
が、それはダメージとして成立するほどの威力はなく、単に距離を離す程度の攻撃でしかなかった。
「オマエこそこの程度で……」
「見せてやるよ、オマエらが到達できない力を!!」
ヒロムが右手を天にかざすと、それに反応するように黒い炎が周囲に現れる。
「何!?」
黒い炎、それは狼角も聞いていない情報。
つまり、セラやディアナのような存在……
「……まだいるのか、新たな精霊が!!」
「……怒りすら許さぬ獄天より現れし黒炎。
光に抗いし敵意を焼き払い、我が道示す決意となれ!!」
ヒロムが口にした呪文にも似たその言葉、それに呼応するように黒い炎は激しく燃え、そしてそれは巨大な火柱となりながらヒロムのもとへと集まっていく。
「来い……「獄炎」フラン!!」