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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
魂霊装天編
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八〇話 氷誇



ソラがギンジとともに脱出しようとしている頃。



研究所の外は戦闘中とは思えぬ静寂さに包まれていた。



「な……」


目の前で起こっていることが現実なのかと疑うような眼差しでシンクを見る斬角。



見つめられているシンクはため息をつくと「竜装術・氷牙竜」によりできた翼を広げながら斬角を睨む。



「もう終わりなのか……?」


「バカな……ありえ……ない!!」


斬角は信じられないこの現状から目を逸らすように言うが、シンクはただ冷たく睨みつけ、そして身に纏う氷を大きくする。


「オレを倒すには物足りねぇな」


シンクの足下、そしてその周囲には先ほど斬角が呼び寄せたはずの手練の能力者たちが負傷して倒れていたのだ。


それを倒したであろうシンクは無傷だったのだ。


「あれだけいた手練を……どうして……」


「簡単な話だ……オレの方が強い、それだけだ」


シンクは氷の爪を持つ腕を構え、そして爪をさらに鋭くさせると狙いを斬角に定めた。


斬角もそれに対抗するように魔剣「ラース・ギア」を抜剣し、構えた。


「ふざけるな……!!

何をした!!」


「別に何も……?

オレはただ持てる力を最大限に発揮したのにオマエが連れてきたのはただ自分の実力を無駄に過信していた。

その差がこの結果を招いた」


「過信していた、だと?」


コイツらだけじゃない、とシンクは飛翔して加速すると爪で切り裂こうと攻撃するが、斬角はそれを魔剣で防ぐ。


が、シンクの発動している「竜装術・氷牙竜」はシンクの触れたものを凍結させる力を持つ。


例えそれが魔剣であってもだ。


シンクの攻撃を防いだ魔剣「ラース・ギア」は氷漬けになり、氷はそれを掴む斬角の手を巻き込もうとする。


「く……!!」


斬角はシンクの氷が、自身の体に侵食し始めてからでは遅いと判断すると剣を即座に捨てるが、それを待っていたであろうシンクは勢いよく斬角の体に氷の尻尾を叩きつける。


「隙だらけだな」


「……!!」


シンクは叩きつけた尻尾で斬角の体を上空へと投げると、巨大な氷塊をいくつもつくり、それを弾丸のように斬角に向けて放つ。


「避けてみろよ」


「……バカにするなぁ!!」


迫り来る氷塊を前に斬角は苛立ちとシンクに見下された屈辱的な感情とともに怒りを露わにし、赤い雷を纏うとそれを大きくして氷塊を砕いていく。


「……へぇ」

(さすがは「憤擊」。

怒りを力に変える能力なだけはあるな。

けど……)


「それ故に脆弱なんだよ」


シンクは氷の爪を鋭くするとともに翼を大きく広げ、周囲に無数の氷の槍を生み出す。


そして生み出したばかりの氷の槍を矢の如く撃ち放ち、追従するように飛翔していく。


「ナメるな!!」


上空へと投げられた斬角は体勢を立て直すと赤い雷を足下で炸裂させてシンクに向けて走り出す。


「脆弱?

このオレがか!!」


斬角はさらに怒りを募らせ、赤い雷を強く放出して向かってくる氷の槍を破壊し、シンクに殴りかかるが、シンクはその攻撃を爪を用いて防いでしまう。


「ああ、オマエは強い。

だがその能力は脆弱すぎる」


「なぜだ!!」


「貴様も理解しているはずだ。

その力の非力さを……己が持つ弱点を!!」


シンクは斬角の体に蹴りを放つとその場で回転して薙ぎ払うかのように尻尾で攻撃すると、続けて爪で赤い雷を引き裂いていく。


「な……」


「怒りを力にするのは結構。

だが、貴様の力が増すたびに貴様は冷静さを失っている!!」


シンクは爪を砕くと拳を強く握り、斬角の顔を勢いよく殴る。


蹴りを、尻尾による攻撃を、そして今の一撃を受けた斬角の体は次第に氷に覆われていく。


「なぜ……」


氷に覆われていく体からは体温が奪われていき、斬角の意識は徐々にではあるが薄れつつあった。


(意識が……こんなところで……)


