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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
魂霊装天編
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七三話 拳王



「この……」


吹き飛ばされた葉王は起き上がるなりヒロムを睨み、そしてその新しい姿に舌打ちをした。



その表情からは余裕と呼べるようなものはなく、ただ苛立っているようにも見えた。


が、それはヒロムに対しての苛立ちではない、己自身に対するものだ。


「もっと柔軟な思考を持つべきだったなぁ……。

オマエが「ソウル・ハック・コネクト」で精霊の武器と能力を自在に操れるってとこから「クロス・リンク」にも他の精霊で発動出来るってことをなぁ……」


「反省会なら倒されてからにしろよ。

今楽に潰して……」


「今ので頭の中がスッキリしたわぁ……」


助かったわ、と葉王の表情に余裕が戻るとともに苛立ちが一切なくなった。


気持ちを切り替えた。

この一分にも満たないであろうわずかな時間の間に葉王はやってみせたのだ。


気持ちの切り替えなど容易いことではない。

普通にやろうとしても、心のどこかではわずかにでもそれが残り、気持ちを揺らがせることになりかねない。


だが葉王は違う。

葉王は気持ちの根本から切り替え、わずかな苛立ちも残すことなく平常に戻ったのだ。


厄介な相手だ、ヒロムはただそう思うしかなかった。


「オレとしてはスッキリしてもらわなくても良かったんだけどな!!」


ヒロムは全身に魔力を纏うと走り出し、葉王との距離を一気に詰めた。


が、葉王もそれについては驚いたような様子はなかった。


(さっきの「天剣流星」に比べれば遅い……が、決して速くないわけじゃない。

「天剣流星」が常時加速しながらも最高速を維持するのに対して、この「龍撃拳王」は初速が速いだけで加速度は低い……つまり)


「初速さえ見極めれば速度は問題ないなぁ」


「そうかよ!!」


余裕を見せながら分析する葉王にヒロムは勢いよく殴りかかるが、葉王はそれを避けると距離を離すように後ろへと跳んだ。


が、避けたとはいえかなり危なかった。

ほんの一瞬でも回避が遅れていれば攻撃を受けているところだったのだ。



「……初速さえ見極めれば動きは視認できるがあの攻撃力の前では油断出来ねぇなぁ」

(それに攻撃を放つ際の瞬間の加速……侮れねぇな)


葉王はヒロムの一撃の危険性を再認識するとともに構え、ヒロムの動きに対応できるようにしていた。


その一方でヒロムはその葉王の行動を警戒していた。

傍から見れば葉王のそれは戦闘に対してのものであり、そこまで警戒するほどではないと思うだろう。


だがヒロムが警戒するのは他に理由があるからだ。


それはヒロムが次々に出す手を葉王が一瞬驚くとはいえ、時間の経過とともに対処してしまっているからである。


バッツとの戦闘を潜入して見ていた葉王も知らないはずの「ソウル・ハック・コネクト」の真価も最初は驚きはしていたが、次第に適応し、そしてそれを凌駕した。


そして「天剣流星」もだ。

フレイとディアナのサポートを受けた高出力での攻撃も難なく攻略してみせた。


(ここで時間をかければまた「龍撃拳王」も攻略される。

そうなる前に……倒す!!)


ヒロムは構えるなり走り出し、そして加速すると同時に葉王との距離を詰め、拳に力を込め、殴りかかる。


「ワンパターンか?」


葉王はヒロムの攻撃を避けると、攻撃後のヒロムの隙を突こうと動き始める。


が、そんな葉王にも予想出来なかったことが起きた。

ヒロムは攻撃をかわされるとそのまま体を捻り、そこから勢いよく蹴りを放ったのだ。


「!!」


突然のことで反応が遅れた葉王は慌てて右腕で防ぐが、ヒロムの蹴りは葉王の腕に命中するなり魔力を炸裂させ、葉王を大きく吹き飛ばす。


「この……!!」


吹き飛んだ先で立ち上がるなり構えようとした葉王だが、その葉王の眼前にはすでにヒロムが拳を構えて立っていた。


「!!」


「オラオラオラオラァ!!」


葉王に構える時間を与えぬようにヒロムは次々に拳での攻撃を放ち、それらはすべて葉王に命中していく。



攻撃が命中し、追い込まれていく葉王。

だがたはだ攻撃を受けて終わるはずもない。


「調子に乗るなよぉ!!」


葉王はヒロムが拳で殴ろうとした一瞬に生じた隙を埋めるように自分の前に魔力の盾をつくり、ヒロムの拳を防いでしまう。


「!!」


「いつまでも優勢でいられると……」


「……ラァ!!」


防がれた拳でヒロムがもう一度魔力の盾を殴ると、今度は防ぐどころか盾を砕き、そしてその勢いを維持したまま葉王の体に重い一撃を叩きつける。


「な……!?」


「それで止めれると思うな、ボケが!!」


ヒロムは右手の拳に力と、そして魔力を集中させると葉王にさらなる一撃を叩き込み、さらに左手も同じような状態にすると両手の拳で怒涛の連撃を放つ。


「オラオラオラァ!!」


「コイツ……」


葉王はヒロムの攻撃を受ける中である変化に気づいた。


いや、もはや気づかないとおかしいことだ。


(最初の一撃から攻撃の威力もスピードも上がってやがる……!!)


ヒロムの猛攻の中で葉王は何度も防ごうと試みるが、それを妨げるようにヒロムの攻撃が命中し、たはだダメージが葉王の体に蓄積され、同時にヒロムの一撃が威力を増していたのだ、



(ありえない……!!

こんなことが……!!)


「決めるぞ、鬼桜葉王!!」


ヒロムは両手の魔力をさらに大きくし、そしてそれらに龍の形を与えると両手の拳で同時に葉王を殴った。


「!!」


「轟龍絶衝撃!!」


龍が雄叫びを上げたかのような轟音が鳴り響くとともに魔力の龍が葉王に向かって襲いかかる。


龍は葉王に食らいつくと次々に炸裂し、葉王を大きく吹き飛ばし、そしてあの葉王に大きなダメージを与える。



何度も地面を転がるようにして飛んでいく葉王。

その全身は明らかにボロボロになっていた。


これまでヒロムの攻撃を受けても平然とし、攻撃を受けても大した成果を感じられぬほどに無傷だった葉王が負傷している。


「ああ……くそ……」


葉王は何とかして立ち上がると、ヒロムはそんな葉王に対して攻撃を放てるように構えていた。


が、葉王はなぜか笑い始めた。

何がおかしいのか、何が彼をそうさせるのか……


「何がおかしい!!」


葉王のそれが何を意味するのかわからないヒロムは両手に魔力を纏わせると走り出し、またしても急接近して拳を構えた。


だがそこで、葉王との距離を縮めたことでようやく理解出来た。


葉王はただヒロムのことを無邪気な笑顔で見ていた。

まるでこの状況を楽しんでいるかのように、それは遊び道具を与えられる時の子どものような無邪気な笑顔だった。


その無邪気な笑顔はヒロムにとっては何にも例えられないほどの恐怖でしかなく、焦りを与えるだけだった。


「とどめ……」


「……エンド」


ヒロムが葉王に攻撃を放つその瞬間、葉王が一言呟く。


それを聞いたヒロムは音もなく全身がボロボロになり、そして何かに衝突されたような痛みに襲われながら吹き飛ばされ、廃工場の壁へと叩きつけられてしまう。


「がはっ……!!」


壁へと叩きつけられたヒロムはさらなる激痛に襲われ、それに伴って「クロス・リンク」が解けて元の姿に戻ってしまう。


元に戻ったことでヒロムと一体化していたマリアとランファンはヒロムの中から外へと投げ飛ばされ、そのまま倒れてしまう。


が、意識を失ってはおらず、何とかして立ち上がろうとしている。




「……オマエは本当に面白いヤツだよ、姫神ヒロム。

このオレがオマエみたいなヤツに能力を使うのは初めてだ」


葉王は首を鳴らすとヒロムのもとへ向かうようにゆっくりと歩き始めた。


が、よく見るとその葉王はヒロムの一撃で負傷していたはずなのに、その体は一切のダメージがなく、何事もないかのように綺麗な状態だった。


「く……そ……!!」



壁へと叩きつけられたヒロムはどうにか構え直すと、目の前で何が起きたのかを整理しようとした。


(ヤツは何をした?触れられたのかオレは?

なんでアイツは一瞬で回復した……なんで……)


「なんでだ……!!」


「なんでだろうなぁ?」


ヒロムの言葉に反応したかのように葉王はヒロムの目の前へと瞬間移動したように現れ、そしてそこからヒロムの首を掴む。


「がっ……!!」


抵抗しようとヒロムは葉王の腕を掴もうとするが、それに気づいたのか葉王はヒロムを壁へと叩きつける。


「!!」


「少しは落ち着けよぉ?

オマエが抵抗しようとしても無意味だ」


「何を……言って……」


「少し加減するのをやめればこれだ。

わかるか?オマエにはオレを倒すことは不可能なんだよ」


葉王の言葉から感じ取れる殺気、それとは別にヒロムの首を掴む手から伝わってくる恐怖に近い何かをヒロムは肌で感じていた。


それによるものなのか、ヒロムの中で抵抗しようとする意思はなくなっていた。


「……よし、それでいい」


葉王はヒロムの抵抗する意思がないことを確認すると手を離す。


首を掴む手が離されたことで自由となったヒロムは地面に倒れ、その状態から見上げるようにして葉王を睨んだ。


「そう怒るなよな。

オマエが本気にさせたんだからなぁ?」


「てめぇ……」


「さて、オレに能力使わせたとなればカズキも納得するだろうし、今日の目的は果たせたな」



じゃあな、と葉王は突然ヒロムに背を向けるとここから去ろうと歩き始めた。


その葉王の行動が許せなかったヒロムは必死になって立ち上がろうとし、そのための時間を稼ごうとするかのようにフレイたちが葉王の行く手を阻む。


さらにマリアとランファンは立ち上がるとヒロムのもとへ駆けつけると肩を貸した。


それにより何とか立ち上がれたヒロムだが、戦闘を継続できる状態ではなかった。


「……そんな姿でも諦めねぇってか」


葉王は歩みを止めるとヒロムのその無様な姿を目にし、ため息をついてしまう。


「やめとけよ、今のオマエじゃ勝ち目はない」


「黙れ……」


「そうだなぁ……いいこと教えておいてやるか」


すると葉王は魔力で玉座をつくるとそれに腰掛け、そしてヒロムに対して語り始めた。


「今のオマエは本気になれば「十家」の当主にも負けない実力を持っているからなぁ。

あのトウマにも負けないかもなぁ」


「アイツはオレが倒す、邪魔するなら……」


落ち着け、と葉王はヒロムに一言言うと続けて説明した。


「さっきも言っただろぉ?

オマエらがやり合って生まれる結果を求めてるってな。

邪魔するどころか手引きしてやるぞ?」



「バカにしやがって……」


「で、だ。

オマエに教えてやるのはある能力者についてだ」

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