「怒りに囚われた人間は勝利を掴めない……。

それ故に人は冷静さを忘れてはならないんだ!!」


シンクは斬角の体を掴むと地面に叩きつけるように投げ飛ばし、そして自身の纏う氷の翼をさらに大きくし、さらに高く翔び始めた。



「決めてやる……オレの一撃を!!」


研究所からかなり離れるほどの高さまで翔んだシンクは何度も何度も回転しながら勢いをつけて降下していく。


その回転により翼は形を変え、シンクの体を覆い隠すような巨大な槍となり、地上に近づくに連れて加速するとともに大きくなっていく。


「うおおおおお!!」


迫り来るシンク、それに抗うように斬角は受身を取ると薄れつつある意識の中で赤い雷を右手に集める。


「……オレは……負けねぇ!!」


「なら止めてみろ、斬角!!」


斬角に接近したシンクは身を覆う槍をさらに大きくさせ、斬角はそれに目がけて一点に集めた雷を解き放つ。


「アブソリュート・ゲイボルグ!!」


「おおおおおお!!」


互いの一撃、それが衝突しあうと周囲に衝撃が走り、研究所の建物を破壊し、倒れる能力者たちは吹き飛ばされていく。


負けてたまるか、互いに心に宿すのはその感情。


その思いに呼応するように力は大きくなっていき、限界に達したであろう二つの力は炸裂し、大きな光となってしまう。


「あああ!!」


「おおお!!」


まだ終わっていない、シンクも斬角も持てる力を出し尽くそうと力を放ち続ける。



そして……



***


外から鳴り響く轟音を聞いたソラはギンジとともに慌てて出口に向かった。


「な、なぁ……ソラの仲間は無事なのか?」


「大丈夫だろうけどな……。

アレでも強いからな、アイツは」


走っている二人だが、建物が急に大きく揺れ、足を止めてしまう。


「またか……」


「お、おいソラ!!

あれ……」


ギンジが慌てながら指をさしてソラに訴えかける。


ソラはギンジの指さす方を見て、少しばかり驚いてみせる。


「……ヤバいか」


ギンジが指さす方には出口に通ずる扉があるのだが、それは何があったのか壊されていて、出口は塞がれていた。



さらに揺れが激しくなり、それによる影響で天井が崩壊し始めたのだ。


「や、ヤバい!!」


「焦るな。

突破すればいい」


「どうやっ……」


ソラは銃を構えるなり走り出し、銃を出口に向けるなり銃口に炎を集めていく。


「走れ!!」



ソラに言われ、ギンジは走り出し、そしてソラは出口に近づくと同時に巨大な炎を解き放ち、塞がれた出口を爆破した。


「止まるな!!」


爆破した出口は煙により視界を妨げるが、その中を二人は走り抜け、外へと出た。


その先に広がる光景にソラとギンジは足を止めるなり見入ってしまう。


「マジかよ……」


銀世界とはこのことだろう。


破壊された建物や倒された能力者や警備兵は氷に覆われ、一面が凍結されていたのだ。


その氷だけの景色は内部から慌てて出てきた二人には眩しかった。



そんな中、ソラはあの男の姿を見つける。


「シンク!!」


「……あ? 」


ソラはギンジを連れてシンクのもとへと向かう。


安否が定かでなかったシンクだが、目の前にいるその彼は少し負傷したような状態ではあるが、別状はなさそうだった。


そんなシンクはまずギンジを凝視した。


「誰だそれは?」


「詳しくは後で言う。

何があった?」


ソラの問いに対してシンクは何も言わずに前方を指さした。



その先には大きな氷の柱が立っていた。



「?」


「……怒りに囚われた末路だよ」


ソラは氷の柱を見て、あることに気づいた。


その中に人の姿があるのを。


「コイツは……?」


「角王・斬角……誇り高き戦士だった男だ」


氷の柱の中に閉じ込められた斬角、その斬角も動く気配は全くない。


「……これで三人倒したんだな」


「三人?

中で角王と?」


「ああ、拳角と射角だ」


「なるほど、因縁の相手か……」


さて、とソラの報告を聞いたシンクはまずギンジに一言告げた。


「詮索は後回しにしてやる。

敵になりたくなければ邪魔だけはするな」


「任せとけ。

……で、何するんだ?」


「決まってる。

純粋な「魔人」の能力者を捕まえる」


何を言ってるのか、という反応を見せるギンジ。


だがそれを無視してシンクはソラに確認をした。


「情報は?」


「目当てのものはあったぜ。

それと……「ハザード・チルドレン」のこともな」


「何?」


これだ、とソラはタブレット端末を取り出すとシンクに投げ渡した。


シンクは受け取るなり情報を確認し、そしてギンジを見て何となくで理解した。


「……被験者なんだな、オマエ」


「ああ」


「なるほどな……。

まあ、人員は多くても困らねえか」


シンクはため息をつくと周囲を見渡し、そして二人に告げる。


「ここを去る。

次の目的のために、ここを離れる」


「次はどこへ?」


「……一度、あそこに向かうぞ」


シンクは一言言うと歩き始め、それに続くようにソラとギンジも続くように歩き始めた。





***

数日後。


ヒロムの屋敷。



リビング。


普段ならいるであろうヒロムがおらず、ガイは真助とともに服装を整えてソファーに座っていた。


ユリナたち女性陣の姿もなく、ガイと真助、そして客人が一人いるだけだ。


なぜヒロムがいないのか?


それはその理由ともいえるある人物が訪れているからだ。


「……ちっ」


客である男はこの屋敷の主であるヒロムの不在に少し不満があるらしいが、ガイは構うことなく話し始めた。


「急にお呼びしてすいません、蓮夜さん。

少しご相談がありまして……」


「あぁ?

アイツじゃなくてオマエがか?」


目の前の男・白崎蓮夜は面倒くさそうにため息をつき、そして続けるようにガイに言った。


「オマエに何か相談されるような覚えはねぇけどなぁ?

何の冗談だぁ?」


「ひどいですね……。

結構真剣な話ですよ」


ガイは蓮夜の言葉に対して真剣な眼差しで答えると、あることを持ちかけた。


「実はここにいる鬼月真助はバッツとの戦闘で武器を破壊されまして……。

願わくば彼の武器を手配していただきたいんです」


「それくらいオマエらの方で……」


「そうしたいんですが彼の能力「狂」に耐えれるだけの強度を持つ刀はオレたちじゃ調達出来ないんですよ」


「だがらオレに頼るってかぁ?」


そうですね、と蓮夜の言葉にガイは頷くとさらに話し始めた。


「彼の能力は今後の「天獄」の戦力として欠かせないほど強力ですし、彼がいればヒロムのために出来ることはより多くなります」


「……そのために力を貸せ、と?」


「出来れば、ですけどね」


「……いいだろう」


ため息をつき、しばらく間を置いた蓮夜はガイの頼みを承諾した。


蓮夜の返事にガイは意外そうな表情を見せ、蓮夜もそれに気づいたらしく説明し始めた。


「バッツの一件では何もしてやれなかったから協力してやるだけだ。

他に理由はない」


「わかりました」


「で、オレとしてはオマエらのリーダーに用があったんだが……」


「ああ……ヒロムは今出かけてるんですよ。

その……」


「どうせオレと会うのが嫌だって言ってたんだろ?

……アイツらしい理由だぁ」


「アンタとヒロムって仲悪いのか?」


真助は会話に割り込むように蓮夜に質問するが、蓮夜は答えるのが面倒くさそうな顔をして答えようとしない。


それを見兼ねたガイは蓮夜に代わって質問に対する答えを述べた。


「仲は悪くないんだが、如何せんヒロムが「姫神」のことに興味を示さないし、蓮夜さんは「姫神」のために尽力してくれている。

だから会うと家のこと言われるとか気にしてるんだよ」


「別に何も言わねぇのになぁ。

オレはただアイツのやりたいことを応援する気しかないのによぉ」


「本当ですか?」


「ああ、だから力になれる夕弦を向かわせたし、カルラも参加させた。

……これでも力になれる限りは力になりたいんだよ」


蓮夜の言葉を聞いたガイはただ聞くことしか出来なかった。


いや、口出しできそうになかった。


バッツとの一件では干渉しないでいた蓮夜だが、実の所はこうして心配しているのだと思うと何も言えなかった。



そう思ったガイは蓮夜にある話をした。


「……連絡をさせてもらった日の早朝、ヒロムは鬼桜葉王と戦闘をしてました」


「何ぃ?」


おい、と真助はガイのことを呼ぶと、今話そうとしてることについて忠告した。


「その件はヒロムから黙ってろって言われてただろ?」


「そうもいかないだろうし、この会話を伝えなきゃいい」


「……何の話だ?」


「ヒロムは負けてしまったんですが、鬼桜葉王はヒロムにある能力者について告げて消えたらしいんです」


「さらっと負けたこと報告されたが……その能力者は?」


「……「魔人」の能力者」


ガイの口から出た言葉、それを聞いた蓮夜は驚きを隠せずに立ち上がってしまい、そして確認するようにガイに質問した。


「……その能力者は純粋な「魔人」の力を宿した能力者のことか?」


「え、ええ……どうしてそれを?」


「飾音がバッツに憑依されてる時に微かな意識の中で見たのがその能力者らしい」


蓮夜の話し始めたのはガイが欲しかった情報だとすぐにわかった。


本来ならここで情報収集を頼もうとしていたガイだが、蓮夜はすでに知っていたのだ。


「その能力者は?」


「どこにいるかはわからないが、名前は分かっている。

東雲ノアル……それがその能力者の名前だ」


「……!!」


「これ以上は調べないとわからないが……」


頼みがあります、とガイは蓮夜に向けて頭を下げる。


そしてその状態のままあるお願いをしたのだ。


「アナタの立場上、「八神」を潰そうとするオレらに加担出来ないとは思います……ですが、その能力者、東雲ノアルについての情報を提供してもらえませんか?」


「何ぃ……?」


「オレらでは限界があります。

だから……」


「オレからも頼みますわ」


すると真助も嫌々ではあるが頭を下げると蓮夜に頼むように言った。


「武器の件もあるけど、こればかりはアンタらの方が優れてるはずだ。

だからこそ、少しでもいいから力を貸してほしい」


「オマエら……」


ガイと真助、理由は違えどこの二人は今蓮夜に頭を下げている。


想定外のことで蓮夜は少し戸惑っているが、ため息をつくと考え、そして二人を見て口を開いた。


「わかった。

力になってやる」


ホントですか、とガイは頭を上げて確認するように言うが、蓮夜は頷くと座り直した。


「とりあえず……今後について決める必要があるなぁ。

時間、いいよな?」


蓮夜の確認の言葉、それに対する返事はガイの中で既に決まっており、変わることはない。


「……当然!!」


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